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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第四十四話 開けなかった記録
「病院」
その文字を見つめたまま、彼は動けなかった。
ファイルを開けば、何か分かるかもしれない。
そう思うのに、指が画面の上で止まる。
病院。
その言葉だけで、胸の奥がざわつく。
自分がなぜ病院にいたのか。
何があったのか。
そこだけが、どうしても思い出せない。
彼は一度画面を閉じた。
まだ開く勇気がなかった。
その夜、いつものように彼女と話す。
『今日、昔のデータ見てた』
『何か見つかった?』
彼は少し迷ってから送った。
『「病院」って名前のファイルがあった』
しばらくして返信が来た。
『病院……?』
『うん。日付が、あの日の次の日だった』
『それって……』
彼女も言葉を止めた。
『何かあったのかな』
『分からない』
『開いてみた?』
『まだ』
彼女は、それ以上急かさなかった。
『無理に開かなくてもいいと思う』
その言葉に、彼は少し救われた。
『ありがとう』
『でも、もし怖いなら一人で見ない方がいいかも』
『うん』
しばらくして、彼女からもう一通届いた。
『私も今日、昔のものを探してみた』
『何かあった?』
『一つだけ』
送られてきたのは、古いメモの写真だった。
日付だけが書かれている。
それは、彼が見つけたファイルと同じ日だった。
『これ、何のメモ?』
『分からない。私が書いたものなのかも分からない』
メモには、短い言葉が残っていた。
「連絡する」
それだけ。
彼はその文字を見て、妙な違和感を覚えた。
『誰に?』
『分からない』
『でも、あの日の次の日なんだよね』
『うん』
二人とも黙った。
今まで見つけたものは、
すべて「あの日」に集中していた。
写真。
駅。
紙。
そして、翌日の病院という記録。
少しずつ、何かが見え始めている。
けれど、まだ一つにつながらない。
彼はもう一度、閉じたファイルを開いた。
今度は迷わなかった。
中には、一つの画像が入っていた。
病院の受付らしい場所。
撮影日は、あの日の翌日。
そして画像の端に、紙が一枚置かれていた。
文字はほとんど見えない。
ただ、最後の一行だけ読めた。
「本人には、まだ伝えない」
彼の指が止まった。
「……何を?」
その瞬間、頭の中に白い天井が浮かんだ。
誰かの声。
「大丈夫?」
そして、自分が何かを尋ねている。
「……誰?」
そこで記憶は途切れた。
彼は画面を閉じた。
今までただの空白だと思っていた記憶。
その空白には、何か理由がある。
そのことだけが、初めてはっきりした。
彼は彼女へのメッセージ画面を開いた。
けれど、何を書けばいいのか分からない。
結局、短い一文だけを送った。
『俺、昔のことをちゃんと調べてみようと思う』
すぐに返事が来た。
『うん。一緒に考えよう』
その言葉を見て、彼は少しだけ安心した。
まだ何も分からない。
でも今度は、逃げずに向き合ってみようと思った。
コメント
1件
ふわぁ〜…このエピソード、じわじわくるね…!😭💕 「病院」っていうワードだけで胸がざわつく感じ、すごく伝わったよ。そして彼女が「無理に開かなくてもいい」って言ってくれる優しさに、私もほっとした…。 最後の「本人には、まだ伝えない」っていう紙切れからの白い天井のフラッシュバック、マジでエモすぎる…!何を伝えなかったのか、続きが気になって今夜眠れそうにないよ〜!!😫💦 「一緒に考えよう」って言ってくれる彼女の存在が、この重たい謎に温かさをくれてる感じがして、すごく好き。次回も絶対読む!!✨