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#オカルト
リユ
7
聖次
693
【神の居城・大広間】
「――単刀直入に聞く。フィルモアにおける信仰の現状はどうなっている」
重苦しい空気の中、絶対神サーペントは眼前のフィービーを見下ろしながら静かに問いかけた。その声音には、隠しきれない期待と一抹の不安が混じり合っている。
フィービーは一瞬躊躇した。真実を告げれば、この絶対的な存在がどう動くか分からない。しかし、その鋭い眼光に見据えられ、嘘偽りを語ることは不可能だと悟った。彼女は小さく息を吸い、意を決して正直に言葉を返した。
「……一部の物好き、片田舎などで熱心に祈りを捧げているに過ぎません。すでに、その信仰は廃れかかっているのが現状です」
その言葉が落ちた瞬間、世界の温度が急激に下がったかのような錯覚が走った。
「廃れかかっている、だと……?」
それは絶対神の逆鱗だった。サーペントの神々しい顔が、一瞬にして怒りで醜く歪む。
次の瞬間、彼の巨体から狂暴なまでの覇気が爆発的に吹き荒れた。凄まじいプレッシャーに空間が軋み、大気が悲鳴を上げる。巻き起こる衝撃波は、周囲に並ぶ歴史的な調度品をまたたく間に粉砕していった。
直撃すれば、人間の肉体など一瞬で消し飛ぶ――。
死の暴風を前に、彼女は本能的な身の危険を感じ、瞬時に印を結んだ。
「破滅を拒む光の楔、我の契約者は我を守れ。――現出せよ光の守護者、方陣ファランクス!!」
迫り来る死を前に、短く鋭く、詠唱を吐き出すように済ませたフィービーは両手を突き出した。
鋭く轟いた言霊に応じ、虚空から無数の光の粒子が湧き出した。それらは瞬時に線で結ばれ、彼女を包み込む堅牢な大盾――何層もの障壁が重なる方陣へと形を変える。
しかし、激怒した神の如き力を前に、人間の魔術などあまりにも無力だった。
そもそも魔術とは、神が生み出し、下々のものに使わせている道具に過ぎない。当然の結果だった。
「パキン」
不吉な破砕音が響く。耐え忍んでいた結界は、暴力的な衝撃を支えきれずに次々とひび割れ、ついに木っ端微塵に打ち砕かれた。
「ああっ!?」
結界を破った覇気の残波が、無防備になったフィービーの身体を正面から捉える。紙切れのように宙へと吹き飛ばされた彼女は、冷たい壁に激しく叩きつけられ、そのまま床へと崩れ落ちた。
全身を襲う激痛と、内臓が灼かれるような感覚。彼女はそのまま意識を失いかねないほどの重傷を負い、荒い息を吐きながら、自身の血の海のなかに横たわることしかできなかった。
【絶対神サーペント・神の居城】
神の圧倒的な威圧に瀕死の重傷を負ったフィービーだったが、絶対神サーペントが放つ暖かな治癒魔法の光に包まれていた。
みるみるうちに怪我が治り、冷静さを取り戻していく。
――だが、全知全能の神の眼は、彼女の肉体を治癒しつつ、その子宮の奥深くで消え入りそうになっている「小さな命」を見つけ出していた。
「フィービーよ。安心するが良い。お前がその身に宿しているのは、間違いなくスペンス辺境伯家の子だ。……しかし、腹の子の性別は『女』だな」
「――な、なんですってぇぇえええええ!!?」
次の瞬間、神聖なる玉座の間は文字通りのカオスと化した。
生まれてくる子供が「女の子」だと先に知らされたフィービーは、激しく落胆し、大粒の涙を流して狂ったように泣き叫び始める。
「女の子じゃダメなのよ! よりによって女だなんて! 私が欲しいのは、魔族との最前線を張るスペンス辺境伯家の跡継ぎになる『男の子』よ!」
半狂乱になって取り乱すフィービーに対し、サーペントはさらに言葉を重ねた。
「さらに言えば……その子は生まれつき極めて弱い。成人を待たずして、その命の灯火は消え失せるだろう」
完全に空気を読めない神様の、あまりにもド直球すぎる宣告だった。
「ぎゃぁぁぁあああーーーっ!!!」
