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コメント
8件
遂に想いが通じ合って良かったです!3人のこれからのいちゃいちゃが楽しみすぎます···!2人がちゃんといいんだよって言ってくれて良かった☺️❤️
やっと言えた…2人とも…。3人らしい恋愛って感じ、すごく好きです…
「ふぅー、お腹いっぱい。」
「すっごく美味しかったけど、冬にBBQはやっぱり寒かったねぇ。」
「確かに。今度は寒くない時に来ようよ。」
夕方、スタッフさんが大きな箱に入ったBBQセットを運んできてくれた。
箱の中には、お肉に海鮮、色鮮やかな野菜、そして締め用の焼きそばまで。
蓋を開けた瞬間、思わず歓声が漏れるほどの食材がぎっしり詰まっていた。
お腹がペコペコだったぼく達は、外のBBQスペースで夢中になって焼き始めた。
香ばしい匂いと湯気に包まれて、気がつけば夕闇が深くなっていた。
そして、数時間後。
お腹はパンパンで、指先は冷たくなってきたけれど、部屋の中に入るのがなんだか惜しくて、そのまま外に腰を下ろし、澄んだ夜空を見上げる。
冬の空は深くて、星が近い。
吐く息が白く広がるたび、胸の奥まで澄んでいくような気がした。
「やっぱり、星綺麗だったねえ。」
「うん…想像以上に綺麗〜。」
「ずっと見てられるね。」
吐く息が白く混じり合う。
しばらくの間、ぼくたちは満点の星空に吸い込まれるように、ただ黙って夜空を見上げていたのだけど…
ふいに、隣に座っていた涼ちゃんが、小さく息をついた。
「僕ね、今日…元貴に伝えたい事があるんだけど、聞いてくれる?」
そう言って、涼ちゃんは一瞬、若井の方をチラッと見た。
その視線に気づいて、ぼくもつられて若井の方を見る。
若井は、口をきゅっと結んで、少しだけ緊張した顔をしていた。
(…ああ、そういうこと、なんだ。)
胸の奥が、じわりと重くなる。
きっと、二人で話し合って、ちゃんと伝えようって決めたんだ…
最近、よく二人でコソコソ話してたけど。
やっぱりそういう事だったんだ…..
さっきまでの楽しくて、幸せだった気持ちは、冬の冷たい風にさらされた氷みたいに、あっという間に固まってしまった。
「…やだ。」
自分でも驚くくらい、反射的に口からこぼれた。
涼ちゃんが、少し驚いたように目を瞬かせる。
その顔が、どうしてかやけに遠く感じた。
「……どうして?」
「……別に。」
星はさっきと同じくらい綺麗なのに、視界がぼやけてしまう。
それが夜気のせいなのか、自分の目のせいなのかは、分からなかった。
「…元貴、」
困ったような顔をしている涼ちゃんに変わって、今度は若井が口を開いた。
ぼくの名前を口にした若井の声は、いつになく低くて 真剣で、胸の奥にずしんと落ちてくる。
その表情を見た瞬間、嫌な予感がさらに濃くなった。
… やっぱり。
二人して、そういう話をするつもりなんだ。
“元貴に知らせなきゃ”って、今日わざわざ…。
なら…それなら…
二人の口から聞く前に、自分で言ってしまったほうが、まだ傷は浅い…から…
「……二人で、付き合うことにしたとか?」
自分でも驚くくらい、淡々とした声が出た。
若井の目が大きく開かれる。
涼ちゃんは、はっと息を呑んだまま、何も言わない。
沈黙が、やけに長い。
星明かりに照らされた二人の視線だけが、まっすぐぼくに向けられている。
「…ふふっ。」
「え。」
「…は?」
最初にこの沈黙を破ったのは、涼ちゃんの柔らかい笑い声だった。
こんな張りつめた空気の中で、その音があまりにも場違いで、ぼくだけじゃなく若井もきょとんとした顔をしている。
「あ、ごめんごめん。いや…まさか、そんな誤解をされてたなんて思わなくてさぁ。」
口元に笑みを残したまま、涼ちゃんは肩をすくめる。
その後、小さく『結構アピールしてたと思うんだけどなぁ。』と呟いた。
意味がすぐには飲み込めず、ぼくは首をかしげたまま、涼ちゃんの瞳を見つめる。
「…誤解って、何のこと?」
一瞬だけ視線を逸らし、そしてまた、真っすぐこちらを見返す。
夜気の中、その瞳が妙に澄んで見えた。
「僕が好きなのは元貴だよ。」
ぎこちなく笑ってそう告げられた瞬間、息が詰まった。
胸の奥がざわめいて、心臓が早鐘を打つ。
時間の流れがふっと途切れたみたいで、身体が動かない。
けれど、その笑顔と声色が、これが紛れもない本音だと告げていた。
「そんな…え…?…涼ちゃんが…ぼくの…ことを…?」
震える声が、冬の夜気に溶けていく。
思わず目を逸らすぼくに、涼ちゃんは迷わずもう一度言った。
「うん。好きだよ。」
真っ直ぐで、やわらかな声。
それは胸の奥深くにまで沁み込んで、逃げ場なんてなかった。
視界が滲んでいく。
ぼくも…涼ちゃんが好き。
けれど、この涙は嬉しさだけじゃない。
だって、ぼくは我儘で…欲張りだから。
「…あの…ぼく…」
三人で、同じ距離のまま、ずっと一緒にいたい。
だから、『その気持ちには応えられない』って言うつもりだった。
でも…
「待って、元貴。」
その一言が、息を止めさせた。
涼ちゃんはふと視線を横に送り、若井を見つめる。
「若井も言いたい事あるんじゃないの?」
呼ばれた若井は、一瞬だけ目を見開き、固まった。
けれど次の瞬間、何かを決めたように、唇を噛んでからゆっくりと口を開いた。
「おれも…元貴の事が好きなんだ。」
「…えっ。」
「その…もちろん、友達として…じゃなくて。」
若井の言葉が夜気の中で静かに響く。
その瞬間、堪えていた涙がぽろりと零れ、頬をつたった。
――どうして、こんな残酷なことがあるんだろう。
ぼくは我儘で、欲張りで…
若井のことも好きで、涼ちゃんのことも好きで。
二人とも、ぼくには必要で。
どちらか一人の手だけを取るなんて、出来ない。
だから、ぼくはこの想いを誰にも見せずにいようと決めていた…
本当は涼ちゃんに『ぼくも好きだ』と言いたい。
本当は若井に『ぼくも好きだ』と伝えたい。
でも、それを言ってしまったら、きっと何かが壊れてしまう。
だから…..
