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翌日
スケートリンクに向かう。
(今日からあのニキくんと一緒に練習出来るんだ…)
少し歩く速度が早くなる。
(はやく、はやく…!)
勢いよく扉を開けてスケートリンクを見回すも、ニキの姿は見当たらなかった。
「おはようりぃちょくん。」
「あ、おはよう…ニキくんは…?」
恐る恐る製氷をしているキャメロンに尋ねる。
「ニキくんなら昨日広島に帰ったよ。」
りぃちょに衝撃が走る
「そ、そんな………………」
絶望に打ちひしがれる。
実はリンクにいたりしないかな〜、なんて言う馬鹿みたいな希望を胸に周囲を見回すも、やはりニキの姿はなかった。
(まぁでも…一目見れただけでも………)
そんなりぃちょの肩を、キャメロンは容赦なく叩いた。
「りぃちょくん、今できる技、全部見せて。」
「え」
唐突に与えられた『試練』
りぃちょにはそう感じた。
もしここで失敗してしまったら、見捨てられてしまうかもしれない。
いままでの大人と同じだったらどうしよう。
面倒みれないくらい下手くそだったら、どうしよう
そんなことを考えながらも、震える体で氷上に上がった。
――恐る恐る一通り技をこなした後、ベンチに座って息をつきながら説明する。
「…一回転全種類と、スピンとステップは…基礎だけ…」
俯きながらそう伝える。
「…じゃあ、りぃちょくんが一番”好きな技”やってみて。」
「ジャンプスピンステップ全部ね。」
キャメロンはニコニコと当たり前かのように撮影用機器を取り出した。
りぃちょは固唾を飲み、氷上へと上がった。
シャアっ!と軽快なエッジの音を鳴らしながらスピンに入る。
アップライトスピン。
好きかどうかと言われれば微妙なところである。
(でもこれがいちばん得意だし…………)
後半で少しグラグラと揺れながらも5回転をこなす。
(―よし、次は…)
フォアクロス・バッククロス
一年間の練習で唯一お試しコーチに重点的に叩き込まれたステップだ。
(最後…!)
りぃちょ大得意のシングルアクセル。
思い切り踏み切り、上に大きく飛び上がった。
(回れ!回れ!絶対に認めてもらうんだ!!)
(じゃなきゃ、ニキくんに追いつけない!!)
調子はいい、だが、違和感があった。
(あれ…なんか早い、景色が見えない、)
りぃちょの身体を、一瞬恐怖が支配した。
(これ、もしかしてダブル――!)
お手つきありだが、なんとかダブルアクセルが決まった。
(いまの、今の何!?は、まじでダブル?怖かった、でも凄かったはず!ちゃんと着氷できなかったけど、決まった、ちゃんと!)
りぃちょの頭の中は喜びと恐怖、そして期待で渋滞していた。
一方、冷えきったリンクサイドで、キャメロンの額には汗が滲んでいた。
1年ちょっとでダブルアクセルを習得…
いままで、どれだけ過酷な練習を積んできたのだろうか。
(………怖いな。)
―着氷後、棒のようになった足を何とか動かしながら、キャメロンの元へ戻った。
「はぁっ…はぁっ………」
(初めてダブルとんだ…息きっっちぃ………)
汗で張り付いた前髪をどけて、顔をあげると
「ダブルアクセル、飛べるの?」
キャメロンが神妙な面持ちで、りぃちょを見つめていた。
「んや…いまはじめて……」
息切れをしながらも何とか喋る。
「はじめて、1年だよね?」
「うん…」
急にひとりでブツブツと呟きながら計画を立て始めた。
「スピンとスケーティングどうにかしよう…これから時間かけて2級大会に…ダブルアクセルはまだ怖いから封印して…」
キャメロンは腕まくりをしながらスケジュール表に諸々書き込んでいる。
見捨てられるかもしれない、なんて考えていたりぃちょは、拍子抜けで座り込んでしまった。
着々とホワイトボードに今後の課題が書き込まれていく。
そんな文字でギチギチのホワイトボードの1番上には、大きく
『ニキくんを超える』
と書かれていた。
「ぁえ、これ…」
「どうせなら”ニキくんみたいになる”じゃなくて、”ニキくんを超える”方がいいなって思って。」
キャメロンはそう言って、マーカーに蓋をしながら笑った。
(キャメさんは、おれに可能性を感じてくれてるのかな…口先だけの夢だって、笑わなかったな。)
お試しで通っている時に、おれの夢を聞いて周りの大人が笑っていた。
どうせ直ぐに辞める。
ニキ選手みたいになるなんて、夢のまた夢だ。
ありえない…と。
…一瞬コーチを担当していた人間でさえも。
「……キャメさん!」
「!」
「これから、よろしくお願いします!!」
りぃちょは、深々と頭を下げた。
キャメロンはそんなりぃちょの姿を見て、思わず笑みがこぼれた。
「はは、こちらこそ!」
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