TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

物価高騰で何をするにもお金が掛かる昨今。

趣味のドライブもたいがい日帰りで済ませるようになったけど、一昔前は泊まりがけで出掛けることが多かった。

事前に目的を決めず、気の向くままに走るので、事前に宿の予約なんてしない。

ハンドルを握り続けてあくびが多くなってきた頃、通りすがりの目についたビジホ等に駆け込む。

が、宿なんてまず無さそうなど田舎だと宿探しにも一苦労。

そんなときに重宝するのが、いわゆるラブホテルだ。

意外に知らない人が多いが、ラブホには一人きりでも入室できる。

中にはカップルじゃないと何故だか割増料金を取られるヤクザな店もあるが、いつ行ってもたいてい何部屋かは空いてて、事前予約ナシがデフォで、部屋は清潔で食事も摂れるなどサービスも行き届いてる。

ところが…その宿はそんな僕のコンビニ的ラブホ万能感を軽く覆してくれた。

初夏の岐阜県の長良川沿いを真夜中に流していたときのことだった。

そろそろ横にならないと本気でヤバいと思ったとき、ちょうど川向こうに赤く光るラブホのネオンサインが目に入った。

車一台がやっと通れる吊り橋を渡って、宿がある対岸へと。

たどり着いたそこは、若干薄汚れて見えるものの、田舎にはよくあるモーテル型の店舗だった。

一階の車庫に車を停めて、その後ろにあるドアを通って階段を上れば、誰にも出会うことなく上階の部屋に入れる仕組み。

帰る時はたいてい自動会計になってるから、機械に現金やカードを通すだけ。

そんなお気楽気分で部屋のドアを開ければ…

「…怖っ。これは怖い」

思わず声が洩れた。

薄暗い室内には大理石風の壁紙が張り巡らされ、窓隠しの化粧板には何のつもりかミュシャの壁画風絵画がデカデカと貼られていた。

ミュシャは好きだが深夜に見るもんじゃない。

慌てて部屋の照明スイッチを探し、いちばん明るい状態にした。

どこの宿にも必ず備え付けられているテレビは、当時でも希少になっていたブラウン管式。しかも故障中で電源が抜かれていた。

仕方なく風呂にでも入るかとバスルームに行ってみれば…浴槽の排水口から蟲が湧いてて、到底入れたもんじゃない。

こりゃアカンわ、帰ろ。入ったばっかで料金を支払うのは勿体無いけどやむを得ん…

と思ったら、自動支払機も故障中で、係員に直に支払ってくれと張り紙が!?

おいおいもう日付け変わってんだぜ、こんな田舎宿で人なんて呼べるのかよ?と思いつつフロントに電話してみたら、すぐに繋がった。

しばらくして係員が来た。戸口には食事等を提供する小窓がないから、仕方なく部屋に通した。

いかにも田舎のおばあちゃんといった風情の彼女は、

「ボロくてごめんなさいねぇ。色々直したいけど、予算が無くてねぇ…。泊まりでも基本料だけで良いよ」

格安だった。けどそれでも泊まる気は起きないレベルだけど、近くで他に宿など見つかるまい。

帰る機会を逸してしまい、結局泊まることにした。

幸いベッドは綺麗だったので、下着だけで横たわった。

…静まり返った室内に、宿の真横を流れる長良川のせせらぎがやけに大きく響き渡る。

対岸の車道からはけっこう離れてるし深夜だしで、他にはなんの物音もしない。

こういうのもなかなか風情があって良いかもしれないなぁ…とか考えてるうちに睡魔に襲われた。

…トン。トントン。

何処からともなく聞こえ始めた物音に眠気が吹き飛んだ。

慌てて携帯で時刻を確認すれば…深夜三時過ぎ。

二時間程度は眠れたようだが、この物音は川のせせらぎとは比較にならないほど不快で、これ以上は眠れそうにない。

雨でも降り出したのかと考えたが、この不規則な物音は明らかに雨音じゃない。

明らかに誰かが屋根裏を歩き回ってる。

入店時にろくに確認しなかったけど、他に宿泊客がいたんだろうか。よりにもよって上の階に。

それにしても、夜通し歩き回るなんておかしな奴だな…。あ〜も〜うるさい!

頭から布団をすっぽり被ったら、少しはマシになった。初夏の陽気でじっとり汗ばむけど、しょうがない。

そしたら…結局また眠れたようだ。

もう絶対寝れないと思ったのに、よっぽど疲れていたらしい。

…次に目覚めたときには午前五時ちょい。

足音はさすがにもう止んでいた。

まだ早い気もするけど、田舎であってもラブホから出るところを誰かに見られるのはなかなかに気まずい。

料金の支払いはもう済んでるから、ちゃちゃっと身支度を済ませて、黙って部屋を引き払った。

宿の外はもう薄明るかった。

長良川には早朝から釣り糸を垂れてる人影があちこちに見受けられた。

来た時と同じように吊り橋を渡って車道に出た。

そこで宿のほうを振り返って…心底ギョッとした。

宿は二階建てだった。

じゃあ、あの足音の主はどこにいたんだ?

…という投稿を過去にネット掲示板で行ったら、常連さんからは「カラスじゃない?」とレスが付き、そーかもしんないなぁ…と、その時は納得した。

けど…カラスって、深夜三時から活動してるもんなのかねぇ?

この作品はいかがでしたか?

29

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