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「……ムツキ様。顔を上げてください」
神妙な面持ちのリゥパパパは、ただ一言そう発した。
「はい」
「パパ! 私からもお願い!」
リゥパもここぞとばかりにお願いを重ねていくが、リゥパパパは渋い顔をして、彼女を見据える。
「私からも、じゃなく、お前の願いだろ?」
「いえ、そのようなことは……」
「…………」
とっさに口を開くムツキだが、リゥパパパが静かに首を横に振っている姿を見て、言葉が止まる。リゥパは無言である。
「ムツキ様とは元々、私たちエルフ族との約束としてお前をいずれ迎え入れるという話をしているだろう。今までエルフ族のしきたりに従ってくれていたムツキ様が突然このようなことを言い出すとは到底思えない」
「…………」
リゥパはまだ無言である。
「大方、ナジュミネ様がムツキ様のところに嫁入りしたのを知って、焦り始めたのだろう? ……まあ、気持ちも分からんでもない。お前の予定とは違ったのだろう」
「じゃあ!」
リゥパはパっと表情が明るくなり、言葉を発するが、リゥパパパは右手を突き出して、彼女を制止した。
「だが、気持ちとルールは別だ。ムツキ様はまだその年齢にない」
「年齢、年齢って言うけど、それはエルフ基準でしょ! エルフの成長が人族より遅くて、身体ができあがるまでに30年程度かかるってだけじゃない!」
エルフ族は生まれてから30年ほどは成長期にあり、以降はほぼ大きな変化もなく、数百年、数千年と生きる種族だ。老化の進行がとても遅い。
リゥパは立ち上がって声を荒げている。親子喧嘩になってしまうとムツキには入る余地がない。
「だから特例で5年近くも早めただろう?」
「5年って……人族は15歳くらいでとっくに身体ができあがるのよ! 本当なら会ったときにはもう人族なら結婚できてたわよ!」
納得のいかないリゥパは声を荒げたままである。
「リゥパ。長の私がルールをそう簡単に曲げてはいけないんだ。そして、いずれ長になるであろうお前やお前の子どもたちも同じようにルールは守らなければならない」
リゥパパパは優しく諭すようにリゥパに話しかけるが、彼女は首を大きく振る。
「そんな、いつできたかも分からないエルフだけのルールなんて、カビ臭くてしょうがないわ!」
「リゥパ!」
リゥパは話にならないといった雰囲気になり、リゥパパパは彼女の暴言に声を荒げ始める。普段、怒られ慣れていない彼女はビクッと身体を震わせた後に、ふるふると小刻み震え始める。
「……出てく」
「何だと?」
リゥパのぼそっとした呟きにリゥパパパは眉根を上げて低い声を出す。
「出てく! もうムッちゃんの家に行く! パパなんか嫌い! エルフなんか嫌い!」
「いい歳して、そんなこと!」
「気持ちの問題に年齢は関係ないでしょ!」
リゥパの言葉に、リゥパパパも思案顔になる。しばらく、静かな時間が続いた後に、彼はおもむろに口を開いた。
「……ならば、仕方ない。そこまで言うなら決闘だ」
リゥパパパは深い溜め息を吐いた。そして、ムツキはいい所がまったくなく、ナジュミネに至っては目のやり場にさえ困り、2人とも少し俯き加減になって固まるばかりだった。