テラーノベル
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あの男の名前は八幡関東らしい。聞いて2秒で偽名だと思ったが、八幡はすかさず、
「安心しなよ、仕事仲間同士で偽名を使う事は、僕らの業界じゃご法度な訳よ。ご法度とはいっても、守ってる奴は少ないがね。僕は数少ない、法度を守る側なのさ。」弁護しているのかいないののか。だが僕はすぐに理解した。
その情報の開示も含め自分の潔白の証明だということを。
その後話されたことはこうだった。
「時亀(じき)という亀の妖怪がいるんだ。その妖怪の特性として、過去や未来に類まれな感情を抱く人間の感情を食うんだ。そう、類稀な感情、憎悪とか希望とかそんなありふれた感情の中にも特別キツイものを食べるんだ。
「きつい」
「ふかいんだよ、問題はここからだ、その亀は、名前の通り時間と深い関わりがある。一言で言えば糞だな。」
「糞」
「そう、感情を食べ、それを消化し排出するように、食べたものを形作る。」
「それが未来の升沢」
「そうだ。」
待てよ。
仮にそれがいたとしてそういう存在がいるなら、その妖怪を吐口にする人間は少なからずいたはずだと思った。
八幡は心でも見透かすかのように言った。
「無論今までにもいたよ。ひがいしゃ、被害者は少なからずいたんだけどね、今回のは特殊な例だ。実害がある。だからこそ今回は迅速に対処する必要がある。」八幡は少し顔を顰めた。
「その対処っていうのはどうするんですか。」
「時亀を祓うのが1番早い、のだがさっきも言った通り今回の場合は特殊だ。被害者本人に問題があると言える。」
「升沢を殺すんですか。」
「まさか、問題は感情にあるんだよ。ひとまず君には升沢ねりについて、今以上に知るべきなんだよ。僕の偏見でしかないけど、そういった感情を抱くような人間は、少なからず周りと距離をとるだろう。」
僕にはもう一つ気になる事があった。
「あの」
「なんだい」
「どうしてここにその時亀がいると分かったのですか。」
「僕は陰陽師だ。だがその質問には明確な答えがある。被害者が複数人いるんだよ、ここには。」
今朝升沢と話をしてそれは確信に変わった。
升沢に現状を言うべきなのだろうか。
いや少なくとも今ではない。そういえば升沢の感情って言ったか。何が原因なんだ。どんな感情なんだ。今はまだ何もわかっていない。知らなくては。図書館に行こう。
その日も升沢より先に帰った。
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