LANがトークを続ける中、なつといるまは腕を組んだまま無表情。
「お前らさ、なんかさぁ…
仲いいの悪いの?」
LANが笑いながら聞いても、二人は
「別に…」と声をそろえて返す。
「じゃあさ、あれやってんの?
“ブラッド・サーガV”」
その瞬間、二人の顔色が変わった。
❇たぶんそんなゲームないです。
「…え、お前もあれやってんの?」
「やってるやってる。てかラスボス、
第二形態で全滅しなかった?」
「わかる!
あれマジで初見殺しじゃね?」
さっきまで空気みたいに黙ってた二人が、
急に身を乗り出して語り出す。
LANはニヤニヤしながら、すちとみことに
小声で「ほら、男子ってこういうとこ
可愛いよなぁ」と耳打ち。
こさめはそんな二人を見て、
小さく笑った。
さっきまで距離感あったのに、
ゲーム一つで一気に打ち解ける
――そんな単純さが、
ちょっと羨ましくもあった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「え、てかさ」
LANがにやりと笑って、話題を投げる。
「”ブラッド・サーガV”もいいけど、
“ドラゴンスマッシュ”はやっぱ
王道じゃね? お前らどっち派?」
なつが即答した。
「”ブラサガ”一択」
いるまも負けじと食い気味に言う。
「いやいや、”ドラゴンスマッシュ”でしょ あれ神ゲーだから!」
「は?あんなガチャゲー何がいいんだよ」
「お前、レア引けてないだけだろ!?」
初対面とは思えないくらい真剣に言い合いを始める二人。
LANは腕を組んで
「はいはい、かわいいわ~」と心の中で
ニヤニヤ。
こさめとみことも思わず吹き出して、
すちも口元を押さえて笑いをこらえる。
言い合いながらも、なつといるまの表情は
どこか楽しそうで、互いに
“同じ熱量で話せる相手を見つけた”
みたいに目がきらきらしている。
やがて、なつが笑いながら言った。
「…でもさ、どっちにしろ徹夜して
やっちゃうんだよな」
「わかる、それな!」
「学校行きたくなくなるまで
やっちゃうやつ!」
「マジでそれ!」
二人は結局笑い合いながら、
机をトントン叩いて盛り上がる。
LANは小声で
「男子ってほんと単純でかわいい」
ってつぶやいた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
キーンコーンカーンコーン――。
まだ教室の空気がわちゃわちゃしたまま、
予鈴が響いた。
「うわ、もう時間か」
LANが小さく肩をすくめる。
さっきまで盛り上がってた男子たちも、
名残惜しそうにそれぞれの席へ
散っていった。
なつは席に戻る途中で、ちらっといるまを
見て「また話そ」なんて一言を投げる。
いるまもぶっきらぼうに「…ああ」って
返すけど、口元がちょっと緩んでた。
こさめは、すちの後ろ姿を追いながら
歩きつつ、
(……後で絶対話すんだから)
と心に決めて席に戻る。
やがてチャイム。
ガラガラ、と扉が開いて、斎藤先生が
入ってきた。
「はいはい、そこ静かにー。
今日は教科書配るだけだが明後日からは
早いが本格的に 授業始めるぞ」
高校生活、初めての授業。
教科書がどんどん前から後ろに流れていき
少し緊張した空気が流れる。
斎藤先生は黒板にチョークを走らせながら
振り返る。
「お前ら、ま、リラックスして
名前今のうちに書いておけよ」
なつは頬杖をついて窓の外を眺めながら、
先生の声だけは耳に入れてる。
いるまはペンを回しながら、
さっきのゲームの会話の続きを頭の中で
反芻してる。
LANはさっそく名前を書いていて、
みことは手が止まっていた
「みこちゃんどうしたの?」
「え…えっと〜マッキー忘れちゃって、…」
「俺のでよければ貸すよ」
そういってマッキーをみことに渡すと
「ありがとう!!すっちー!」
「!、すっちー?」
「うん!すっちーのほうが言いやすいし」
「言いやすいとかあるかな?」
「ある!」
すちがみことと楽しく喋ってる中
こさめはずっとすち方を見てのほっぺを
ぷっくりさせている。
後ろ姿をちらちら見ながら、
ペン先を 走らせる。
(なんで〜!??みことくんと喋ってる
ときあんな笑顔なのん!! ふつーに!
