駅から東京体育館までは走ればすぐの距離、それでも真冬の空気は冷たくて、苦しい。
赤「木兎さッ…」
でももう見える距離、急げ。
あとちょっと
あとちょっと
あと一歩、
赤「木兎さんッ!!」
冬の澄んだ景色の中、暗い夜空の中で光る訳でもない、きっと他の人は気付きもしない、転がるソレを見つけた。
赤「ぁ……」
全日本バレーボール高等学校選手権大会…俺らの言う春高は結構広い会場で行う。
メインアリーナとサブアリーナ、そしてそれと広場を含めた敷地が東京体育館、もちろんものすごく広い、俺はまだ入口に入ったばかりだ。
でも、この広い敷地全部探したって木兎さんは居ない。
嫌でもわかってしまう、転がるミカサのバレーボールとシューズ、そして拙く何度も消したあとのある葦の字が書かれた手紙。
ソレを見つけ膝から崩れ落ちる、数少ない夜の利用者たちが俺を見てくる。
そんなのどうでもいいけど、
だって木兎さんが居ない、置いていかれたんだ
もういっそ俺も死んでやろうかな…ハハ
嗚呼人って本当に絶望するとこんなに冷静になるのか。
そうだ手紙、読まないと。
赤葦へ
手紙でもよかったんだけどやっぱ最後の言葉ってやつはオレの声できいてほしかったから、だから留守電きいて。
留守電?
驚きつつスマホを開くと留守電の件数が2件になっていた。
嫌だなぁ、信じたくない。最後の言葉とか
でもどうせなら聞いて終わろう。
そう思って留守電のボタンを押す。
数秒間の雑音の後木兎さんの声が耳をさす。
あかーし聴こえる?
赤「…はい」
分かってる、どうせ聞こえてませんよね。
これさー多分最後の言葉ってヤツだよね。
やっぱりそうですか。
でね、言いたいこといっぱいあるけど、全部は伝えきれないし、オレのゴイリョクじゃ全部言葉にできないから。
なら一緒に勉強しましょうよ
でも、これだけは言っておきたかったんだよね。
これだけなんて言わないで、もっと言って下さい。
あのストレートとか合宿とか試合とか、全部全部めっちゃ楽しかった。
それは…
できるんだったらもっとバレーしたかった
それは…
でも出来ないから、だから生まれ変わったらまた一緒にバレーして。
それは…
オレ梟谷であかーしたちとバレーできてよかった。
それは…全部こっちの台詞なんですよ。
嫌だッ嫌だ、生まれ変わったらなんて嫌だ。
次逢った時は
オレはもっと、
もっといっぱいバレーしような。
「一緒にいたぃッ!!」
もう限界だった、止めどなく涙が溢れてくる。
おかしいだろ、さっき枯れるまで泣いただろ。
あかーし、好きだよ、だーいすき。
100年でも1000年でも待ってるから、今度は一緒にいようね。
そんなこと言われても涙は止まらないんです。
最後だなぁ…えっとね、決めてたんだよめっちゃ照れるけど。
ツーツーツー…
愛してる…俺だって愛してる。
愛した人の最後の言葉なのになんで、愛おしくて堪らない、でもそれ以上に痛い。
でも俺には何も出来ない、どれだけ泣き叫んだ所で、木兎さんの一番はバレーで俺は一番になれないから、でも俺は同率一位であなたが一番なんです。
そう思っても辛いものは辛い。
だから泣き叫ぶ位、あなたを想うことくらい許して下さい。
そう乞い願う中でも2月の体育館に痛いくらいの声が響いていた。
また逢いましょう、木兎さん。愛してます
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