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「「おかーさん」」
いくら言ってもお母さんと呼ぶ、愛おしい存在に洗濯物を畳んでいた手を止める。
「はいはい、どうしたの」
歩きに危なっかしさがなくなってから、この子らは俺のあとを着いてくるようになった。
「はながおれのことたたく!」
「かいがわたしのことおした!」
双子を産んで大変なこともたくさんあるけど、やっぱり可愛いものは可愛い。
「華も櫂もどうして喧嘩なんかしたの」
2人の視線に合わせるように座る。
「おれのほうがおかあさんのことすきなのに、はながわたしのほうが!って」
「おかあさんはわたしのほうがすきだもん!」
なんと微笑ましい理由なんだろうか。
「俺は櫂も華も大好きだよ」
「「おんなじはやぁだ!」」
二卵性だから顔は似てないけど、表情は流石は双子だ。
そっくりである。
華はクロノアさん似。
櫂は俺に似てる。
検診で双子と分かった時のクロノアさんの驚きようと喜びようは凄かった。
優しい顔をもっと優しくさせて微笑み泣きながら俺を抱きしめた。
何度もありがとうと言いながら。
紆余曲折もあっていろんな困難にもぶつかった俺たちに新たな家族が出来ることを心の底から喜んでくれた。
「おれ!」
「わたし!」
名前はクロノアさんと考えた。
お互いに案を出し合ったけど、まさか出した案が丸被りするとは思わなかった。
櫂の意味は舟のオールを示す漢字で、自分の力で道を切り拓くという意味をもってつけた。
華は文字通り華やかな人生を送ってもらう為という意味でもあるけど、夢を叶えて成功できるように、という意味も込めてつけた。
「「おかあさん!いちばんすきなのはどっち!」」
「うーん…」
これは名前を言うまで聞き続けるいつものパターンだな。
子供もらしいと言えば子供らしいけど。
「わたし!」
「おれ!」
「どっちも一番じゃだめ?」
「「だめ!!」」
「うーん、困ったな…」
困っていたら案の定、後ろから抱き起こされて立たされる。
「わっ…」
「「あっ⁈」」
俺の大好きな匂い。
「一番好きなのは俺だよね?トラゾー」
「…クロノアさん」
「ね?」
「もう…子供に張り合わないでくださいよ…」
「「おとーさんはだめ!」」
俺の両脚にしがみつく双子は上目にクロノアさんを睨んだ。
振り返ったらクロノアさんがにこっと笑った。
ここは俺に任せろって顔してる。
「…華も櫂も大好きだけど、ごめんね?一番はクロノアさんなんだ」
後ろでははっと笑うクロノアさんに双子は顔を真っ赤にして怒った。
怒った顔も可愛い。
親バカと言われても構わないくらい。
「おとうさんはおれらのてきだ!」
「てきだ!」
今度はクロノアさんの脚をポカポカと叩いている。
「おかあさんは俺のだよ」
「「やーだー!!」」
このやり取りもお馴染みだ。
「やでもダメでーす」
「「もう!おとうさんのばか!」」
涙声になるのもいつもの流れ。
「大人ではお父さんが一番。子供は櫂と華が一番好きだよ」
「ほんと?」
「おかあさん、わたしたちのこといちばんすき?」
「うん、大好きだよ」
目線を合わせてまた屈んで笑うと双子は抱きついてきた。
前だったら受け止められたけど今の俺はそれはできず、尻もちをつく。
「「おかあさんだいすきっ」」
「ふふっ、俺も大好き。愛してるよ、華、櫂」
嬉しそうに笑う双子を抱きしめる。
子供特有の優しくて甘い匂い。
何に変えてもこの子達は守り抜きたい。
「トラゾー」
「ん?はい?」
見上げるとクロノアさんがじっと俺を見下ろしていた。
「俺は?」
「?、はい?」
「俺のことは?」
「え?」
じーっと俺を不貞腐れたように見下ろすクロノアさんに合点がいった。
「まさか、あなた子どもにヤキモチ妬いてるんですか」
「……」
どうやら図星のようだ。
「っ、ははっ!そういうとこ、お父さんになっても変わってないんですね」
「だって俺には全然、素面で愛してるなんて言ってくれないじゃん」
「いやいや、子供に言うのとあなたに言うの違うだろ」
むっと眉を寄せたかと思うと、クロノアさんは急に俺の隣に座った。
「華、櫂」
「「なぁに」」
「お母さん可愛いよね」
「うん!おかあさんかわいい」
「ちがうよ!おかあさんはきれいなの!」
「華はよく分かってるね。櫂も流石は俺の子だ」
