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「ゲン様。少々お話したきことがあるのですが、今宜しいでしょうか?」


朝食を済ませ、リビングでゆるりと紅茶を飲んでいた俺に家宰であるシオンが声をかけてきた。


「うんいいよ。そこに座れ」


対面のソファーへと促し、紅茶のカップをゆっくりと皿に戻した。


「で、どうかしたのか?」


「はい。ゲン様は貴族に叙されて30日程と伺っております」


「…………」


俺が頷くとシオンは続けて、


「非常に申し上げにくいのですが……、ゲン様は今一度確りとマナーの勉強をされてはいかがかと考えるしだいです。そのあたりの市井の者に比べればかなりマシな方だとは存じますが貴族相手になりますとほぼ通用いたしかねるものと……」


「つまり貴族相手では全くなってないということか」


「はい、残念ですが……」


「…………」


「そこでなのですが、パーティーまでにはまだ40日程ございます。この間にマナーの向上を目指されてみてはいかがでしょうか」


シオンは一気に言い放ってきた。


(なるほどマナーか……)


たしかに全然ダメだろう。


自分が笑われるのは仕方のないことだが、連れている者や周りの者が貶められるのは心苦しいよな。


そうだな、どの道必要なことだからな。


「わざわざ提案してくれてありがとう。して、何か良い方法はあるのか?」


俺の言葉にシオンの肩の力が抜ける。


(主人への諫言とか、さぞ言い辛かっただろうな)


「はいゲン様。許可が頂けるのでしたらマナーの先生に来て頂けるよう手配いたします」


「わかった。それは許可しよう。昼は何かと動くことが多いし、できれば夕刻からにしてもらえないだろうか」


「はい、仰せのままに。さっそく手配いたします」


シオンは静々と下がっていった。


さ~て、いろいろと忙しくなりそうだな。






一方、その頃デレクでは第一次募集の300人を町へと引き入れていた。


現在、第二次募集をかけているところだ。


第二次募集の予定数は500人。


募集にも順調に人が集まっているようである。


農地の方もすこぶる人気で、区画ごとにどんどん埋まっている状態だ。


はじめは国から畑を借り、収穫の中から割合を決め土地の使用料と税金を払っていく方法をとっている。


しかし、これが5年を経過すれば土地の使用料は半分となり10年を経過すれば土地の使用料は0、実質その土地は自分のものになるという契約だ。


まぁ細かな決まり事もあったりするのだが、


これは子育ても視野に入れた夢のある計画ではないだろうか。


そして冒険者たちの方だが。


王都から転移してきた者たちには ”マーカー” が付くようになっている。


もちろん人に見えないマーカーである。


このマーカーが付いている者はデレクの町から外へは出ることができないし壁も越えられない。


ちょうど結界が張ってあるような感じだろうか。


例えば、王都で罪を犯しデレクの町を経由して逃げようとしても町からは出れないのだ。


その逆に、地方からデレクの町に集まった冒険者は王都には行けないようになっている。


つまりマーカーが付いた者でないと、王都への帰還用転移陣は作動しないのだ。


これにより王都と地方の冒険者で若干の格差が生まれることになるのだが、これが良い方向にも働いている。


それがコレだ!


『――いつかは王都 (バース) !――』


デレクの町から王都へ渡る際、一般の転移陣を利用すると片道の料金が金貨1枚 (10,000バース) となる。


地方の若い冒険者たちはこれを利用するために必死になって10,000バース貯めているのだ。


それで王都へ渡ったとしても……、結局は冒険者としてダンジョンに潜るのである。


まぁなんて事はないのだが、一種のステータスというところか。


彼らにとって『王都の冒険者』という肩書は憧れなのだという。


とは言ったものの、冒険者同士は王都も地方もなくわりと仲良くやっているようだ。


預かってきた手紙や手に持てるだけの僅かな物資でも小遣い稼ぎにはなるようで、冒険者同士が協力していろいろとやっているようだ。


それなら1日に何回でも!と考えがちになるが、そうもいかない。


一度マーカーが付くと戻っても2日間は消えない仕組みだ。


マーカーが付いたままだと王都の転移陣は作動しない。


つまり、【運び屋】としてはそうそう稼げないということだ。


冒険者ギルドに設置してある転移陣は、あくまでもダンジョン探索用である。


それ以外の使用は違反であり罰金刑が科せられる。


しかし、この転移陣の利用にもいろいろと抜け道があるだろうから、そこは確りと見極め対処ていきたいと思っている。






そして次の日。


「ゲン様、本日夕刻より先生がいらっしゃいます。ご準備の程を」


ええっ、待ってよシオン? 話したのは昨日だったよねぇ。


あぁ……、行ってしまった。


(まぁ早いに越したことはないか……)


………………


そして、その日の夕刻。


――ひしっ!


