[若井の心と消えた猫の影]
若井side
俺は、ここ数日、涼架の不思議な行動に心を奪われていた。
涼架がピアノを弾く姿は、まるで魔法のようだった。
涼架の瞳に、若井がかつてなくした情熱の光を見出し、再び音楽への意欲がわいてきていた。
そんな涼架と過ごす日々の中で、俺はふと、あの猫のことを思い出した。
涼架に初めて出会ってから、俺は一度もあの公園に行っていない。
何気なく通りかかっても、いつも猫が隠れていた茂みには目を向けなかった。
しかし、その日はどうしても気になって、部活帰りに足を運んでみた。
公園には、いつものように子どもたちが遊ぶ声が響き、猫たちがのんびりと日向ぼっこをしていた。
だが、俺が足を運んだ、あの茂みにはもう誰もいなかった。
「…いないな…」
俺は、茂みをかき分け、中を覗き込んだ。
あの時、確かにそこにいた、黄色い毛並みの小さい命。
俺が巻いてあげた、青いバンダナ。
そして、涼架の腕には、それと同じバンダナが巻かれている。
俺は、胸の奥で確信に近いものがざわめくのを感じた。
そういえば、涼架と会った日からあいつはここにいない。
俺は、自分の記憶を遡った。
雨の日、足を怪我した猫を助けた。
そして同じ公園で途方に暮れていた涼架に出会った。
そして、その日からあの猫は俺の目の前から姿を消した。
偶然にしては、あまりにも出来すぎている。
俺の頭の中に、涼架の不可解な行動が次々と蘇ってきた。
火を異常に怖がること。
牛乳を異様に欲しがること。
陽だまりでうとうとすること。
俺のギターの音に、まるで共鳴するかのように反応すること。
そして何よりも、涼架がピアノで奏でていたあのメロディー。
それは、涼架が猫として俺のそばで聴いていたからこそ、弾けた音色だったのではないだろうか。
俺は、心の中で一つ荒唐無稽な結論に辿り着いた。
涼架は、あの猫なんだ。
俺は、自分の考えに思わず笑ってしまった。
馬鹿げている。
そんな、まるで物語のようなことが、現実にあるわけない。
しかし、俺の心は、もうそれを疑うことは出来なかった。
あの時、ただの猫だと思っていた小さな命が、自分の音楽を聴いて、孤独な自分を心配して、
人間になってくれたのだとしたら。
俺は、涼架に会いたくて、 たまらなくなった。
その足は、自然と家へと向かっていた。
次回予告
[最後の夜と魔法の終わり]
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コメント
3件
猫に戻っちゃう…?
ハピエンを願う…😭🙏🏻
もうじき このお話 終わっちゃうのかな?寂しいな…💧