コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「決闘?」
リゥパはあまり聞き覚えの無い言葉に首を傾げる。リゥパパパは深く息を吐きながら、その疑問に答える。
「本来はルールにないことで言い合いに決着がつかない場合にするべきものだが、ルールがどうあるべきかもルールにないことではあるからな。主張の異なる者どうしで相手が降参するまで戦うだけだ」
リゥパパパは何度か説明したであろうことをゆっくりと説明し、リゥパも遠い昔に聞いた記憶を少しだけ呼び起こされていた。
「あぁ……ムッちゃんも一緒でいい?」
全員がズルっと身体が動いてコケた。
「いいわけあるか! 数秒で負ける! だいたい言い合っているのは私とお前だろう!」
「ちっ」
リゥパパパもさすがにツッコミを入れざるを得なかった。リゥパとリゥパパパは実力の上では既にほぼ互角であり、勝てる確率は五分五分だった。しかし、彼が冷静な試合運びと一切の手心を加えなければ、多少ムラが出てしまう彼女には少々分が悪い。
「ったく、舌打ちをするな。お前はいい歳して……本当に今年で」
「【マジックアロー】」
リゥパの【マジックアロー】がリゥパパパの真横を過ぎ、小屋の壁に穴を空ける。
「何をする! 家の中で【マジックアロー】を撃つな!」
「……さっきからね? いい歳して、いい歳して、って言ってるけど、私、前に言わなかった? ムッちゃんの前で歳の話をしたら、屠る、って」
リゥパの顔はかなり険しい。瞳は冷たく映り、何人たりとも許さないといった表情である。
「そんなことばかりして、ナジュミネ様の」
「【マジックアロー】」
リゥパの【マジックアロー】がリゥパパパの頬を掠め、一筋の血を滲ませた。そして、小屋の壁には2つ目の穴が空く。
「今度は何だ!」
「いちいち、比較しないでくれる? ナジュミネにはナジュミネの、私には私の、それぞれ良さがあるの。何か1つの物差しで私を周りと比較しないで!」
「バカ娘め。私とてそろそろ堪忍袋の緒が切れるぞ!」
リゥパパパが立ち上がろうとしたとき、リゥパは跳躍して思い切り彼の身体を踏みつける。ムツキもナジュミネも驚きを隠せない。
「【マジックアロー】」
「ぐっ……なぜ矢を構えている?」
リゥパパパの眼前には、自分を踏みつけ倒し、マジックアローを構えるリゥパがいる。しかし、彼は努めて冷静に対応する。
「なぜって? さあ、決闘よ?」
冷たい表情のリゥパがひどく低い声でそう呟く。
「な、ここは家の中だぞ! それに決闘にはルールがあって……」
「パパ?」
リゥパは話を打ち切らせるためにそう呼ぶ。
「……なんだ?」
「ルールを変えようって言ってる私が、そんなルールに従うと思う?」
「…………」
リゥパのとんでもない発言に、ついにリゥパパパは無言になる。
「リゥ……」
ムツキは立ち上がりリゥパを止めようとするが、ナジュミネに袖を掴まれ制止させられる。彼女は彼の袖を決して離さず、首をただ横に振るばかりだった。見届けろということだろう。
「さて、本題よ? パパ、私の結婚を認めてくれるわね? 選択肢をあげるわ。はいか、YESか、OKか、認めるか、どれか選びなさい?」
認める以外の選択肢は用意されていなかった。リゥパの強い意志を感じ、リゥパパパは少し思うところがあった。
「……こんな脅しには屈しないぞ」
「脅し……だと思う?」
「…………」
この父娘のやり取りに入り込める隙間はない。
「3」
リゥパはゆっくりとカウントダウンを始める。
「2」
リゥパの【マジックアロー】は今にも飛び出さんばかりだ。
「1」
リゥパは目を閉じた。覚悟の中の小さな葛藤と後悔を滲ませているが、彼女は迷っていない。リゥパパパも彼女の本気に触れて、いよいよ口を開いた。
「分かった! 私の負けだ! お前の本気に負けた! 結婚を認めよう!」
「……やった! パパ、ありがとう!」
リゥパの【マジックアロー】が消え、彼女は足蹴にしていたリゥパパパにひしっと抱き着いた後、満面の笑みで家から出てしまう。その後まもなく、結婚ことを言いふらす彼女の大きな声がムツキ、ナジュミネにも聞こえてくる。
「まったく、困ったものだ。ムツキ様、ナジュミネ様、リゥパのことをよろしくお願いいたします。たまに暴走したり無法者になったりしますが、何かを変える力が娘にはあると思っています。たしかに、おかしなルールもあるものです。ただ、私には変える勇気がないのです」
「今後、お義父さんと呼ばせていただきますね。お義父さん、自分の命のためでなく、リゥパの名誉のために降参しましたね」
「……リゥパは本気で私の心臓を狙っていました。今さら長生きをしたいなどとは思いません。しかし、親殺しは娘のこれからに影を落としてしまうでしょう。娘も本来はそこまで分からないバカではないと思います。普段はいろいろなことが見えているはずです。だが、それ以上に本気だった。私も親ですから、子どもの強い気持ちには覚悟を持って受け止めなければいけません」
リゥパパパの憂いを帯びた顔は、自分が殺されそうになったからではなく、これから離れて暮らすことになる一抹の寂しさを感じているようだった。
こうして、リゥパもムツキのログハウスに住むことになった。元々大して荷物などない彼女は衣類をすべてまとめて、彼のアイテムボックスの中に収納して、早々にエルフの村を去るのだった。
「ちょくちょく戻ってくるから!」
その元気そうなリゥパの声に、エルフの皆は笑顔で見送り、彼女が見えなくなるまで両手を振り続けた。