シスターマヤではない。


アリスだったー。


「ゲンさま~、ずっとお会いしとうございました。こんなに近くにいらっしゃるなんて神様に感謝ですわ~」


シ、シオン……どこ? ね――。


その後はしっかりとマナーの勉強をいたしました。


ずっと片腕が拘束されたままだったけど。


授業はキッチリと1刻 (2時間) で終わりはしたのだが。


ご飯も食べていくのね……。


(ま、まぁ食事にもマナーがあるからね)


そしてアリスは馬車の窓からハンカチを振りながら帰っていった。


(なんだったんだ?)


そしてシオンは今、俺の目の前で土下座をしている。


えっと、まぁ話を聞いていくと。


ラファール家の王都別邸が歩いても10分程の所にあるらしいのだ。


それで昨日の昼にシオンがその別邸を尋ね、


『こちらの条件に合うマナーの先生に心当たりがないか』と関係者に聞いてまわっていたという。


すると、たまたまリビングでお茶をしていたアリスがその話を聞いており、


「それなら一人心当たりがありますわ!」


シオンはその人物について詳しく尋ねようとしたのだが、人柄も教養も全く問題のない人物だとアリスは太鼓判を押してきた。


「…………」


そこでシオンはしばし考え、


『まあ、アリスも魔法学校に通う14歳。いい加減なことは言わないだろう』と話を通してしまったのである。


そして今日になり、いざ招いてはみたもののさっきの状態で、


「あとは私がゲン様にお話し致しますから~」


アリスに突っ切られてしまったという事のようだ。


(ふむっ、そういう事だったのか)


まあ、けっして悪い子ではないんだよなぁ。


はぁ~、仕方ないか。


床に額をくっつけて土下座しているシオンを立たせ、


「このまま、しばらく様子を見てみようか」


そうシオンに言ってあげましたよ。


――やれやれ。


そのあとは、ご機嫌ななめなメアリーを盛大にあやしつつ魔力操作の訓練をして眠りについた。









あれから20日が過ぎた。


その間におばば様がお見えになったり、マリアベルがチャトを連れて遊びにきたり、アリスは当然毎日くる。


お陰でマナーの方もだいぶ覚えてきたし、貴族らしい振る舞いも少しずつだが出来るようになってきた。


最近では舞踏会用にとダンスレッスンまでやってもらっている。


今ではメアリーも一緒にダンスを習う生徒なのだ。


そのお陰か、最近ではアリスに対しての嫉妬もかなり軽減されてきたように思う。


そんなこんなで、いろいろと起こっているのだが、


――我が家はなんとか回っている。


おもに俺の気遣いによって……だな。






それよりもミスリルが動き出していたのだ。


ミスリルに足はついていないので、もちろん誰かが運んでいるのだろうが。


マジックバッグに入っていても追跡できるというのは、正直いって凄いことだよな。


流石はダンジョンさん半端ないっす。


それで肝心なミスリルの位置だが、北門を通り抜けすでに王都を出ているようだ。


クドーの町を経由する通常のルートなら、ダンジョンの地脈から外れてしまい追跡することができなくなる。


ところが今回は真っすぐに北へ直進しているのだ。


王都から直接迷宮都市カイルに向かう街道。


こちらは主に軍事利用されている街道であり経由する村は少ない。


たまに盗賊も出没しているため小規模の商隊や旅人はめったに通ることがないのだ。


まあ、それだけ急いでいるということなのか?


あるいはクドーの町を通りたくなかったのか?


どちらにしろ見失わずに追跡ができるので、こちらは楽でいいのだが。


間違いなく迷宮都市カイルに向かっている。


手に入れたミスリルは再び横流しするつもりなのだろうか。


……う~ん。


大切なミスリルをそんな事に使われるのは嫌だなぁ。


なので、そろそろ没収しておきますかね。


もうじきカイルに着きそうなので、『ボッシュート!』


カイルにあるミスリルもついでに、『ボッシュート!』


代わりに岩塩でも入れておいてあげよう。


これぞまさに『敵に塩をおくる』というやつだ。(違う!)


さ~て、あとはお互い疑心暗鬼になって潰しあってくださいな。


しばらくはこのまま放置でいいだろう。


数が減ってくれた方が潰しやすいからね。

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