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教会に行く気は全く無いので、近くのベンチで時間を潰そうと思う。
あそこなら、あの幽霊の監視もないし自由に過ごせる。そうして何時間かブラブラしていれば彼にも疑われずにうちに帰ることができるだろう。
***
「げ」
席についておよそ30秒。私はこの喫茶店に入ったことを後悔した。
目の前には、友人たちと仲良くテーブルを囲み談笑する救世主、ヒスイの姿があったからだ。
あんなものを目の前にしては、せっかく飲む紅茶も不味くなる。さっさと帰ろう。
予定より早いけど、「修道女はいなかった」とでも言えばあの馬鹿幽霊は信じる、はず。
席を立とうとした、その時。
「あ、トウカちゃん!」
向こうから手を振るヒスイが目に留まる。
最悪だ。気付かないふりをして帰ろう。
早足で喫茶店の出口へと向かうと、追いかけてきたヒスイに肩を叩かれる。
ほんとに、最悪だ。
「久しぶり!体調は大丈夫?」
「大丈夫だけど。」
小さな沈黙。
「そっか、安心したよ…だってトウカちゃんと私、全然話したことないから…」
「…そうね。これからもきっと話すことはないだろうし、さっさと戻れば?」
ヒスイが言葉を言い終わらないうちに、返事をして今度こそ喫茶店を出ようとした。
しかし、ヒスイはそれを許さない。私の袖を引っ張り、こういった。
「ね、ねぇ…私、トウカちゃんに何かしたかな? だとしたらごめんね、直すから少し話を聞いて欲しいなって…。」
「別に何も。ほら、向こうであなたの友人が武勇伝を聞きたがってるでしょ?」
「あなたの」を強調して答える。
そして、向こうでこちらの様子を伺う彼らに目を向ける。
彼らといえば、私の顔色を見ながらヒソヒソと話し合っている。
「武勇伝なんて…そんな大層なものじゃないよ。
私は当然のことをしたまでだから…。」
「へぇ。その『当然のこと』が出来ない私に言うんだ?」
「あ、ごめん、違うの…そういうことじゃ…」
「……。」
流石にイライラしてきた。何か用があるなら言いなさいよ。本当、面倒臭い。
「ねぇ…トウカちゃん…」
「何?」
私が苛立ちを表に出して答えると、ヒスイは少し驚きながらも、小さく笑ってこう言った。
「何か、理由があるの?」
「理由?なんの?」
「今日のハルカのことも含めて、トウカちゃんがみんなに冷たくする理由…。」
「はぁ…。」
そういうとヒスイは、私の組んでいた手を両手で包んだ。いかにも「主人公」という顔だ。
これを心から思って、行動に移しているのだから、たまったものじゃない。一種の病気だ。
「過去に、何かあったんでしょ?きっと。」
「ない。私もう帰るの、どいて。」
「待って!絶対何かあるんだよ。」
「ないって言ったでしょ?残念なことにね、あなたの期待するような辛い過去もないの!
それがわかったなら、さっさと放っておいてよ!」
爆発した怒り。彼女に全てをぶつける。
私の舌は、思ったより上手く回った。私、こんなこと言えるんだ。自分でもすこしびっくりだった。
「皆が皆、辛い過去があると思わないで!
生憎、私は御涙頂戴な展開には持っていけないの!」
「と、トウカちゃん…」
「いいから。どいてよ。」
ヒスイの肩を押しのけて、喫茶店の扉をくぐる。その力でヒスイはよろめき床に座り込んでしまった。