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ぺしぺし! ぺしぺし!
『さんぽ、はやく、うれしい、おきる、あそぶ、げんきか』
うっ、ううん、もう朝か?
「シロ、今日も元気だね」
う――――っ、よし! 布団から離れる。
最近は朝晩がめっきり冷えるようになってきた。
日本なら紅葉がはじまり、こたつを出そうかという感じだな。
さてメアリーを起こしに……。
すでに着替えを済ませて横で寝ていた。
最近ようやく自分の部屋で寝てくれるようになったのだが。
それでも早く起きた時などは、こうして散歩の準備をして俺の部屋に来ているのだ。
「おはようメアリー」
そっと頭を撫でながら起こしてやる。
服を着替えてデレクの町に移転する。
うっ、寒ぶ! さすがは山の中だな。
今日は門を出て畑の方をまわってみるか。
早くから農作業している人たちとあいさつを交わしながらゆっくりと見てまわる。
今育てているのはジャガイモに玉ねぎ、そして砂糖の原料である甜菜 (テンサイ) も植えているな。
これから寒くなっていくのに大丈夫? そう思うだろうが問題はない。
スライムを加工して作ったビニールハウスを建て、実験的に栽培しているのだ。
胡椒の方は春からだな。
そして、しっかりと冬を越せるように農業区画ごとに小麦粉や芋類の配給も終っている。
まぁジャガイモを育てているので食うに困ることはないと思うが。
しかし、フライドポテトを考案し王都で出始めたため、ジャガイモの需要が急速に伸びているのだ。
そして現在、ジャガイモを作っているのはここだけなのだ。
来年からは広く作られるようになるだろうが。
――そうなると。
『儲けるなら今しかない!』
みんな目の色を変えて頑張っているのだ。これは初年度から弾みがつきそうだな。
揚げる油はどうしているのかというと……。
ダンジョン・デレクの2階層から出現するコボルト。
これを倒すと植物油の入った瓢箪がドロップするという寸法だ。
今のドロップ率は魔石50%、瓢箪50%といったところか。
『たまにデカい瓢箪が出るぞ!』と低ランク冒険者の間で話題になっている。
新しい試みとしては【Dバッグ】の貸し出しを開始したことか。
ダンジョンで獲得した魔石やドロップ品は冒険者ギルドで借りられる ”ダンジョン専用マジックバッグ” 通称【Dバッグ】に入れて持ち運ぶことができるのだ。
しかしこのDバック、中身の容量は無制限だがダンジョンを出ると中身を放出して消えてしまうのだ。
なので何日もダンジョンへ潜る際は、このDバックを冒険者ギルドへ預けておけるようになっている。
デレクの場合、ダンジョン前広場に冒険者ギルドが建っているのでそれが可能というわけだ。
また、王都の冒険者ギルドでは、
ダンジョンから戻った際、Dバックの中身は転送陣よこのボックスへと送られてくる仕組みだ。
まぁ大部分が魔石になるので、所定のカゴに入れてそのまま買取り窓口へ出しているようだが。
それに夕方の混む時間帯になると、買取り所の方からサポート用員を出してくる。
その場でボックスの中身をカゴに回収して番号札を入れ、もう1枚の番号札を冒険者へ渡している。
今現在、ダンジョンへの転送陣は2基が稼働している状態だが、近々にも3基目が必要となる勢いだ。
さらに来年には、冒険者の増加に伴いギルドの建物が新しく建て替えられるそうだ。
冒険者ギルドが強気なのは当然のことだろう。
今回の王都転移陣によるフィーバーに加え、ダンジョン・サラも稼働が始まるのだ。
その新しいダンジョンの管理運営は冒険者ギルドが担うことに決まっているのだ。
一方で王国は、
このダンジョンの権利を冒険者ギルドへ譲る代わりに、ダンジョンに関わる税金や物資の優先販売権など、いろいろと譲歩させているそうだ。
力は持たせても手綱はしっかりと握っていく方針のようだ。
さすがはアラン氏、なかなかの手腕だよね。
正にいいとこ取りである。
王都の屋敷へ戻った俺たちは庭で剣や槍などの訓練をしていく。
(おっ! 今日も来ているな)
最初の頃は物珍しさからか沢山の家人や下男が見にきていたものだが、今はこの二人だけになってしまった。
一人は元気印のメイドで猫人族のタマ15歳。
もう一人はタマの弟で、下男のトキ12歳だ。
二人とも艶のある白い髪に薄いパープルの目。
いつも仲良く並んで朝練を見ている。
今日は俺の気まぐれから、コイコイと二人を呼んでみた。
すると早っ!
