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#50人クラフト
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「いっくん、荷物貸して」
会場に入るなり、ウマヅラハギが当たり前のように寄ってきて手を差し出した
「え? いいよ、自分で持てるし」
「ニコちゃん抱っこしてるじゃん」
「でも――」
「俺がお兄ちゃんだから」
「何それ」
いっくんは呆れながらもバッグを渡した
その腕の中では仁湖がきょろきょろと辺りを見回している
「ニコちゃん、今日は人多いねぇ」
「きゃー」
「可愛いなぁ」
頬を緩めるウマヅラハギに、周囲から笑いが漏れる
昼食時も同じだった
「いっくん、ご飯食べた?」
「まだ」
「なんで?」
「ニコ寝てるし」
「だから?」
「起きたら食べる」
「ダメ」
即答だった
「今のうちに食べなよ」
「過保護か」
「親友だから」
その後も、
「お茶持ってくる」
「ありがとう」
「寒くない?」
「平気」
「ほんと?」
「ほんと」
と、ずっと隣
仁湖が起きれば抱っこし、いっくんが席を立てば荷物を見張り、まるで保護者だった
「ウマヅラハギ」
KUNが呆れたように声をかける
「ん?」
「お前いっくんの隣から離れてないよね」
「親友だから」
「それさっきも聞いた」
「ニコちゃん可愛いし」
「それも聞いた」
周囲から笑い声が上がる
「家族みたい」
誰かがぽつりと呟いた
「確かに」
「もう夫婦じゃん」
「ウマ14だ」
「違うから!」
ウマヅラハギが慌てて否定する
けれど、仁湖を抱くウマヅラハギとその隣で笑ういっくん
傍から見れば完全に家族だった
その頃スマホを見ていた893の眉間に皺が寄る
【ウマ14】
【ニコちゃん可愛すぎ】
【完全に家族】
【ウマヅラハギ、いっくんの隣固定】
「……は?」
スクロールする
【ニコちゃん抱っこしてる】
【パパじゃん】
【結婚しろ】
「は?」
もう一度見直す
内容も意味も変わらない。
【家族みたい】
「家族?」
スマホを握る手に力が入る
「ふーん」
全然ふーんではない
「そういうこと」
立ち上がる
「なら直接聞けばいいか」
数十分後
会場の扉が開いた
「いっくん」
聞き慣れた声に、いっくんの身体がびくりと震える
「893!?」
全員が振り向いた
「なんでいるの?」
893は答えない。ただまっすぐいっくんを見る。その視線だけで空気が張り詰めた
「なぁ、いっくん」
一歩
「……893?」
さらに一歩
「あれだけ俺に抱かれて鳴いてたのに」
空気が凍る
「ウマヅラハギにピッチングしてもらってまで子供欲しかった?」
誰も動けない
「それなら俺が堕としてあげたのに」
いっくんの顔から血の気が引いた
「いっくんは酷いね?」
「ち、違――」
「痴話喧嘩に巻き込むな!!」
KUNの怒声が響いた
「は?」
893が振り返る
KUNの腕の中には威嚇フェロモンをくらい青ざめたウマヅラハギ
「痴話喧嘩?」
「そうだよ」
珍しく本気で怒っている
「いつくんは元々Ω」
893の表情が止まる
「好きな男騙してでも子供が欲しかったんだと」
沈黙
「……いっくん?」
「あ、う……」
いっくんは答えられず、視線も泳いでる
「それに」
KUNは続ける
「いっくんはお前のフェロモンでヒート起こしかけてる」
893の瞳が見開かれた
「部屋取ってるんだろ」
「……あぁ」
「ならそこで話せ」
ウマヅラハギが抱く仁湖を見る
「ニコちゃんは預かっとくから」
「KUNさん……」
「行ってこい」
有無を言わせない声だった
部屋の扉が閉まる
静かだった
いっくんはベッドの端に座り込み、顔を伏せている
「いっくん」
返事はない
「いっくん」
もう一度呼ぶ
「……ぁに」
掠れた声
893は少しだけ息を吐いた。
「そんなに俺のこと好きだったの?」
「ごめんなさい」
肩を振るわせながらの小さな謝罪
893は苦笑した
「違う」
ゆっくり近付く
「いっくん」
俯いたままのいっくんへ手を伸ばす
「謝るんじゃなくて聞かせて?」
その声は優しかった
だからこそ、耐えられなかった
「ぅ……」
涙が零れる
「好き」
ぽつり
「好きだった」
また一粒
「好き、だから」
嗚咽が混じる
「嘘吐いて抱いてもらった」
肩が震える
「一回だけでもよかった」
涙が止まらない
「子供だけでも欲しかった」
893は何も言えなかった
怒りはもうどこにもない
目の前にいるのは、自分を騙した相手じゃない
ずっと一人で抱えて、ずっと言えなくて、ただ好きだった相手だった
「……いっくん」
静かに呼ぶ
「仁湖は俺の子?」
いっくんの涙で濡れた瞳が揺れ
そして小さく、小さく頷いた
コメント
3件
うわあ……。この第16話、読み終わってしばらく息が止まってました。 893が「謝るんじゃなくて聞かせて?」って言った瞬間、もう胸が締め付けられましたね。怒りや嫉妬を全部飲み込んで、いっくんの本当の気持ちを受け止めようとする893の優しさが、逆に切なくて。それで最後の「仁湖は俺の子?」からの、いっくんの小さな小さな頷き……あれ、何も言わなくても全部言ってる感じがして、読み終わった後もしばらくそのシーンが頭から離れなかったです。 それに、KUNがウマヅラハギを庇う形で「痴話喧嘩」を止めたのも効いてましたね。今までコミカルな存在だったKUNがここで本気を見せる構成、好きです。 次話、どう転ぶんだろう……893のフェロモンでヒート起こしかけてるって伏線もまだ残ってますし、目が離せません。続き、すごく気になります。