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・:.。.・:.。.



社長室の横の壁に耳をピッタリ引っ付けて一部始終を聞いていた桜の心臓は今はバクバクと鳴り、喉がカラカラに乾いた



たいへん! 社長がビザの申請ミスで国外退去!?あの強欲な大株主達にこの会社がのっとられる?



この会社があの強欲な株主達のものになったら、私達社員はどうなるの!? リストラ? それとも・・・会社自体が切り売りされる!?




桜はジンの元でこの会社の成長を間近で見てきた、ジンの情熱や社員達の努力、そして御堂筋の一等地に輝くオフィス――それらを桜は全て愛していた



それが一瞬で崩れ去るなんて・・・自分の想像に桜の膝が震えた




そりゃ・・・ビザの申請ミスをした社長が悪いのは分かる・・・顧問弁護士がひっきりなしに電話をしてきていたのはこの事だったんだ、ああっ・・・私がもっと弁護士の連絡を真摯に受け止めていれば




でもでも、そんな事言ってられない!社長が国外退去って・・・桜がポツリと一言つぶやいた



「どうしよう・・・」





・:.。.・:.。.




「ハイ・・・ハイ・・・そうですか・・・それではまた・・・」




顧問弁護士との電話を切ったジンは「ハァー」と大きく息を吐き、ドサッと社長室の革張りの椅子に座り込んだ



八方ふさがりだ・・・例え再び書類申請し直したとて、1年間は日本にビザが無いのでは住めない・・・ということは本国へ帰らないといけない・・・



ジンは考えた、一年間たとえ海の向こうからWEB会議で社員に韓国から指示を出すとしても、現場にいなければ話にならないし、あの強欲な大株主達はジンがこの会社にいなくなれば、忽ちここをどこかの会社と合併なり、売り飛ばしてしまうだろう



デスクの上でハマバのアイスラテが汗をかき、氷はすっかり溶けて上部はただの水になっていた。ジンの頭は嵐のように乱れ、まるでバグだらけのコードをデバッグするような混乱状態だった



「なんてことだ・・・」



ジンは呻くように呟いた・・・だが、それ以上に自分を責める声が脳内でエコーした



どうして書類をもっとはやく確認しなかったんだろう・・・顧問弁護士がうるさく電話をかけてきていたのもこのせいだったのだ



彼は拳を握り、デスクをコツンと叩いた、家族を失って、会社だけが自分の生き甲斐なのに・・・



この国で築いてきた全てが、こんな手続きひとつで崩れるなんて!



ジンの脳裏には、ソウルの狭いアパートで夜通しコードを書き続けた日々がフラッシュバックした



蛍光灯のチラつき、インスタントラーメンの匂い、そして画面に映る日本アニメのポスター・・・



子供の頃、ソウルの小さなテレビで観た『攻殻機動隊』に憧れ、日本でITの夢を追うと決めたのだ、だが家族を事故で失ったあの夜から、ジンの心にはぽっかりと穴が空いた



この「WaveVibe」だけは自分の命だ、御堂筋にオフィスを構えるまで苦労して這い上がったのに・・・そもそもこのままでは日本に住めない、こんな終わり方、絶対に納得できない



「くそっ! このまま母国へ帰るしかないのか?」




ジンは悔しそうに髪をガシガシと掻きむしった、ソウルに帰って自分の持ち株で新しく会社を設立する?今更?また一からやり直す? 絶対に嫌だ!



彼の目は一瞬で絶望に揺れていた、そしてすぐに社員達の顔が浮かんだ




自分の事よりまずは社員の事だ、自分がいなくなっても、せめて社員だけは守ってやりたい




絶対に! あの強欲な株主達に会社を渡したら・・・いったい今まで自分のために働いてくれていた社員達はどうなるだろう




自暴自棄になりかけたその瞬間、ドアが控えめにノックされ、桜がトレイ新しいアイスラテを持って入ってきた



「社長・・・新しいアイスラテ・・・お持ちしました! ほ、ほら、今日は暑いですし、気分転換にどうぞ!」




彼女の声は少し上ずり、いつもの明るさがややぎこちなかった、彼女はトレイを両手でガッチリ握り、まるでそれが命綱のようだ



「あっ・・・ああ・・・ありがとうございます、ちゃんと経費で落としてくださいね」




ジンは桜を見上げ、疲れた目で微笑んだ



そこでふと思った




そうか・・・日本人の女性と結婚すれば、配偶者ビザでこのまま日本に残れるな・・・



ふとそんなアイデアが疲れた脳に浮かんだ、とても良いアイディアに思えた



日本人女性と結婚すれば会社もこのまま安泰、自分がCEOで株主達も安心していつもどおり、ジンの会社に投資するだろう



だが、すぐに自嘲の笑いが漏れた



冗談じゃない! こんなタイミングで日本人の婚約者なんて都合よく出来る訳ないだろ!



