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閉ざされた街、セイトーシティ。
あの日、世界は滅んだ。生き残った人々は、助かるために、外部を拒絶した。
それから何年が経った?
夜、喧騒、街の裏。
見た目は現代の――君らが知っている――大都会と変わらない。違いはただ、この街が外部に閉ざされていることだけ。
いや、もうひとつ。
表通りを歩く人が言った。「なあ、今何か、女性の悲鳴のようなものが聞こえなかったか?」
連れの男が答える。「さあな、気のせいじゃないか?」
本当に聞こえなかったのか、それとも関わりを避けたのか。だとしても、否定されるべきではない。生き残るためには、賢くなければならないのだから。
けれど。
いつの時代も、子どもは純粋だ。
そうだろうか?
訂正。いつの時代も、純粋な子どもはいる。
二人連れの男たちの後を少年が歩いていた。少年は聞いた。確かに悲鳴を。少年は駈けだした。声のした方へ。
――君たちには、それがどう見える? それをどう呼ぶ? あるいは愚かさと、君は言うだろうか?
こんなニュースを聞いたことはないだろうか。子ども、孫、友人、兄弟、姉妹、生徒が海、川、池で溺れて、助けようとした父、母、おじいちゃん、おばあちゃん、友達、兄、姉、先生が死にました。二人とも死にました。
1+1=2。
溺れた人間を素人が助けるのは難しい。もし見捨てたら?
1+0=1。
それが正しいのか? 選べ、計算式通りの人生を生きるか、それともくだらない算数の問題を破り捨てるかを!
少年は選んだ。悲鳴の聞えた方向を。
そして少年は出会った。さっきまで命が灯っていたものの沈黙と、咆哮に。
この街の、もうひとつの違い。閉ざされた街に侵入したなにものかが、夜の闇に潜んでいること。その存在は、秘匿されている。
闇に覆われ、よく見えない。それは人のようであり、獣のようであった。その眼は赤く、その体は黒かった。まるで、闇より出でて、闇より深く――。
少年は助からないと思った。明日の学校、友達、先生、父さんと母さん。お母さんは、僕が死んだら泣くだろうか。
闇の獣がこちらに近づいた。少年は目を閉じた。と、そのとき――
ギャッ!
短い獣の鳴き声と、火薬の匂い。
「立てるか、少年?」
眼を開けると、そこには黒い亡霊が立っていた。真っ黒い衣装に、つば広の帽子。顔も上半分は黒いマスクに覆われている。それは、闇から生れた、もうひとつの魔人に見えた。
「俺があいつを引き受ける。その間に逃げろ。お前がいては、狩りの邪魔だ」
男は片手に拳銃を持っていた。いや、銃の形はしているが、異様に大きい。
「聞こえているか?」
「は、はい!」
少年は立ち上がると、急いで表通りに向かって走り出した。一瞬、闇の獣がそちらを見た。だが、闇の魔人が立ちふさがり、その視線を切る。
「さあ、狩りを始めようか」
男は異様で巨大な銃を構える。
翌日。
少年は学校で、昨日の出来事を友達だけにはこっそりと打ち明けた。けれど誰も信じなかった。
「嘘つき!」
少年は怒った。嘘などついていない。けれど、ふと不安になった。――あれは、現実に起こった出来事なのか?
少年は、怖かったけれど、学校が終わると昼間の内に、昨日の路地裏に行ってみた。
何もなかった。
倒れていたはずの女性も、血の跡も。獣がいた痕跡も。魔人の影も。
やはりあれは夢だったのか? 少年はその場を後にした。
ただ、立ち去る寸前、火薬の匂いが一瞬漂ったような気がした。あれは、夜の名残りだったのだろうか?(終)