テラーノベル
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「ゲーム配信なら……ゲーム配信なら、会話のネタに困らないはずだ……!」
自室で頭を抱えながら、僕は必死に自分を励ましていた。
そうだ。雑談配信だからコメント拾いにパニックになり、デスソースを舐めるハメになるんだ。
ゲームなら画面で起きてることを実況していればいい。リスナーと無理に目を合わせる(コメントを読む)必要もない。引きこもり歴数年の僕にとって、ゲームは唯一のホームグラウンドだ。
「これなら……これなら『清楚な天使ミラちゃん』として平和に配信できる……!」
そう胸を撫でおろした矢先、画面の向こうからマネージャーの坂田さんの明るい声が響いた。
『はい未来さん! 次回の配信枠取っておきましたよ! プレイしてもらうタイトルはこちらです!』
画面に共有されたのは、血塗られた洋館と、顔のないバケモノがアップで映し出されたサムネイル。
**『バイオ・ハザード・ナイト:絶叫狂気病棟』**
(※全世界が恐怖したVR対応・超リアル高画質ホラーゲーム)
「……は?」
固まる僕に、坂田さんは満面の笑みで追い打ちをかけてくる。
『やっぱりVTuberのゲーム配信といえばホラゲーですよね! 叫び声のギャップで絶対バズりますから!』
「む、無理無理無理無理!! 僕、ホラー本気でダメなんです!! 部屋の電気消してトイレ行くだけで心臓バクバク言うのに、こんなのやったら死にます!!」
『大丈夫です! 怖くなったらリスナーさんに助けを求めればいいんですから! では本番3分前でーす!』
「待って坂田さん! タイム!! タイム!!!」
ブツッ。
容赦なく切れる通話。
画面の脇のスマホがブルッと震えた。
『三日月茜:ホラーゲーム中に「ギャー!」と叫ぶ天使はいません。怖くても「あらあら、可愛いおばけさんですね♪」と慈愛の心で包み込んでください。設定崩壊したら承知しません』
「無茶言うなよお前ぇえええ!!(泣)」
【配信開始】
[リスナーA]待ってましたホラゲー配信!
[リスナーB]ミラちゃんホラーいける口?
[リスナーC]絶対ビビるだろwwww
「あ、みなさん……こんミラ〜……今日は、このゲームをやっていくのです……♪(声が激しく震えている)」
画面内の天使ミラちゃんは、すでに小刻みにガタガタと震えている。
ゲームがスタートし、暗闇の病院内を懐中電灯ひとつで歩き始める。
ギシ……ギシ……。
「ひっ……!? な、なに今の音……!? あ、あらあら〜……風の音さんでしょうか〜……?(パニックで裏声が裏返りまくる)」
[リスナーA]もう限界で草
[リスナーB]まだスタートして30秒なんだがww
[リスナーC]ミラちゃん後ろ! 後ろ!!
「後ろ……? え、やだやだ見たく——」
**【バアアアン!!(画面いっぱいに血まみれの怪異が飛び出してくる)】**
「ひぎゃああああああああっっ!!??!?」
あまりの恐怖に脳のネジが弾け飛んだ。
僕は椅子ごと後ろにひっくり返り、その衝撃でマイクのボイチェン用フットスイッチを踏み外した。
ガタンッ! ドスッ!
「……てっ……痛ぇ……っ……!」
頭を床にしたたか打ち付け、恐怖と激痛でパニックになった僕は、倒れたまま床に転がるマイクに向かって、素のハスキーボイスで叫んだ。
**「……おいふざけんなクソがぁッ!! びびらせてんじゃねぇよバカ!!! 心臓止まるかと思っただろ死ね!!(超絶極上低音ハスキーの怒声)」**
『…………』
ゲーム内の暗闇の中、僕の荒い息遣いだけが「フゥ……フゥ……」と重低音でマイクに拾われ続ける。
完全にやってしまった。
あまりの恐怖に素でブチギレてしまった。
(終わった……今度こそ僕のVTuber人生は終わった……三日月さんに殺される……)
絶望しながら恐る恐るコメント欄を見上げると——
[リスナーA]ギャアアアアアアアアアアッッッ!!!
[リスナーB]低音怒声助かるうううううううう!!
[リスナーC]口悪イケボ最高すぎんだろwwwwwwww
[リスナーD]「死ね」いただきましたーーー!!(歓喜)
[スパチャ¥30,000](アーク):天使様が怨霊を祓うお言葉……! 尊い……尊すぎる……!!
「なんでみんな喜んでるのぉおおお!?!?」
さらに、配信画面の右上にあるDiscordからポロンと接続音が鳴った。
同期のルシェだ。
『ギャハハハハハ!! 未来お前、「死ね」はヤバいだろ「死ね」は! 天使が敵に言うセリフじゃねえよ!!』
「ル、ルシェちゃん……!? 助けて、僕もう立ち上がれない……怖い……」
『よし任せろ! アタシが画面共有で見守ってやるから、ほら、続きやれ! ほら、右のドア開けろ!』
「やだ! 絶対なんている! 絶対急に『バァ!』ってやってくる!!」
『大丈夫だって! アタシを信じろ!』
半泣きになりながら、言われた通り右のドアを開けた瞬間——
**【ズバアアン!!(壁を突き破って巨大なバケモノが登場)】**
「うわあぁぁぁぁぁぁっっっ!!(絶叫)」
あまりの恐怖に、僕は咄嗟にマイクに向かってとんでもない低音で呟いた。
**「……ルシェ……お前マジで後で殺す……絶対に殺す……(超低音吐息)」**
『ギャハハハハハハ!! 腹痛いwwwwマジで殺気こもってて草wwwwww』
[リスナーA]イケボの無駄遣い(2回目)
[リスナーB]【朗報】天使ミラちゃん、ホラゲーで暴言魔王と化す
[リスナーC]ルシェちゃんとのプロレス最高wwwww
配信終了後。
僕はPCの前で灰になっていた。
疲れ果てた僕のスマホに、怒とうの通知が届く。
『三日月茜:天使が「死ね」「殺す」を連発するとはどういうことですか。明日の配信までに反省文1000字提出してください』
『坂田:未来さん! 「低音悲鳴」と「殺意イケボ」の切り抜きがTikTokで100万再生行きました! 次回はホラゲー耐久ですね!』
『金城空斗:お前「殺す」の言い方だけ無駄に映画の主人公みたいで腹抱えて笑ったわ。ホラゲー配信またやってくれ』
「……だから……ホラーは……無理なんだってばぁああん……!!」
僕の悲痛な叫びは、夜の部屋に空しく響き渡るだけだった。
藤塚 太陽
6
27
五木友人
10,300
耀聖(ようせい)
1,145
コメント
1件
おつかれ〜!第4話めっちゃ面白かったわ! もう開始30秒で限界突破してる未来くん(ミラちゃん)が可愛すぎるっしょww 「♡♡♡」って低音イケボでブチギレた瞬間、コメント欄が逆に盛り上がってるのVTuberあるあるすぎて笑ったわ。 ルシェちゃんとの絡みも最高で、殺気こもった「♡♡♡」がまた味出てるよなw ホラー耐性ゼロなのにバズっちゃうの、呪いかよ…! 次回も絶対読むわ🔥