ジンは自分の顔を思い浮かべてため息をついた、敏腕CEOとか言われてるけど、このキツイ顔に大きな体格は女性を怖がらせる、自分は女性にモテない、それは嫌と言うほど自覚している




ジンは過去の合コンの時の事を思い出した、偶然ジンの隣の席の女性が「席替えしよっか?」と遠回しに逃げ出したあの夜のトラウマが蘇り、肩がガクッと落ちた




今からお見合いしたって、明日までに婚約者なんて絶対無理ゲーだ!




「ハァー・・・」と大きくため息をついて頭を抱えた




・:.。.・:.。.



桜は彼のデスクにアイスラテを置いたまま、なんとなく去りがたくてじっとジンが物思いにふけって百面相をしているのを見つめていた



・・・ずいぶんこたえていらっしゃるみたいだわ・・・




無理もない、このままでは『WaveVibe』の存続の危機だ、この社長以外にこの会社を切り盛り出来る人物はいない、あの強欲な株主達に会社が渡れば、自分達の安泰の地もなくなる




コトッ・・・と音を立てて、桜がデスクの向かいに新しいアイスラテを置いた



「社長、いつもよりシロップ多めにしておきました」



彼女はニコッと笑ったがその笑顔はどこか緊張感に満ちていた




その瞬間、ふいに二人の目がバチッと合った



ジンの切れ長の三白眼の瞳が何かを語る様に桜をじっと見つめる



社長室に妙な沈黙が流れた・・・



桜もじっとジンを見つめ返してくる、彼女も何かを言いたげだ、その時ふとジンは思った




―このも・・・日本人だよな・・・―




ジンの脳が追い詰められてショート寸前で暴走した



―ダメだ・・・こんな空気、耐えられん! 何か言わなきゃ!―




自暴自棄のスイッチが入ってジンはフゥッと息を吐いて、突然口を開いた




ボソッ「山田さん、上司命令だ! 君は僕のヨメになる!」




シ・・・ン



オフィスの空気が一瞬で凍りついた、ジンは自分の発言にハッとし、プイッとそっぽを向いた



― 何だ? 何でそんなこと口走ったんだ、僕は?―




ジンの心臓が途端にバクバクと暴れ出し、額に冷や汗が滲む、目の前の書類が急に霞んで見えた



「なぁ~んてね、冗談です! ハハッ、冗談、冗談! 忘れてください!」




彼は慌てて両手を振って誤魔化した、だが、声はどこか上ずって普段の冷静なCEOの姿はどこにもなかった、ジンはデスクの書類をガサガサと弄り、平静を装おうとしたが、動揺して指先が震えているのが自分でも分かった




やべ! 何を言ってんだ、僕は!




いくらビザ問題で追い詰められているとはいえ、頭がパニックになり、つい自暴自棄に冗談を口にしてしまった、こんな時にふざけてる場合じゃない、会社を・・・社員を守らなきゃいけないのに!



「まったく冗談言ってる場合じゃないですよね!ほ、ほら、明日までに株主に「経営管理ビザ」問題の解決策を出さないと・・・もういいですよ、山田さん、行って下さい」



彼女がどんな顔をしているのか怖くてまともに見られない、もし、セクハラで訴えられたら・・・!




あの強欲な株主たちに頭を下げるよりも、彼女に軽蔑した冷たい視線を投げられる方がよほど恐ろしい気がした



頼む、笑って流して早く出て行ってくれ、山田さん・・・!




ところが、桜はまだ社長室の真ん中に立ったまま、一歩も動かずその場に固まっていた



彼女の目はジンをガン見し、唇が小刻みに震えている




え、なに? 怒ってる?ショック受けてる?