「…ごめん、なさいっ、、」
震える声が、夜の静けさに吸い込まれていく。
「ぼくは…二人の、気持ちには…」
そこまで言ったところで、嗚咽が込み上げ、喉が塞がった。
胸が締めつけられる。
嘘をつくことがこんなにもつらい事だなんて、ぼくは知らなかった。
「元貴。」
涙が溢れて、もう何も言えなくなってしまったぼくを見て、涼ちゃんがそっと名前を呼んだ。
「元貴の…本当の気持ち、聞かせてくれる?」
戸惑うぼくを見つめながら、涼ちゃんは優しい声で続ける。
「元貴、なんだかすごく辛そうだから。嘘…つこうとしてるんじゃないかって思って。」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
そっと頭を撫でられ、その温もりがじんわりと染みていく。
「おれ達…元貴のどんな想いも、ちゃんと受け止める覚悟は出来てるから。」
涼ちゃんの言葉を聞き、黙って見守っていた若井が静かにぼくの肩を引き寄せた。
二人のあたたかさに包まれて、重かった心が少しずつほどけていく。
ズルいよ…二人とも…。
そんなふうに言われたら…もう、嘘なんてつけないじゃんか…。
「ごめんなさいっ、ぼく…二人の事が好きなの。…涼ちゃんの事も、若井の事も…大好き。…だから、どっちか一人を選ぶ事なんて出来ない…だからっ、二人の気持ちには答えらないって…言わなくちゃって…..!」
涙で震える声を吐き出したぼくに、涼ちゃんは夜空を見上げながら、まるで独り言みたいに静かに言った。
「…別に、一人を選ぶ必要なんてないんじゃない?」
「…え?」
思わず息を呑んで、涼ちゃんの横顔を見返す。
ぼくの自分勝手な告白を聞いたはずなのに、その顔はいつも通りで、まるでこの答えを初めから知っていたかのような穏やかさをたたえていた。
「はぁー。まじでそうなるのかー。」
若井が、ぽんとポケットに手を突っ込みながら、同じように星を見上げて笑った。
驚きも怒りもなく、むしろ肩の力を抜いたみたいな声だった。
二人の間に流れる空気は、不思議なほど静かであたたかい。
ぼくだけが、その穏やかさから置き去りにされたみたいで、胸がざわつく。
涼ちゃんは“選ぶ必要はない”と言った。
若井は、それを否定しなかった。
そんなの…普通じゃないのに…..
「…そんなの…、」
「おかしい?」
涼ちゃんが、ぼくの胸の奥を覗き込むように問いかけてきた。
視線から逃げられなくて、ぼくは小さく頷く。
「おかしくても…僕達がそれでいいなら別によくない?」
「…。」
「僕達には、僕達だけの世界があってもいいんじゃないかなぁ。」
「そもそも、男三人でルームシェアってのも、普通じゃないしさ。今更じゃない?」
「…若井。」
「僕は、これからも三人一緒がいいなぁ。」
「おれも。…まぁ、ちょっとヤキモチ妬く事はあるかもだけど。」
「…本当に?本当に…そんな事、許されるの…?」
二人の言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
涼ちゃんはいつもの柔らかい笑顔を浮かべ、若井は少し悪戯っぽく笑っているけど…
「許されるかどうかは、」
「おれ達が決めることでしょ。」
「ねぇ、元貴はどうしたい?」
その瞳はどちらも真剣で、優しかった。
「…涼ちゃん、若井…大好き。ずっと…一緒に居てっ。」
「当たり前だよ〜。」
「頼まれなくても、そのつもりだし。」
夜空に溶ける声。
自然と三人の視線が重なり、肩が触れ合った。
その温もりと鼓動に、もう迷う理由なんてどこにもなかった…
・・・
「だから言ったじゃん。元貴は鈍感だって。」
「でも、まさか僕と若井が…なんて勘違いしてるなんてねぇ。」
「ちょ…!それはもう言わないでよっ。」
からかう二人の声が、夜空にふわりと溶けていく。
ぼく達は再び星を仰いだ。
想いが…願いが…叶った今、片時も離れたくないと肩を寄せ合いながら。
「さむっ。」
それでも、この星空を『ずっと見てられるね。』と言っていた若井が、肩をすくめて身体をぶるっと震わせながら、そう呟いた。
「そろそろ中に入ろうかぁ。」
笑い混じりに促す涼ちゃんが、すっと立ち上がる。
その仕草に合わせて、ぼくも腰を上げた。
「そうだ!お風呂入ろうよっ。」
そして、ぼくは夕飯前に言っていたお風呂に入る事を提案した。
三人で見上げた夜空は、名残惜しそうに瞬いていた…..
…to be continued