テラーノベル
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そうして2人目の悪者を討伐。
教室の床には、黒い影のようなものが溶け残っていた。
さっきまで、確かにそこに「悪者」がいたはずなのに。
詩夏は、少し荒くなった呼吸を整えながら、自分の手を見る。
氷はもう消えていた。
冷たさだけが、じんわりと残っている。
『…終わった、の?』
ぽつりと呟くと隣で琴音が大きく息を吸った。
『やったあ!!勝ったじゃん!!』
拳を握りしめて、ぴょんと跳ねる。
いつもの明るい声。
さっきまで命懸けで戦っていたなんて、嘘みたいだった。
『ほらみてよ詩夏!私達、ちゃんとやれたじゃん!!!』
詩夏は遅れてうなずいた。
『うん、ちゃんと…倒せたよね』
悪者はもういない。
空間を覆っていた暗さも消え、教室は元の明るさを取り戻していた。
窓の外から、部活の掛け声まで聞こえてくる。
まるで、何事もなかったみたいに。
『ね!ちなちゃん!勝ったよね!?』
琴音が振り返って声をかける。
廊下側の壁にもたれていたちなは、少し遅れて手を叩いた。
『うん…すごいよ2人とも…!!!』
笑顔だった。
でもその笑顔は、どこか引きつって見えた。
詩夏は、なぜか胸の奥がざわついた。
(……なんだろう)
怖かったはずだ。
勝てて、ほっとしたはずだ。
それなのに、ちなを見ていると、安心とは違う感情が湧いてくる。
『ちなちゃん、どうしたの?元気ないじゃん』
琴音が首を傾げる。
『え?そんなことないよ〜』
ちなは、いつもの調子で笑ってみせる。
『初めてにしては上出来だよ。 もう、 先輩の出番無くなっちゃうくらいだね』
『えー!それま困る!』
琴音は笑いながら言った。
『なんかちなちゃんが一緒ならさ、なんか負ける気しないもん!!』
詩夏も小さく頷く。
『うん、ちなさんがいると安心する』
その言葉を聞いた瞬間。
ちなの喉が、ひくりと鳴った。
ちなは、知っている。
この「勝利」は、はじめてじゃない。
さっきの戦闘。
その前にも、前にも、前にもあった。
一度目の世界では、
琴音が勢いよく突っ込んで、胸を貫かれた。
二度目の世界では、
詩夏が氷を張るタイミングを間違えて、砕けた。
三度目。
四度目。
叫んだ。
泣いた。
吐いた。
そして、五度目。
ようやく、今の形に辿り着いた。
——それでも、2人は何も覚えていない。
『…』
ちなはぎゅっと拳を握る。
『ごめん。』
思わず声が漏れた。
『え?』
琴音がきょとんとする。
『え、なに?なんで謝るの?』
詩夏も首を傾げていた。
ちなは慌てて笑顔を作る。
『あっ、ちがっ……なんでもない!!』
でも、その場にいるのが苦しくなっていった。
『ちょっと風に当たってくるね!』
そう言い残し、ちなは教室をとびだした。
廊下は静かだった。
誰もいない。
ちなは壁にもたれ、そのまま座り込む。
『…よかった』
震える声でそう呟いた。
『今回は…ちゃんと勝てて… 』
でも次の言葉が出てこない。
勝てなかった世界。
守れなかった世界。
泣き叫ぶ自分。
全部、覚えているのは自分だけ。
『これだけは、何回やっても慣れないなぁ、』
教室では 何も知らない2人が笑っていた。
それがちなにはいちばんつらかった。
かちました!
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