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初コメ失礼致します…!文章の書き方がとてもとても!!大好きです!!😭✨
side wakai(28)
「ねぇ、お兄さんギターやってるの?」
しまった。
いつものくせでつい、アンプとエフェクターの繋ぎ方を見ちゃうんだよなぁ。いや、職業柄というか、なんていうか。
17歳の元貴は物凄い不審そうな目で俺を一瞥してくる。確かに、いきなりこんな大人がいたら怪しむとは思う。俺だって間違いなく警戒する。
「うん、だって俺ギタリストだもん」
あ、馬鹿。
何勝手に口滑らしてんだよ俺。
元貴の顔がちょっと嬉しそうな顔になって。
ああ、興味湧いた時の元貴の顔だって思った。
懐かしい気持ちでいっぱいになる。
俺が大好きな元貴。
いや。
俺が大好きだった元貴の姿がここにはある。
お金なんてなかったし、実力も人脈もまだまだ足りなくって。
悔しくてたまらなくて、泣きそうになったあの日々。
でも、楽しかった。
今が楽しくないなんてことは決してない。
あの頃の俺たちが必死にもがいてきたからこそ今があるのも充分にわかっている。
だからこそ、変わってしまったかもしれない元貴を見るのが辛いと思ってしまうのは否めない。
隣にずっといる俺が、元貴の一番の理解者で、崇拝者で、そして。
そう思い込んできたのは、元貴が大好きだったから。
踏ん張って、這いつくばって、歯を食い縛る元貴の傍にいたかったからだ。
でも。
本当にそれが元貴のためだったのかな。
そう思うようになってしまったのも事実だ。
俺が元貴をダメにしてるんじゃないか。
そういう不安が、まるでインクの染みのようにじわじわと広がっていった。
元貴は、本当は俺なんかいなくてもいいんじゃないかなんて思い始めていたのを、必死に否定していた。
そんな自分が惨めで、情けなかった。
「ねぇなんか弾いてみせてよ」
そんな俺の暗い気持ちを掻き消すような、17歳の元貴の笑顔。
ああ、この顔が大好きだった。
俺が、ずっと一緒にいたいと思った顔だ。
もう二度と見ることなんてないかもしれないと思っていた。
「いいよっ」
だから、つい。
つい、何にも考えずに。またしても二つ返事をしてしまった。
元貴(17)は俺に自分のギターを差し出す。
当然ながら、俺のギターなんてない。
ストラップを肩にかけて、どうしようかと思ってしまった。
未来? の曲は絶対に弾けないから、昔の、デビュー前にやってた曲を弾かなきゃ。
いや、そんなの弾いたらあれか、余計に怪しまれちゃうかな。
瞬時にそんなことが頭を駆け巡る。
ああどうしよう。
エフェクターの調整をするフリをしながら、俺は必死に考えた。
その結果、好きだった洋楽のフレーズを鳴らすことにした。
これなら絶対に大丈夫、そう思って弦を弾く。
少なくとも、この頃よりかは、上達してる筈。そう思いながらギターを鳴らした。
元貴の目が、キラキラと輝いているのが視界の端に映る。
「うっわ、すご…マジカッケェ…」
パチパチと手を叩く元貴はまるで鳩が豆鉄砲喰らったような表情で。
「このくらいでいいかな」
これ以上やっちゃうとボロが出ると困るし、なんて思いながら俺はギターを元貴に返す。
「ね、お兄さん凄いね! こんなギター上手いんだ。俺、びっくりした」
さっきまでの敬語が全て吹っ飛んでしまった元貴は急にニコニコしながらギターを片付けていく。
「そ、そうかな」
やってきた年数もあるしね、なんて思いながらも、愛想笑いを返す。
「ギター弾く音でワクワクしたのなんか、二度めでさ」
二度め?
「へえ。二度めなんだ」
「うん、二度め。初めてはね、うちのバンドのギターなんだ。若井って言って、俺の幼馴染。ギターめちゃくちゃ上手いんだ。お兄さんと若井、いつかセッションして欲しいなって思っちゃった」
元貴の口から出る、俺の名前。
ああ。
あの頃の元貴は、俺をそんなに評価してくれていたんだな。
そう思うと胸がギュッとなった。
元貴についていきたくて、追いつきたくて。
がむしゃらに頑張ってきた俺。
俺のことをそんなふうに思ってくれていた。それがわかっただけでも
俺は救われた気がした。