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暇つぶしに見ていたテレビで、フィギュアスケートノービスAの映像を見た。
優勝した『ニキ』という選手の演技が、頭から離れなかった。
(おれも、おれもやりたい、あんなふうになりたい…!)
この瞬間、『ニキ』を目指すりぃちょの人生が始まった。
――ところが、りぃちょは昔から、継続が苦手であった。
習い事をしても続くのは数ヶ月。
ダンス、歌、バレエ、水泳、etc…
押し入れは新品同然のトウシューズやゴーグルでギチギチになっていた。
好奇心旺盛だが、継続力がない。
なので、1年間本気でやれたらクラブに入ると母親と約束を交わしたのであった。
良いコーチと出会えず停滞した時期もあったが、りぃちょはこの1年間で大きな成長を遂げた。
休養中のスケート選手との出会いで、りぃちょの未来は大きく変わったのだ。
「ねぇ、おれって今どのくらい上手いの?そろそろテレビに出てる子達みたいになった?」
「なわけないだろwwwそこで練習してる5歳児の子くらいだわw」
「えぇ!?こんなに頑張ってんのに!?」
それでもめげず、りぃちょは1年間を走りきった。
そして、約束の1年が経った日。
1年間りぃちょを見てくれた人も、ジャンプの基礎だけは完全に定着したと言ってくれた。
そして今日、新しい専属コーチとの顔合わせがある。
ワクワクと少しの恐怖を胸に、スケートリンクへ向かった。
扉を開けると、赤髪の背の高い男がたっていた。
キラキラとした翡翠色の瞳が印象的であった。
「りぃちょです!お願いします!!」
元気よく挨拶をして深々と頭を下げると、コーチは柔らかく微笑んだ。
「俺はキャメロンです。こちらこそよろしく。」
「あ、あの!おれ、ニキくんみたいになりたくて…!」
目を輝かせながら迫るりぃちょに少し引き気味になりながらも、キャメロンは言葉を返した。
「あー…あの去年全日本ノービス優勝した?」
「そうです!!」
「ちょうどいい!あそこで練習してるよ、ニキくん。」
「え”!?」
咄嗟に指が指した方向へ振り向くと、そこに確かにニキは居た。
キラキラした衣装は纏っていないし、すごいジャンプを飛んでいるわけでもない。
ただ、普通に滑っている。
なのに、目が離せなかった。
彼は、氷の上は自身のものだと言わんばかりの、自信に満ち溢れたスケーティングを見せた。
氷がキラキラと宙を舞っていた。
彼の周りだけ、時が止まっているように見えた。
とにかく静かで、綺麗だった。
「生で、はじめてみた…」
立ち尽くしていると、彼と目が合う。
(え!?うわ、こっち来た!?どうしよ!?)
「なに?なんか用?笑」
彼はヘラりと笑ってりぃちょに声をかけた。
「えっ!?あっ、えっと…」
りぃちょが動揺して話せずにいると、キャメロンが口を開いた。
「今日からこのクラブに入るりぃちょくん。ニキくんに憧れてここに来たらしいから仲良くしてあげて」
肩をポンポンと叩かれながら紹介された。
「まじ!?お前は将来大物んなるよ〜!」
ニキが嬉しそうに肩を組んで、りぃちょの背中をバシバシと叩く。
りぃちょの中でひとつの言葉が思い浮かんだ。
圧倒的解釈違い。
そう、りぃちょは演技中のニキしか知らない。
儚くて、消えてしまいそうで、観客の目を奪う神様のようなニキしか知らなかったのだ。
「なんか…イメージと違うね、うん。よろしく…ハハ…」
りぃちょは死んだ目でどこか違うところを見ている。
「えっ?明らか冷めた反応するやん何!?」
『ニキくん、スケートやってない時はこんなウザいんだ…えぇ…』
キャメロンがりぃちょの後ろで勝手にナレーションをつける。
「はぁ!?」
「そんな感じ…」
「なんで!?」
氷上から降りると別人になる、なんてのはよくある話だとは思うが、まだニキしか知らないりぃちょには衝撃的な出来事なのであった。
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