テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
崩れた音楽室。疑似ガーディアンの残滓はすでに消え、
床に走っていた黒い紋様も、ゆっくりと薄れていく。
その中心で、
クレアは膝をついていた。
もう、
邪の気配はほとんどない。
リンクは剣を下ろし、
一定の距離を保ったまま立っている。
ブルーミーとエンゲルが、
静かに前へ出た。
「……もう抱えなくていいわ、クレア」
ブルーミーの声は、
戦闘のそれとは違い、穏やかだった。
クレアは、
俯いたまま小さく笑う。
「終わり……? ううん……もっと前に、
もう終わってたの」
ゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、
もはや邪の濁りはなく、
ただ疲労と諦観があった。
「この学校…… ここはね、
“正しくあること”だけを求める場所だった」
エンゲルが、
一歩前に出る。
「正しさは、 時に人を追い詰める」
クレアは、
小さく頷いた。
「成績、態度、順序……」
「全部、 “守れない方が悪い”で片付けられた」
拳を、
ぎゅっと握る。
「苦しいって言ったら、
“努力が足りない”って言われた」
「助けてって言ったら、
“今は忙しい”って」
声が、
かすかに震える。
「……壊したかったのは、
人じゃない」
「この……
学校の仕組みそのもの」
ブルーミーは、
剣を地面に向けた。
「それを、
私たちは見過ごしてきた」
「……違う」
クレアは首を振る。
「見ようとした人は、
いた」
その視線が、
エンゲルへ向く。
「あなた…… あの時、
ちゃんと話を聞こうとしてくれた」
エンゲルは、
唇を噛みしめる。
「……でも僕は、 守れなかった」
「それでも」
クレアは、
はっきりと言った。
「嬉しかった」
次に、
ブルーミーを見る。
「あなたも……」
「憎んでいいはずなのに、
私を斬らずに“祓う”ことを選んだ」
ブルーミーは、
静かに答える。
「斬るべきは、
人じゃない」
その時――
リンクの持つウツシエが、
淡く光った。
《……聞こえています》
ゼルダの声。
《クレア。 あなたの声は、
確かに届きました》
クレアの目が、
大きく見開かれる。
《制度や仕組みは、
人を守るためにある。 もしそれが人を傷つけるなら、 それは正しさではありません》
涙が、
一筋、頬を伝う。
「……誰かに、
ちゃんと聞いてもらえたの……
初めてかもしれない」
《あなたの想いは、 ここで終わりません。 記録され、 次へ繋がります》
クレアの身体が、
淡く光り始める。
「……もう、
ここには居られないみたい」
リンクが、
静かに口を開く。
「……行く先は、 闇じゃない」
「うん……」
クレアは微笑んだ。
「だから……
最後に言えて、よかった」
光が、
優しく強まる。
「……もし、
誰かがもう一度
声を上げられるなら」
「邪に、
ならなくていい」
エンゲルは、
目を閉じる。
ブルーミーは、
深く頭を下げた。
「……安らかに」
《……見送ります》
ゼルダの声が、
静かに重なる。
クレアの姿は、
光の粒子となり、
ゆっくりと、空へ溶けていった。
校舎には、
何も残らない。
だが――
確かに、
声は残った。
リンクは、
剣を背に戻す。
「……行こう」
「ここで起きたことを、
無駄にしないためにも」
一行は、
静まり返った部屋を後にする。
クレアとの戦いは終わった。
そして。
問いは――
次の戦いへ引き継がれていく。