20mはあったよね。
まぁ早さでいけばシロには劣るが、比べる対象を間違ってはいけない。
「はいご主人さま。にゃんでしょうか?」
目の前までやってきたタマが片膝を突いて控える。
まだ仕事前なのかタマは平服を着ていた。
「いやな、お前達が飽きもせず毎日見にきてるから、何か聞きたい事でもあるんじゃないかと思ってな」
率直に聞いてみたところ弟のトキが、
「ボク、強くなりたいんです。そしてダンジョンに行って家族を助けるんだ!」
んっ、ダンジョンに潜って稼ぐということか?
するとタマが、
「タマの家はスラムの近くで食堂を営 (や)ってるニャ。まだ兄弟が下に3人いるニャ。だからダンジョンで美味しいものを獲ってくるのニャン」
なるほど、要はダンジョンに入って兄弟たちに良い飯を食わせてやりたいと。
――そういう事だな。
「よし、わかった! そんなことであれば一緒に鍛えてやろう。で得物は何がいい?」
「えっ、ええ、えもの?」
「手に持って戦う武器のことニャン」
意味がわからず動揺するトキに説明しているタマ。
「ボ、ボクもメアリー様と同じ槍がいいです」
ほほう、槍を選んだか。
――おもしろい!
普通男の子なら剣と盾、あるいは両手剣などの派手なものを選びがちだが。
「そうか、なぜ槍にした?」
「はい、あのう、そのう、メアリー様の槍さばきを見てて『かっこいいなぁ』と思い、ずっと練習していました!」
なるほどな。
メアリーの槍は、槍の名手であるカニサイ爺の直伝だからな。
それに毎日訓練を見て、”見とり稽古” をしていたようだ。
自分なりに鍛えていたのだろう。
どうりでこちらに走ってくる際、体にブレがなかったわけだ。
こいつは鍛えれば強くなるな。
「トキは毎朝の訓練に参加な。あと俺が呼んだ際はすぐ来るように。シオンにも申し伝えておく」
インベントリーから短槍を取り出しトキに渡す。
メアリーが使っているガンツの槍をベースにした【デレク・オリジナル】だ。
(デレク・オリジナルとは、俺とデレクが試行錯誤の末に作りあげたオリジナルの品をいう)
スピードを活かせるように軽量に作ってあり、ミスリルマジック合金製だから強度の方も問題ない。
「タマはどうする? やってみるか?」
「にゃー、タマもいいのかニャ。やってみたいニャン!」
「そうかそうか。獲物は何にする? だいたい出せるぞ」
「タマはナイフがいいニャ。できれば2本欲しいニャン」
ほうほう、これはまた。
ナイフのダブルときたか。
俺の持ってるやつはショートソードだし、ナイフといっても解体のときに使っている女神さまナイフぐらいしか……。
――いいこと考えた!
くノ一ばりにクナイを2本タマに渡してみた。
おー、見てる見てる。暗闇でもないのにタマの目が輝いているぞ。
今度はクナイを両手に持って振りだしたぞ。
……そして納得したように、うんうん頷いている。
「タマはこれが気にいったニャ、予備があったらもっといいニャン」
そうはいっても練習なので、とりあえずは2本な。
こうして朝の訓練はタマとトキを交えて行うようになった。
それから何日か経ち、タマとトキを朝食の後に呼び出した。
「二人を借りていくぞ」
そうシオンに伝え、俺たちはデレクの町へと飛んだ。
出てきた先は教会である。
しかし、残念なことに管理する者は未だ決まってはいない。
教会本部には連絡を入れているので、じきに誰か来てくれるとは思うが。
みんなで礼拝堂へ進みお祈りを捧げた。
目をつむり両手をこすり合わせて、ムニュムニュと何か唱えているタマ。
意外と信心深かったようである。
そのあとナツのログハウスへ寄り、メルとガルを誘ってみんなでダンジョン・サラへ転移した。
今日は初心者が居るので2階層からのスタートだ。
なぜ、ダンジョン・サラまできたのか?
それはデレクの低階層が冒険者で溢れているからである。
しばらくすれば落ち着いてくるとは思うが、今はちょっと無理だな。
それで、まだテスト段階にあるダンジョン・サラに来たというわけだ。
こちらは誰も居ないので心置きなく訓練ができるのだ。
メアリー、メル、ガルの3人はハイレベルであり、一緒に行動しても暇を持て余すだろう。
なので水筒・ポーション・干し肉 (おやつ) などを入れたマジックバッグを各自に持たせて10階層までなら自由にしていいとして送り出した。
一方でタマとトキの案内はシロに任せている。
俺はサラと念話しながら後ろから付いていくだけだな。
出てきたモンスターは二人がサクサク狩っていくし、シロの誘導も的確なものだ。
昼頃には早くも4階層まで来ることができた。
その場で昼食の準備を整え、各方面に散っている子供たちを迎えにいく。
子グマ姉弟は5階層のボスを難なく突破し6階層にいた。
メアリーは8階層まで上っていた。
また、ホーンラビットの群れと遊んでいたんだろう。
みんな集まったところで俺たちは昼食をとることにした。