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クムさん、こんばんは。 第2話、めっちゃ引き込まれました…! 鈴奈の不幸体質、読んでて胸がギュッとなるけど、どこか憎めないというか。隣の夫婦の怒鳴り声から始まって、終盤の「断末魔」→静寂って流れ、めっちゃ不穏でゾクゾクしました。あの静けさ、何が起きたんだろ…。 そしてまさかのコウとサルという二大イケメン出現。特にコウは鈴奈のタイプどストライクで衝動的にいいね押しちゃうとこ、わかるなあ…。でもそれ、黒崎にバレたらやばいやつですよね。祐也への未練もまだ残ってそうで、今後の三角関係?が気になりすぎます。 続き、本当に楽しみにしてます😊
私はなんて不幸なんだろう。
鈴奈は自分の境遇を呪っていた。
これまで至って真面目かつ品行方正な毎日を送ってきたつもりだ。
東に行けば、泣いている迷子を助け、西に向かえば横断歩道で立ち往生している老人の手を支え。
中高時代は不純異性交遊(死語)にいそしむ同級生たちを横目にひたすら熱心に勉強に励んだ。その甲斐があって、学校では常にトップの成績。
だが、先生も太鼓判を押していた第一志望である難関国立大学は、入試中におなかを壊してトイレにこもる羽目となり、結局不合格。
仕方なく受けた第二、第三志望の大学も、やはりおなかを壊して不合格。そう、鈴奈はプレッシャーに弱い体質だった。
なんとか滑り止めの大学に入学したものの、鈴奈はすっかり燃え尽きていた。
これまで勉強一筋だったせいもあり、クラスメートの輪になかなか溶け込めない。流行りの話題もちんぷんかんぷんだ。誰それのインスタ見た?とみんなが話を弾ませているのを聞いて、インスタをインスタントラーメンの略語だと思っていた鈴奈は、なぜ他人のラーメンにそれほど興味があるのか謎だったほどだ。
友達はなかなかできなかったが、美人だったが故に、学校や街ではよく軽そうな男たちから声を掛けられた。
鈴奈は押しに弱い。相手がイケメンなら尚更だ。イケメンというだけで、頭がぼーっとしてしまい、気がつけば付き合ってしまっている。だけど大抵、そんなイケメンたちは典型的なダメ男ばかりだった。それでも鈴奈はダメ男を必死に愛し、尽くしてきた。
その挙句に、振られてしまう。さんざん遊ばれて金をむしり取られたあとで。
最低な大学生活はあっという間に過ぎて、就職活動の時期。
ここでも鈴奈はやらかした。大事な面接中に、必ずおなかを壊してトイレに駆け込んでしまう。
結局、どの会社にも受からぬまま卒業し、それ以来、派遣の仕事で細々と生活している。もう早4年。相変わらず、イケメンのダメ男と付き合ってしまう体質だけは、どうしても変えられない。
最寄駅から徒歩20分。一人暮らしの我が家である築40年のボロアパートへの道をすっかり肩を落としてとぼとぼ歩きながら鈴奈は思う。
逃げた彼氏に多額の借金を肩代わりさせられ、払えないのなら婚活サギをやれとヤクザに脅される。
それって犯罪じゃない。これまで万引きですら、一度だってしたこともないのに。
私は悲劇のヒロインだ。異世界に行って悪役令嬢に転生させられた主人公よりも、ずっと悲劇のヒロインに違いない。
そんな自分をあざ笑うかのように、ほら、頭上でカラスがカアカアと鳴いている。
鈴奈がすっかり悲しげな目で空を見上げると、その顔にカラスのふんがぽとりと落ちた。
◇
6畳の洋間は経年劣化で白かった壁紙がすっかりすすけており、玄関側にあるキッチンは猫の額ほど狭くて薄暗い。
形ばかりの1Kで家賃は5万円。都心からはそこそこ離れているし、築年数で見ても値段相応といったところだろうか。
3階建てアパートの2階、角部屋。そこが鈴奈の部屋だった。