ただでさえ女の子という事実に絶望していたフィービーの金切り声が、さらにボリュームを上げて神殿中に響き渡る。
もうこうなっては手がつけられない。
「……(困)」
完全にやらかしてしまったと自覚した神サーペントは、巨大な首をちぢこまらせ、傍らに立つアングィスをジッと見つめた。その視線は『要するに、あやつを静かにさせろ』と無言で訴えかけている。
「はぁ~……」
腹心のアングィスは深く深い溜め息をつくと、やれやれと首を振って精神魔法を繰り出し、狂乱するフィービーの心を強引に落ち着かせた。
魔法の力で辛うじて理性を繋ぎ止めたフィービーだったが、その瞳からは涙が溢れ、絶望のあまりとんでもない願いを口にする。
「……そんなの酷すぎるわ。いっそ成人前に死んでしまうなら、今ここで殺してしまった方がこの子のためにも幸せよ……。どうかアングィス様……っ」
「それはならん! 生まれてきた子は責任を持ってだな――」
慌てて割って入ろうとするアングィス。しかし、その言葉を遮るように、絶対神サーペントがとんでもない超越理論をぶち上げた。
「……ふむ。男だ女だ、体が弱いだの、そんなことはどうでも良いではないか。――アングィスよ、お前の力をあの腹の子に分け与え、誰よりも強い『女帝』にしてしまえば万事解決だ」
「…………。……あら?」
サーペントのあまりにも豪快な超理論を聞いた瞬間、フィービーの涙がピタッと止まった。
その見た目の美しさとは裏腹に、よほど腹黒いのだろう。彼女は瞬時に頭の中で、我が子の行く末を都合よく想像し始めていた。その証拠に、片手を顎に当てて「フム……」と真剣に考え込み始める。
「そうね……。男を全員ぶちのめすくらい強い女帝にさせてしまえばいいのよね。……サーペント様、よろしくお願いするわ!」
(おいおいおいおい)
「いや、ボクはそういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
神の眷属、あるいは神本人すらドン引きするほどの凄まじい図太さ。
一瞬にして絶望を邪悪な野望へと、思考変換したフィービーの現金な様子に、アングィスは心の中で激しくツッコミを入れつつ、呆れて遠い目をするしかかなかった。
こうして、母親の勝手な都合と、しくじり神様による慈悲か悲劇か、そして巻き込まれたアングィスによって、メアリーの「最強女子計画」は生まれる前から決定づけられたのだった。
【アングィスの憑依と契約】
「サーペント様。力を外から与えるだけでは、彼女が制御できずに終わる可能性があります。……なので直接、憑依いたします」
「うん、好きにいたせ、任せた」
大蛇の神は実にあっさりと、のんびりした声で許可を出した。
ちなみに、覇気を出しすぎて疲れ切ったのか、彼はいつの間にか人型へと姿を変えていた。そして、フォークとナイフを器用に使いながら、生クリームたっぷりのクレープをモグモグと食べている。
まあ何とも締まらない光景だが、最近人間界で見つけたお気に入り絶品スイーツなのだから仕方がない。
アングィスとしては「雇い主に頼まれて嫌々憑依する」という体を装ってはいたが……ぶっちゃけた話、彼は神としての仕事に完全に飽きていた。
面倒な実務はすべて下の眷属に押し付け、メアリーに憑依して地上でバカンスを楽しみたいというのが本音である。
まあ、人間の一生など神にしてみれば半年、いや一ヶ月程度のごく短い時間に過ぎない。
ゆえに何ら問題はない――フィービーがブーブーと嫌がらなければ、の話だが……。
「え゛っ? 憑依って……あんたが私のお腹の中に!?」
当然、怪訝な顔をして身構えるフィービー。そんな彼女に対し、アングィスは営業スマイルを浮かべて、とんでもない条件を提示した。
「えーっと奥様、今なら『憑依特典』がございまして。お肌のキメは今後10年、誰もが羨むツヤツヤ美肌に。さらに、どんなに食べても抜群のプロポーションを維持できる特典付きとなっております」
