水青 陽キャ×陰キャ
誰かさんの誕生日小説
だいぶ続きますわw
朝の教室って、だいたいカオスだ。
寝てるやつ、ギリギリで宿題してるやつ、スマホで動画見てるやつ。
そんな中、僕——ほとけは今日も元気に教室のドアを勢いよく開けた。
「おっはよーございまーす!!」
静まり返る教室。
誰も返事をしない。
……え、無視? 僕、空気読めてないタイプ?
「うわ、またあいつ来たで。」
誰かが小声でつぶやく。
うん、知ってる。
陽キャって、テンションが高すぎると逆に浮くんだよね。
でもまあ、そんなの気にしてたら人生もったいない。
僕は机に鞄を置き、周囲を見渡す。
そして目が合った。
——教室の一番後ろ。
フードを深くかぶって、顔の半分も見えない男子。
あの独特な「俺に話しかけるなオーラ」。
それでも、なぜか目が離せなかった。
彼の名前はいふくん。
入学してから半年経つけど、僕とほとんど会話したことがない。
でも、一度だけ聞いたことがある。
休み時間に、誰かが「いふ、ノート見せて」って言ったら——
「嫌や。自分で書けや。」
即答。
しかも声低め。
なんかちょっとカッコいい。
……僕はその瞬間、変なスイッチが入ってしまった。
「この人、仲良くなりたい」って。
なぜか。
知らん。陽キャの本能だと思う。
◇
昼休み。
僕はお弁当を持って、いふくんの席の前に立った。
「なぁ、ここ座っていい?」
「……なんでやねん。」
顔も上げずに返される。
関西弁。声、低っ。
「いや、あの、ほら、一人で食べるのも寂しいじゃん?」
「別に寂しない。」
「いやいや、そんなこと言わんとさぁ!」
「うるさい。陽キャの声デカいねん。」
ぐさっ。
刺さる。けど、ちょっと面白い。
「じゃ、静かに食べるから!」
「ほんまか?」
「ほんま。」
そう言って、いふくんの前に腰を下ろした。
彼は明らかにイヤそうな顔をしていたけど、追い出そうとはしなかった。
その微妙な優しさに、僕は勝手に感動していた。
「……お前、変なやつやな。」
「よく言われる!」
「褒めてへん。」
「わかってる!」
会話、成立してる。
やった。これ、たぶん進歩だ。
◇
数日後。
僕は勝手に「いふくん観察日記」を脳内でつけるようになった。
・授業中→寝てる。
・昼休み→弁当、コンビニパン率高し。
・掃除時間→モップでサボり。
・体育→全力でサボり。
つまり、陰キャのプロ。
なのに、なぜかクラスの女子たちは「いふくん、なんかミステリアスでかっこよくない?」って言ってる。
意味がわからん。
同じ教室にいる僕の評価は「騒がしいバカ」なのに。
「なぁ、いふくん。」
放課後、帰り支度をしている彼に声をかけた。
「俺とお前、なんかタイプ真逆じゃない?」
「いや、見たらわかるやろ。」
「だよね! だからさ、仲良くなったら面白くない?」
「なんでそうなるねん。」
「陽と陰、合わさったらちょうどいい感じになりそうじゃん?」
「いや、爆発するやろ。」
「え、混ぜたら危険?」
「せや。」
即答。ツッコミ早い。
ていうか、関西弁のテンポ良すぎて会話楽しいんだけど。
「でもさ、爆発してもいいじゃん。」
「お前、何言うてんねん。」
「だって、退屈よりマシでしょ?」
彼は少しだけ眉を上げて、ため息をついた。
けど、ほんの一瞬、口元がゆるんだ気がした。
「……アホやな。」
「褒め言葉として受け取っとく!」
「勝手にせぇ。」
なんだろう。
その「勝手にせぇ」が、思ったより優しく聞こえた。
◇
ある日、僕は気づいた。
いふくん、意外とツンデレだ。
たとえば、僕が風邪で学校休んだ日の翌日。
「昨日どうしたん?」って誰も聞いてくれなかったのに、
いふくんだけが休み時間にぼそっと言った。
「……無理すんなよ。」
「えっ!? 今なんて!?」
「聞くなボケ!」
「いやいや、優しい言葉をもっかい!」
「二度と言わん!!」
顔、赤い。
耳まで真っ赤。
かわいい。
その日、僕はノートの隅に大きく書いた。
【今日:いふくん=ツン80デレ20】
……研究対象として最高。
◇
放課後。
僕は校門で、彼を待っていた。
「なぁ、今日帰りゲーセン行かん?」
「行かん。」
「プリクラ撮ろうよ!」
「絶対嫌や。」
「なんで! 思い出作りだよ?」
「お前とそんな思い出いらんわ。」
「じゃあ、僕が勝手に撮る!」
「ストーカーか。」
「ストーカーは違う! 友情カメラマン!」
「そんなもん存在せぇへんわ!」
……うん、今日も楽しい。
結局、無理やり連れて行った。
そして無理やりプリクラ撮った。
いふくん、完全に無表情。
でも僕は笑ってた。
シャッターが切れる直前、ほんの一瞬だけ、
彼が小さく笑った気がした。
プリクラを見返すと、その一瞬がちゃんと写ってた。
だから僕はそのシールを、学生手帳に貼った。
大事な「証拠」として。
◇
その日の夜。
スマホに通知が来た。
知らない番号からLINE。
内容は一言。
「……あんま人に見せんなよ、あの写真。」
名前を見た。
「いふ」。
思わず笑って、すぐ返信した。
「見せないよ。僕だけの宝物だから。」
少し間があって——既読がついた。
そして数秒後。
「……アホちゃうか。」
短い返信。
でも、なんか心臓が変な音した。
◇
次の日の朝。
教室で顔を合わせた瞬間、彼は目をそらした。
「おはよ、いふくん。」
「……昨日のこと、忘れろ。」
「いや無理。忘れられるわけないでしょ。」
「お前ほんま面倒くさいやっちゃな。」
「でしょ? でも、そんな僕のこと、嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いや。」
「えーほんとに?」
「ほんまや。」
「じゃあ、嫌いな人と傘相合いした理由は?」
「………………なんで覚えとんねん。」
「そりゃもう、だって初めてのドキドキ体験だし!」
「アホや、こいつ。」
呆れながらも、いふくんは小さく笑った。
僕の胸の中で、また心臓が鳴る。
多分——もう気づいてる。
僕は彼のことが、好きだ。
この鈍感で、ツンツンで、でも優しいいふくんのことが。
……でもまあ、焦らなくてもいいか。
だって、こうやって毎日笑っていられるなら、
恋の始まりとしては、最高だと思うから。
コメント
2件
あのえっとえーと 桃白で陽キャ陰キャできますか(((