ジンの背筋に冷たいものが走った、今の彼女は・・・まるで何か大きな決意を秘めたような、キラキラした目でこっちを見ている



「承知しました!」




突然、桜がキッパリと言い放った、桜はタブレットを胸に抱き、頬をほのかに染めながら続けた。彼女の声は少し震えていたが、どこか力強かった




「私、社長と結婚します!」


「はぁ!?」




ジンは椅子からズリ落ちそうになり、慌ててデスクを掴んだ、心臓が喉から飛び出しそうだった


「ちょ・・・ちょっと待って、さっきのはホントにジョークだから! ほら、ビザのことで頭パニックで、ついふざけただけなんだ! どうか気にしないで!」



ジンはさっと立ち上がり、両手をバタバタ振って弁解した、しかし桜の目はキラキラと輝き、まるでヒーローを見る少女の様だった、その視線にジンの胸が妙にざわついた




「社長、上司命令ですよね? 私、社長の右腕として、どんな命令も従います! 会社を守るためなら・・・」



彼女の覚悟に満ちた表情に、ジンは一瞬言葉を失った、右腕・・・? いや、確かに彼女の能力はそうだけど・・・




桜の真っ直ぐな瞳に射抜かれ、ジンはなぜかドキッとした




「私! あなたのヨメになります!」


「えっ??」




彼女の頬に浮かぶ薄いピンクが、普段の天然な笑顔とは違ういかにも真剣な眼差しがどこか愛らしい雰囲気を醸し出していた




「いやいやいや、従わなくていい! ホントにいい! 命令取り消し! 取り消し!」




ジンの顔は真っ赤になり、なんとか話題を変えようと必死だった、だが桜は一歩前に踏み出し、決意を固めた表情でさらに詰め寄ってきた




彼女のパンプスの踵が軍隊の様にカツンと床を鳴らし、その音がジンの心臓をさらに煽る



「このままでは、あのハゲタカ株主達にこの会社を乗っ取られてしまいますよっ! それでもいいんですか?」



ぐっ・・・とジンは顎を引き締めた、それを言われると身も蓋もない、正論の桜の言葉は、まるで鋭い矢のように彼の胸を突き刺した




確かに・・・彼女の言う通りだ・・・




ビザ問題が解決しなければ、この会社はジンよりも大半の株を保有している株主達の餌食になるかもしれない、5年間、血と汗を流して築き上げたこの場所が、他人に奪われるなんて・・・考えたくもない




しかし、だからといって、こんな突飛な方法を彼女が承諾するなんて、明日までにジンのビザ対策が、こんなヨメ問題にまで発展している、ジンは軽くパニックになった




「 社長! 結婚といっても、形だけのものです、籍を入れるだけでいいんです! そして社長の「経営管理ビザ」の申請問題が解決できて、みんなに怪しまれない時期になったら離婚すればいいんです!」




「結婚して・・・り・・・離婚?」




オフィスの喧騒が遠く聞こえる中、桜の真剣な声が彼の耳に響き続ける、彼女の言葉は、冗談のはずだったジンの一言を、まるで運命の歯車のように動かし始めていた




桜の勢いは止まらず、彼女の目にはまるで新しいアプリの企画をプレゼンする時のような情熱が宿っていた




この子は、いつもこんな風に仕事に本気なのに・・・なんで今、こんなことに本気なんだろう?




「とにかく! 今は社長には日本人女性の手助けが必要です! 夕方までにこの解決策案を打ち出して、社長にプレゼンテーションさせていただきます!」



桜はそう言い切ると、まるで戦士のような気迫で胸を張った。彼女のその姿にジンは一瞬言葉を失った、彼女の案は無謀で突飛だったが、どこかジンの行き詰まった孤独な心に温かい風を吹き込むようだった




つい勢いでまくし立ててしまった桜だったが、ふとジンの顔をマジマジと見つめた、彼女の頬が再びほのかに赤らみ、一瞬だけ二人は見つめ合った




そしてハァ~・・・とジンは青ざめて大きなため息をついた





「こんな即興なとんでもない案に乗ろうとしている自分が、どれだけ切羽詰まっているか、つくづく思い知らされているよ・・・」




ジンは桜の顔を改めて見つめた、彼女のキラキラした瞳になぜか胸が締め付けられる、複雑すぎてもう何も考えられない




「それでは夕方までに企画書を作成して、またご連絡させていただきます!」



「そこまで言うなら見せてもらいますが、無理でも全然かまわない」




ジンの最後の言葉を無視し、桜は慌てて社長室から逃げ出した。ドアを閉める瞬間、彼女はチラリとジンを振り返った




オフィスの窓から差し込む御堂筋の陽光が、彼の赤い耳と、どこか困惑して肩を落とした後ろ姿を照らす、その姿が桜の心に同情心を焼き付かせた






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極上韓国CEOと私の偽装国際結婚~半年後に幸せな離婚を目指して~

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