こさめが一番に笑顔引きがしたかった〜…)
(すちくん…絶対、振り向かせてみせる)
最初の一時間は、全員が“自分の高校生活の幕開け”を胸に感じながら、
静かに過ぎていった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
斎藤先生が
「じゃあ今日はこんぐらいにするか」
と言うと、クラス全体に安堵の
息が広がった。
荷物がこれ以上 増えたくないため
「おっと、その前にな。
ちょっと配るものがある」
先生が手にしていたのは、
一枚の用紙の束。
カサカサ、と紙が回っていく。
すちはちらっと目を通すと、
眉をわずかに動かしてから後ろへ回した。
そこには、
名前
誕生日
血液型
好きな食べ物
将来の夢
などが並んでいた。
「……自己紹介カード、か」
みことが小さく呟く。
後列に紙が届くと、なつが手にして
「へー、高校なってもこういうの
書くんだ」と感心したように眺める。
「めんど」って言いながらも、いるまも
前から受け取った紙を雑に机に置いた。
こさめの番になると、
彼は思わず笑顔を浮かべる。
ペンを握りしめ、何から書こうか
迷っている姿は、すちの冷静さと
対照的だった。
ちらっと視線をすちに飛ばして――
(……この項目、“将来の夢”って、
すちくんは何て書くんだろう)
こさめは妙に胸がざわめくのを
感じていた。
「はい、明日までに書いとくようにな」
キーンコーンカーンコーンーー
「チャイムなったんで終わりです。
みんなよく頑張った次も頑張れ」
そう言って先生は教室から出ていく
何も言ってないのに自然にすち達の
ところに紙とペンを持ち集まる。
「めんどくね?これ」
「わかる」
「こらこら、いるまとなつ
面倒くさがら ないで 書くの」
子供と接してるような声でLANが喋るから
いるまとなつは少しピキるがすちの圧を
感じてすちの机の1部を借りて紙を置く。
みんなが考えながら書いている中
「甘い物全般、ね。……らんらんらしい」
みことが横目で見て笑うと、
LANは「えへへ」と照れたように笑った。
「そういうみこちゃんも甘い物全般って
書いてるじゃん」
「ふぇ!? ほんまや…」
「え 無意識に書いてるの?」
「え〜…そんなことないねんけど」
「こわ」
すちは好きな食べ物の抹茶のところで
一瞬止まり、丁寧な字で“デザイナー”と
将来の夢に記す。
それを覗き込んだみことが
「かっこいい……」と小声で呟くと、
すちは首をかしげて「そう?」とふんわり
微笑んだ。
なつは「将来の夢」の欄にシャーペンを
止めて、「んー……決まってない」
であっさり書き込む。
「なつくん、それでいいの?」とこさめが
不思議そうに聞くと、
「決まってないもんは決まってねーし」
と笑ってペンを置いた。
いるまは豪快に“ラーメン、杏仁豆腐”と
書き殴り、夢の欄で「おい……」と唸って
結局「決まってない」に丸。
「いるまちゃん、字が大きい……」と
すちが苦笑すると、
「いいだろ別に!どうせ読むの先生だし」
と拗ね気味に返す。
こさめは少し悩んでから“するめいか”と
食べ物欄に書き、にこにこと満足げ。
「するめいか!?」とみことが笑いを
こらえきれず吹き出すと、
「おいしいじゃん!」とこさめは頬を
ふくらませる。
カードが集まっていく中、
小さな笑い声でいっぱいになった。
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