帰ってきてすぐにシャワーを浴びた鈴奈は、部屋着として使っているぶかぶかのTシャツとショートパンツに着替えると、ふうと大きなため息をつきながらベッドに腰掛けスマホを手に取った。
「殺してやる!!」
いきなり薄い壁を通して隣の部屋から聞こえてきた若い女の金切り声に、びくっとする。
女に応じるように、「やってみろよ! さあ殺せ!!」という男の大声も聞こえてくる。やがて、どったんばたんと激しく揉み合う音がした。
隣人は若い夫婦だが、昼夜問わず時には深夜も、しょっちゅう激しい喧嘩をしている。それは最早日常と化していたが、その騒音に慣れるはずもない。喧嘩が始まるたびに、鈴奈は恐れおののいた。
だが、今は夫婦の喧嘩を気にしている場合じゃない。
鈴奈は改めてスマホに目を向けると、黒崎に勝手にインストールされた、「はっぴい」というマッチングアプリを開いた。今や手軽な男女の出会いを売りにした多くのマッチングアプリが存在するが、黒崎によれば「はっぴい」はそのなかでも結婚を前提とする真剣交際を売りにしたアプリらしい。
婚活サギで稼ぐなら、結婚を本気で考えている相手を狙うんだ。そういった男は、そこそこカネを持っているはずだからな。
黒崎はそう言って鈴奈からスマホを奪うと、勝手にいじって「はっぴい」に会員登録を済ませ、鈴奈にスマホのカメラを向けた。
「ほら、笑え」
「な、なにをするんですか?」
「プロフィール写真を撮るんだよ。そんなしけたツラじゃ、誰にも相手にされねえだろうが。マッチングアプリじゃ、写真のイメージが最も重要だ。写真を見た男どもが血迷って思わずいいねを押しちまうような、アイドル顔負けのとびっきりの笑顔を見せろや。じゃなきゃ、ソープ行きだぜ」
そうやって、無理やり撮られた写真がマイページのプロフィール欄にアップされている。
目がうるうるしているのは、恐怖で泣きそうだったからだ。無理やり上げた口角のどこか妖艶な美しさも相まって、それは奇跡的に憂いを秘めたかなりの美女風の写真となっていたが、鈴奈はそんなことに気づくはずもない。
ニックネームは、りん。名前の鈴の文字を音読みにしただけだが、これも黒崎が勝手に決めた。
「りんです! 良い縁に巡り会えず、ずっとひとりきりでした。身も心もとっても寂しい! 結婚を前提に本気でお付き合いしてくださる方、心からお待ちしてます!」という自己紹介も黒崎が書いたもの。趣味はドライブに映画鑑賞。特技は料理。
ドライブなんてしたことないし、映画はここ何年も観たことがない。料理はとっても苦手。
こんなの本当の自分じゃない。黒崎によって勝手に作り上げられたキャラだ。
だけど、こうなっては偽りの現実を受け入れるしかない。
ふたたびため息をつきながら何気なく画面をスクロールして驚いた。
りんに「いいね」をつけた男(カモ)の一覧が、すでに100近くずらりと並んでいたからだ。
信じられなかった。
物語前半のシンデレラのように、不幸のどん底にいる私なんかがモテるなんて絶対ありえない。
ほら、写真の顔だって、情けない泣き顔でこんなにみじめったらしいというのに。
うろたえながらも、鈴奈は黒崎との会話を思い出す。
「いいか。いいねを送ってきたカモのなかから、ふたり選んですぐにいいねを返すんだ。そうすりゃ、マッチングとなる。返信が素早いほど、カモは脈ありだと勘違いするからな」
「なぜ、ふたりなんですか?」
