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村外れの小さな館に、男が一人訪れる。その館は数年前飛び降り自殺があったため、人々は近寄らなかった。男は、まるで自分の家かのような足取りで館を周り、ある部屋の前で足をとめる。部屋の中、机には色々なものが無造作に置かれたままだった。男はそれを見て苦笑しながら、あるものを手に取る。それは古びた手記であった。ページをめくる。
なぜ、彼は変わってしまったのだろう。俺は彼の、あの少し冷ややかで、でもなぜか安心するあの青い目が好きだったのに。彼のあのきれいな青い澄んだ瞳が欲に濡れ、俺を求めてくるのを見るのが好きだったのに。
近頃の彼は何かおかしい。俺が他人と話すのを嫌がるようになった。俺が視界から消えることでさえ強い不快感を感じるようで、顔をゆがめるようになった。ついには「家から出ないでくれ」と懇願し俺を縛る。俺のためだけの別荘まで用意して。
それ自体が嫌なわけではないのだが、俺を見る彼の瞳が以前と変わってしまっているように感じるのだ。彼のあの瞳が時折、狂気じみた緑色に染まってしまう、そんなときがある。もちろん、本当に瞳の色が変わっている訳ではない。ただ、そう見えてしまうのだ。
あぁ、なんと嘆かわしいことだろう。彼からあの青が消えてしまうなんて。
最近はずっとそうだ。俺の愛した碧眼は見る影もなく、そこには出口のない森の様な深く沈んだ緑があるだけ。それが嫌で仕方なくて。それから俺は緑が嫌いになった。見たくも無いと思った。だから家中の鏡を割って、砕いて周った。俺は髪も、目玉さえも緑色だったから。
そうだ、こんな物のせいだ。彼の目が緑に見えるとき、彼は必ず俺を見ていた。彼の瞳に映っていたのは俺。俺が彼の青を穢した。あんなにも綺麗だった宝石を石ころのようにしてしまった。全て俺のせい。彼を穢してしまった。俺は大罪を犯したのだ。この罪を償う方法は一つだけ。
彼の目の前から永遠に消えること。
俺のような大罪人を愛してくれた彼には、もっと素敵な人との出会いがあるだろう。彼にはたくさんの魅力があるから。あぁ、でも もしこの手記を読んでくれているのなら、最後に一つ。
緑色の目の怪物に気をつけて。
読み終わったとき。男は静かに涙を流した。大粒の涙を、手記に零さぬよう天を仰ぎ目を見開いた。男の瞳は、水晶のように透き通った青色であった。