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あらすじ
青いシャーペン。
青いスニーカー。
青い空。
青い声。
──そして、彼の好きな色も、青だった。
名前もクラスも違う。でも私はずっと、彼を目で追っていた。
この想いはきっと伝わらない。伝えるつもりもなかった。
ただ、同じ景色の中に“彼がいる”ことだけが、私の世界の光だった。
これは、片想いが「青色」に見えていた、ひとりの少女の、
小さくて優しいラブレター。
『青色片思い』
放課後の空は、今日も綺麗な青色だった。
ちょっとだけ冷たい風が、制服の袖を揺らす。
私はいつものように、グラウンドを見下ろせる階段の踊り場で、一人ぼんやりしていた。
そこから見えるのは、部活中の生徒たち。
そして、その中に、彼の姿がある。
二つ下の学年。
同じ部活でも、同じクラスでもない。
名前すら、ちゃんと聞いたことはない。
それでも私は、彼を見つけるのが得意だった。
ショートカットの髪に差し込む陽。
素直に笑う声。
ボールを追いかける時の真剣な横顔。
たぶん、最初に惹かれたのは、その「青色のシャツ」だった。
ほかの誰よりも、その色が似合っていた。
それから、青いスニーカー。青いリストバンド。
何気なく眺めていたら、彼の好きな色は“青”なのかもしれないと思うようになった。
私の中で、彼のすべてが“青色”に染まっていった。
清らかで、真っ直ぐで、少しだけ届かなくて。
だからこの想いに名前をつけるなら、きっと「青色片想い」だと思った。
「また見てるの? 好きだねー、あの子のこと」
隣に来た友達が、わざとらしくニヤニヤして言う。
私は何も言わずに、笑ってごまかす。
そう、言葉になんて、できるわけがない。
だって、知られたくない。
でも、知られてしまいたい。
矛盾したこの感情が、息苦しくも心地よくて、
私は毎日ここに立つ。
明日も、明後日も、何も起こらなくていい。
彼がここにいて、私がここから見ている。
それだけで、十分だった。
──けれどその日。
彼は、ふとグラウンドからこちらを見上げた。
一瞬、目が合った気がした。
そんなわけないと思いながらも、胸が大きく跳ねる。
そして彼は、にこっと、手を小さく振った。
私は、呆然と立ち尽くした。
まさか、自分に向けて? 偶然?
わからない。でも、わかってしまった。
私の青色の世界に、初めて、
彼からの“光”が差し込んだ。
その日の空は、いつもよりも少しだけ眩しかった。
あれから、少し時間がたった。
今でも彼の名前は知らない。
だけど私は、あの日から、
“青”が、前よりもっと好きになった。
今の私のペンケースの中には、
青いシャーペンと、青いインクのペン。
そして、一通の手紙がしまわれている。
その手紙には、ただこう綴られている。
「あなたの好きな青色が、私の世界も青く染めてくれました。」
渡せないまま、季節は春になろうとしている。