「「えっへん」」
2人の頭を撫でる。
双子は嬉しそうだ。
敵だ、なんて言ってるけどクロノアさんのことも大好きなのを俺も彼自身も分かってる。
「でも綺麗で可愛いトラゾーが俺のこといじめるんだ」
「ちょっ…!」
「おかあさん、おとうさんいじめたの?」
「だめだよ!なかよくしなきゃ!」
「ひ、卑怯ですよ!クロノアさんっ」
「じゃあ言って?」
顔を近付けてくる。
イケメンずるい。
「トラゾー」
吐息がかかるくらい近い。
「ぅ、ぁ……あいしてます…っ」
顔から火が出るくらい熱い。
「「まっかっかだ!」」
クロノアさんは満足そうに笑って立ち上がった。
かと思ったら、
「うひゃっ」
軽々と俺を抱き上げて俵のように担いだ。
「は⁈ちょっ、この抱え方おかしいでしょ!」
「トラゾー軽いままだから簡単に担げちゃうね」
「そういうことじゃなくて!何してんですかあんた!」
双子を産んだ後も体重は前と変わらず。
何なら産んだことで体に丸みが出てしまった。
慣れたような慣れないような。
「産む前もそうだったけど、どんどん綺麗になっちゃうから俺困るよ」
ぺいんとが言ってた人妻感というやつのことを言っているのだろうか。
「困るって…」
「ほんの一瞬でも目を離したら、知らない男や女に声かけられてるでしょ」
「ゔっ…」
「俺のだってマーキングもしてるのに、そういう奴は虫みたいに湧くばっかだもんね」
抱えられながら腰を撫でられた。
「ひゃっん…⁈」
びっくりして変な声を出してしまった。
「俺には、クロノアさん、だけですってばっ」
「知ってるよ俺の可愛いトラゾーだもん。誰にも絶対渡さないし、誰よりも愛してる」
担ぎ上げられたままだから赤い顔を見られずに済んでいる。
こんな真っ赤な顔見られたら恥ずか死ぬ。
「ね、華、櫂」
「なに?」
「どうしたの?」
「弟か妹、ほしい?」
突然の突拍子のない質問。
クロノアさんの顔は見えない。
けど、分かる。
絶ッッッ対に悪い顔で笑っているのが。
「なっ!」
俺を俵抱きしたままクロノアさんが言った。
「どう?ほしい?」
「「ほしい!」」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんになりたい?」
「「なる!なりたい!」」
元気に返事をする双子の顔は純粋無垢な嬉しそうな笑顔なのだろう。
それも見なくても分かってしまう。
「そっか。…だってトラゾー?これから俺とまた赤ちゃん作ろっか♡?」
悪い声。
子供の純粋な気持ちを利用してる。
最低だ。
「クロノアさんの変態っ、バカッ」
「え?いっぱい子供欲しいって?」
「言ってねぇよ!」
「よかったね、櫂、華。下の子いっぱいできるかもよ」
「ほんと⁈いっぱい⁈そのおにーちゃん⁈」
「わたしもそのおねーさんになれるの⁈」
クロノアさんの脚にしがみつく双子。
俵抱きのままの俺。
「クロノアさん、違うって言ってください!しばらく弟か妹のことしか言わなくなっちゃいますっ!」
「トラゾーは俺とヤるの嫌なの?」
「嫌ではないですけど……って、何言わせてんすか!」
「口の悪いトラゾーも可愛いよ」
「話聞いてよ!ちょっと!」
「トラゾー」
「ひぁっ…♡⁈」
お尻を撫でられて、恥ずかしい声が上がった。
「俺と子作りしよっか♡」
ふわっとクロノアさんから俺の好きな匂い。
「も、まだ、ヒートじゃないのにぃ…♡ッ」
「華、櫂」
「「?」」
「俺とトラゾーはこれから妹か弟を作る為に愛し合ってくるね?」
「よくわかんないけど、はなとむこうであそんでるね!」
「なにかわからないけど、おわったらおしえて!」
「ふふっ、いつ終わるかな?…あ、そうだ。お姉さんにイチゴ貰ってるからおやつに食べるんだよ」
「「はーい!」」
「次会った時にお姉さんにお礼言うんだよ」
お姉さんというのはあの運転手さんの娘さんのことだ。
あの子も泣いて喜んでくれた。
その優しい娘さんの顔が思い浮かぶ。
「「うん!」」
手を繋いで子供部屋に走っていく双子を見送ったクロノアさんが俺をやっと下ろした。
お腹を優しく撫でてにこりと笑った。
「たくさん、ココに注いであげるね?2人の喜ぶ顔が思い浮かぶなぁ♡」
「っ、♡もぅ、ばかっ…♡」
今度は横抱きにされて、俺らの寝室へとクロノアさんは歩みを進めた。
近いうちに、双子の喜ぶ顔が見れるのだろうという確信を持って。
幸福な家庭