「バカだな、おまえは。こういうのは常に保険をかけておくことが大事なんだ。おまえだってサギなんて初めてで慣れてないから、最初は失敗するかもしれねえだろ。だけど、まだもう一人カモが残ってる。それにだ、もしかするとふたりともうまく行くかもしれねえ。そうすれば、奪えるカネは二倍。だからと言って欲かいて人数を増やすのは危険だ。『欲の熊鷹、股裂くる』ってことわざ、知ってるか? 熊鷹が同時に二匹のイノシシに掴みかかったが、イノシシが二手に分けて逃げたせいで、股が裂けちまう話だ。欲張りが過ぎると、災いを招くというたとえだよ。派手にやってサギがバレたら元も子もねえ。だから、ふたりくらいが丁度いいんだ」
この大勢のなかから、ふたりを選んでいいねを返せばいいらしい。
「それから、これは最も大事なことだがな。いいか、絶対おまえの趣味で男を選ぶんじゃねえぞ。女慣れしてなさそうな、いかにも冴えなくて気弱そうな30代から40代の大手会社員か公務員の男を狙え。そういうモテない人生を送ってきた男は世にゴマンといる。たいていクソ真面目な性格で、仕事だけの毎日を送り大した趣味もないから休日はせいぜいラーメン屋巡りくらいのもんだ。だから30過ぎれば、たんまりカネを溜めこんでいる。俺たちにとっちゃ、絶好のカモだ」
鈴奈はいいねを送ってきた男たちのプロフィール写真に目を向けた。
確かに、黒崎の言った通りの雰囲気を放つ男たちの顔が並んでいる。というか、ほとんどがそんな感じだ。
女性と縁がない。気に入った子がいても、自分から面と向かって告白できない。だから手軽なマッチングアプリに頼ってしまおう。みんな、そう考えているのだろうか。
だとしても、別にそれが悪いと非難する理由もない。彼らは純粋に、愛に飢えているだけのはず。
そんな罪のない男を騙してお金を奪おうとしていることを考えると心が痛み、罪悪感がずーんと重くのしかかった。
画面をスクロールしていた指が、ふと止まる。
それは暗い夜空にひときわ輝く北極星だった。
白くシャープな面長の顔で、その切れ味の鋭い細長の目はどこか冷たさを感じる。鼻筋が完璧なまでに通っていて、きりりとした口元。
ツーブロックにしたふんわりミディアムの髪型も良く似合っている。どこからどう見ても、完璧なイケメン。
ニックネームはコウ。28才の会社員で、趣味はドライブと映画鑑賞。特技は料理。
気づいたら押していた。
いいねを。
本能的に。
すぐに黒崎の顔が頭に浮かび、後悔する。ターゲットと正反対の男とマッチングしてしまったんだ。ひどくドヤされるに違いない。
だけど、仕方がない……だって、タイプだったもの。
気を取り直して、もうひとりのターゲットを探す。あとはどれも黒崎の言っていたとおりの似たり寄ったりばかりなので、もう適当に選ぶしかない。
だけど、また。画面スクロールしていた指が止まる。
もうひとりいた。イケメンが。
こちらは大きな目が優しげで、笑った顔は少年ぽさを残したシルバーアッシュの短髪。ニックネームはサル。鈴奈と同じ26才。
サルはどこか祐也に面影が似ていた。思わずその顔に見入ってしまう。
祐也にはさんざん酷い目に遭ったけど……優しい性格だった。
鈴奈の誕生日にはコンビニの小さなケーキを買って来てくれたり、とっても寒い日には着ていたダウンジャケットをそっと肩に掛けてくれたり。
思い出すと、それはささやかな幸せ。
今でも嫌いじゃない。まだ愛してる。
突然消えてしまった祐也のことを思い、いつしか涙がこぼれ落ちた。
祐也……今、どこにいるの……。
「なんだてめえ!」
ふたたび隣から聞こえてきた男の怒声に、はっと我に帰る。
「そのナイフで、俺を刺そおってか!」
「もう我慢できない! ぶっ殺して、そのからだをバラバラに切り刻んでやる!!」
「お、おい。ちょ、待て、落ち着け……ぎゃああああっ!!」
断末魔のような男の叫び声を最後に、ぷつんと静寂が訪れた。
どきどきが止まらない。もしかして……お隣さん、もしかして?
手がぶるぶる震えている。その震えた手で鈴奈は、不本意ながらサルにいいねを押してしまっていた。