「あら、それじゃ20年でお願い!」
「はい……」
神の眷属すら気圧されるほどの圧倒的な現金さ。
一瞬前までの困惑はどこへやら、二つ返事で快諾(むしろ倍を要求)したフィービーの図太さに、アングィスは苦笑いしながら頷くしかなかった。
こうしてアングィスは光の粒子となり、フィービーのお腹の中へと吸い込まれ、最高のバカンスへと旅立っていったのだった。
※※※※※
――数ヶ月後。
スペンス辺境伯家に、一人の美しい女の子が誕生した。
『メアリー』と名付けられたその赤子は、両親からの溢れんばかりの寵愛を受け、そしてお腹の中に宿るアングィスの絶大な加護のおかげで、天性的な弱さを一切感じさせることなく、健やかに、スクスクと美しく成長していった。
――そして、12年の歳月が流れた。
貴族院中等部への入学を控えた12歳のメアリーは、義務として、多種多様な身体検査を受けることになった。
そこに用意されていたのは、近年の魔導技術の結晶である、エレキテルを用いた最新の『魔力測定器』。
この世界では電気と魔力の相性が非常によく、テレビという概念が誕生するよりも遥か昔に、この画期的な機械が発明されていた。
検査場となった保健室には、巨大な金属製の筐が所狭しと並び、内蔵された真空管の柔らかい光が、薄暗い室内に幻想的な輪郭を描いている。
だが、そんな未知の機械を前にする生徒たちの表情は様々だ。目を輝かせて興味を示す者もいれば、底知れぬ恐怖を感じ、涙目の女子生徒もいる。
「次、メアリー・スペンス・フィルモア辺境伯令嬢様、中へどうぞ」
名前を呼ばれたメアリーは、不思議そうな顔をしながらも、中央に据えられた革張りのベッドへと腰掛けた。
手際の良い看護師の手によって、冷たい電極がペタペタと彼女の身体に貼り付けられていく。いよいよ測定の時だ。
「それではメアリー様、少しピリッとしますよ」
医師が無造作に黒いスイッチを押し下げる。
ジジ、と真空管が鳴き、パチパチと青白い電流がメアリーの身体へと流し込まれた。
その瞬間――。
メアリーの体内を駆け巡った未知の電流刺激が、彼女の内奥で12年間ずっと形を潜めていた「神の腹心の遺産(アングィス)」を、最悪の形で直撃した。
ゴオッ!!!!!!
突如として、検査室の全エネルギーを強制的に吸い上げ、臨界を迎えた瞬間……メアリーの身体から暴風のごとき爆発的な魔力が噴き出した。
「な、なんだこの桁外れの魔力量は……っ!? 医療機器が、エレキテルが暴走しているぞ!!」
「う、あ、あああああああつっ……!?」
あまりの衝撃に、メアリーは右目を激しく押さえベッドの上にうずくまる。パチパチと火花を散らしてショートしていく最新測定器、室内に鳴り響く警告音、パニックに陥る医師たち。
喧騒の中、メアリーがゆっくりと顔を上げた。
艶やかで綺麗な金髪は放射状に逆立ち、押さえていた右手が床へ落ちる――露わになった彼女の右目は青眼ではなく――この世のものとは思えないほど美しい、神秘的な『虹色の瞳』へと変貌を遂げていた。
それは強い電気の力によって強制開放された、アングィス直系の特異能力『魔眼』。
この圧倒的な力の覚醒こそが、メアリーの運命を「一介の辺境伯令嬢」から、世界を揺るがす「異物」へと完全に変えてしまう。
のちに匠と運命を共にする、すべての始まりとなったのである――。
コメント
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わあ〜第16話、めっちゃ良かった!!😭💕 メアリーの誕生秘話がこんなに衝撃的だったなんて…! フィービーの「女の子じゃダメ!」→「女帝ならOK」の脳内変換、強キャラすぎて笑ったw しかもアングィスが憑依するときの営業トーク完全に詐欺師じゃんww でも12年後の魔力測定器の暴走シーン、虹色の瞳覚醒は鳥肌立ったよ…!! これが匠と出会う前の全ての始まりなんて、もう続きが気になって仕方ない!!😭🔥