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あ、やらかした。
そう後悔したのは、尻もちをついたヒスイに、ハルカが駆け寄った後だった。
「ヒスイ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。心配かけてごめんね。」
「……。」
ハルカが私を、少し怯えたような、怒ったような顔をして私を見つめる。
「ねぇ、トウカ。」
「何?」
「ヒスイに嫉妬するのは分かるよ。でも、こんなことしなくてもいいんじゃないかな。」
溢れる怒りを必死に抑えたような声だ。
「嫉妬?ふざけないでよ。」
少し声を張った私に、ハルカが肩を震わす。
「嫉妬?嫉妬ですって?こんな奴に、こんな奴に私が嫉妬したって言うの?!」
「トウカ、待って…」
ハルカの静止も聞かず、私は続ける。
いつの間にか瞳からは涙がこぼれていた。
「うるさい!元はと言えば、あなたが裏切ったのがいけないの!あなたが…私の友達じゃなくなって…」
「トウカ?何言ってるの、僕はずっと…」
「あなたなんて転生してこなければ良かったの。」
ヒスイを見つめてそう言い捨てた。
貴方が転生してくるまで私は、この街でたった1人の転生者だったのに。
私を彩る絵の具をようやく見つけたのに。
ここまで考えて気づく、ハルカの言う通りだ。
ただの嫉妬じゃないか。
「…トウカ…大丈夫?」
ハルカが心配そうに私の肩に触れる。
「大丈夫。もう、いいから。」
フラフラと喫茶店を後にする。
他の客からの視線が痛い。
これからどうしようか、いっその事死んでしまおうか。そうしたらみんな悲しんでくれるはず。私のために、涙を流すはず。
「随分と派手にやらかしたものね。」
後ろから、ヒスイの声でも、ハルカの声でもない声が聞こえる。
私を揶揄うような、ソプラノ。この声は…。
「アスカ…。」
「ごきげんよう、嫌われ者さん。」
大した日差しでもないのに、フリルのついた日傘をさし、豪華なゴスロリに身を包んだ彼女。
黒いツインテールが風に吹かれて左右に揺れる。
この街で特に力を持った財団、ルシフェル家の令嬢。ルシフェル嬢ことアスカだ。
私との関係は、俗に言う腐れ縁。
「一体なんの用よ。ここ最近顔を見せないと思ったら。重要な商談は?」
「あぁ、あれね。」
レースの手袋をつけた手を、眉間に当て、険しい顔をする。
「中止になったわ。ちょっとした事件があったの。」
「事件…。」
「新聞読まないの?貴方は。人外の人権がどうのこうの。」
自慢げな顔をして、こう続ける。
「差別主義者とは関係を断つ。我が家の家訓よ。」
いや、知らないけど。前から聞いていた話によると、今回の商談はかなり大きなものだったはずだ。それを断るとは、よっぽど相手が癪だったのだろう。
「あぁ、あと。」
「何?」
アスカはいかにも楽しげに、私にこんなことを話した。
「うちにね、最近面白いやつが居着いたのよ。」
「…居着いた?新しい使用人?」
使用人にしては、「居着いた」という表現が引っかかる。
「居候よ。なにかの機会に見に来るといいわ。
もし、生きてたらの話だけど。」
生きたたら?何してるの居候に。
「明日にでも見に来なさいよ」と言い残し
アスカの背中は遠ざかっていった。
やることも無いし、帰ろう。
私を押し返す向かい風に、靡く髪を抑えながら帰路についた。
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