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花火が終わり、人混みを抜けて若井の家に戻った頃には、空気はすっかり湿り気を帯びた夜風に冷たさを増していた。


だけど2人の心臓はまだずっと、さっきまでの花火みたいに鳴っていた。


下駄を脱ぐと同時に、元貴が帯をゆるく結び直した浴衣の襟元をはだけさせて、吐息をつく。





「はー……滉斗、なんか暑いな」


「そりゃそうだろ、あんだけ暴れてたら」


「……何が?」


「……祭りで、だよ。」





目が合った。

途端に2人とも笑う。

でもすぐに、その笑いは少しだけ照れたような苦笑に変わる。


神社の境内でお互いを飲み込むように抱いた記憶が、すぐ近くに生々しくある。

触れた感触も、吐息も、声も。

忘れるどころかむしろ焼きついて離れない。


元貴が、ぱっと身を翻すようにして背を向ける。





「ごめーん、ちょっと風呂入るわ」


「うん、いいよ」


「汗かいたし、…いろいろ拭きたいし」


「……そ、だな」





風呂場へと小走りに消えていく元貴を見送ると、若井は手持ち無沙汰にリビングでペットボトルの水を煽った。

火照った喉に冷たい水が流れていく。

それでも全然、冷めなかった。


——ごくん、ごくん、と水を飲み干してから、ゆっくり息を吐く。

耳を澄ませば、風呂場からシャワーの音が聞こえる。

その向こう側に元貴がいる。

さっきまで乱れて、啼いて、甘えた声を漏らしてた元貴が。





(……やべえな)





想像しただけで、下腹が重くなる。

あの時の顔。

帯を乱して、髪が頬に貼りついて、泣きそうに喘いだ声。


慌てて目を逸らす。

気を紛らわせようと立ち上がって、脱衣所にタオルを取りに行った。


棚からふわふわのバスタオルを取り出して、そっと風呂場の引き戸の前へ。





「元貴ー、タオル置いとくからー」


「ありがとー!」





くぐもった声が聞こえる。

湯気で湿った空気が、隙間から少し漏れてくる。


そのとき。

目線の先に、無造作に放られた元貴の浴衣があった。

帯は解けて、裾はめくれて、くしゃくしゃのまま床に落ちている。

その隣には、黒色の下着が1枚。

薄闇の中でも、それがやけに目立った。


若井は一瞬、視線を外した。

けど、すぐに戻った。





(……さっきのまんまだな)





神社でのあの時間が、途端に頭に蘇った。

帯を緩めて、裾をはだけさせて。

元貴の肌が月明かりに照らされて、花火に照らされて、汗で光ってた。

自分の指が滑った感触。

元貴の指先が自身に触れている時の熱さ。

噛み殺すように泣いた声。


若井は、ゴクリと喉を鳴らした。

無意識に足が動き、しゃがみ込むように浴衣を手に取る。


くしゃくしゃになった紺色の布を、指先でそっとつまむ。

襟元を鼻先に近づけた瞬間、微かに残る甘い香水と、祭りの煙の匂いが混ざった香りがした。

でも一番強く香るのは、元貴自身の匂いだった。





(……いい匂い)





鼻腔をくすぐるその残り香に、ゾクゾクする。

身体の奥が、疼く。

理性がどんどん薄れていく。


何度も何度も嗅いだ。

一度離しても、すぐまた顔を埋める。

深く吸うたび、さっきの乱れた姿が脳裏に浮かぶ。

啼き声。

涙目で懇願する声。

「滉斗…もっと…」って、掠れた声で。


若井は、息を荒げた。





(……やば……抑えられねぇ)





下腹が熱い。

服の中で、すでに大きくなってしまった中心が痛いくらいに主張している。


指先が、今度は隣の下着に伸びる。

布地は柔らかく、薄い。

指先で持ち上げると、月明かりに薄く透けた。

でも中央部分には、はっきりとした跡がある。

自分が、神社で果てさせた時に出た白濁が、乾いて染みになっていた。


若井は、喉を鳴らす。

下唇を噛んだ。

ゆっくり、震える手でその部分を顔に近づける。





(……元貴の……)





そして。

鼻先を押し当てて深く息を吸う。

ふわりと、生々しい、甘くて生臭いような、でも確実に「元貴」の匂いがする。

理性が一気に崩れた。


吐息がもれる。





「……はぁ……っ…」




声が震えた。

もっと欲しくなった。

止まれなかった。







🍏mga🍏短編集🍏#1

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