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翌日、免許を受け取った俺は異界探検協会へと向かった。異界に入るには許可証が必要だからだ。それにも金が必要だったが、三千円だったのでギリギリ足りた。
「しかし、壮観だな」
特殊狩猟者免許を見せ、色々と面倒なことを書き終え、漸く異界探検協会の登録証を得た俺はそこを出てから直ぐの景色を見た。
「沢山、死んだ……か。思ったよりも死んでそうだな」
ここは千葉の下側、館山市と南房総市の間くらいの場所だが、人の支配圏だったことが信じられない程の有様になっている。
「これが、異界か」
旧白浜異界、そう呼ばれているこの場所は、遠目から見ても分かるほど旺盛な自然が溢れていた。
「まるで密林だな」
熱帯雨林の如き有様だが、蒸すような暑さは伝わってこない。ここから数キロ離れているというのに直ぐそこにあるかのような存在感。正に現代に現れた異物だ。
「しかし、まだか」
俺がここで突っ立っているのは新人向けに現地での講習があるらしいので一応参加しておくことにしたのだ。戦闘面での不安は無いが、異界内でのルールやマナー、暗黙の了解なんかは知っておきたい。正体に気付かれ、魔術に気付かれ、力に気付かれ、もう既に三回もトラブルが起きているのでこれ以上は流石に起きないようにしたい。
「あ、すみません。お持たせいたしました。老日さんですよね?」
「老日です」
しっかりと革の装備を着込んでいる若い男。その背後には数人の男女が居る。
「それでは全員揃いましたので、早速向かおうと思いますが……老日さん、武器の類はお持ちでしょうか」
「あぁ、ある」
俺がそう言うと、男は特に突っ込まずに頷いた。しかし、そうか。俺は背嚢も武器も持っていない。武器に関しては服の内側に隠しているとかで言い訳が付くが、バッグが無いのは少し不自然に映るだろうな。
「出発します。体調不良や何か異常があれば直ぐに伝えて下さいね。下手な遠慮は死に直結しますから」
俺は頷き、生い茂る密林を見た。
♢
二十分ほど歩き、俺たちは異界に辿り着いた。歩いてる間、皆は色々と話していたが、俺は一言も発することは無かった。話も振られなかった。
「さぁ、着きましたよ。ここが旧白浜異界です。広さは五十平方キロメートル以上で、多種多様な魔物が出現しますが、傾向としては自然生物型が多いですね」
自然生物型、それはコボルトやゴブリン、リーフウルフなどの生物として自然に存在している魔物を指す言葉だが、その分類は曖昧だ。何故俺がこんなことを知っているかと言えば、例の試験場で教材を丸暗記したからだ。
「入る前に全員自己紹介をしておきましょうか。自分は今回の講習で講師というか、引率役を務める|青木《あおき》 |智《さとし》です。よろしくお願いします」
青木は先頭の男に目を向けた。
「どーも、砂取《さとり》 正輝《まさき》。結構筋トレとかもしてるし、喧嘩もケッコー強い方。ヤバかったらオレに頼っちゃって良いからさ。よろしく」
金髪で、確かに多少筋肉がある男だ。歩いている間の話を聞いている限り大学生のようだ。
「小戸《おど》 啓政《けいせい》です。俺は運動とか、えぇと、苦手ですけど……よろしく」
ぼさついた黒髪で、何故か制服の男だ。さっきの男とは違い、高校生らしい。
「塩浦《しおうら》 美咲《みさき》。よろしくね」
黒い長髪の女だ。こいつも高校生らしいが、あまり喋っていなかったので詳しくは分からない。
「乙浜《おとはま》 天利《あまり》です! 美咲ちゃんと黄鋳《きい》ちゃんとは友達で、小戸君も同じ高校で、他の皆とも無事に仲良く講習を終えられたら良いなって思ってます! 今日が楽しみで若干寝不足ですけど、頑張ります!」
ポニーテールで、やたら活発な女だ。自分でも言っているがこいつも高校生だ。
「杖珠院《じょうじゅいん》 黄鋳《きい》。私は誰とも仲良くするつもりないです」
「黄鋳ちゃん! ダメだよ、嫌われちゃうよ?」
協調性の欠片も無いことを言っている短髪の女。反抗期だろう。
「野島《のじま》 賽《さい》、元警察だ。仕事柄、何度か魔物の相手をしたことはある」
三十代くらいの男。険しい表情には幾つか傷が刻まれている。こいつは俺と同じで一度も喋っていなかった。
「老日……老日 勇です。よろしくお願いします」
フルネームを言うのを躊躇ったが、どうせ協会側の青木には知られている。隠してもしょうがないことだ。
「これで全員ですね。皆さん、準備は良いですね?」
異界に入る一歩手前で青木は止まり、問いかける。全員が肯定の意を示した。