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朝の校舎は、前日と何も変わらないように見えた。
廊下は整然としていて、鐘は正確に鳴り、教師たちはいつも通り立っている。
――だが、リンクには分かっていた。
昨日の出来事が、存在しないことにされている。
段ボールの山は片付けられ、床に残っていたはずの擦れ跡も消えていた。
ミス・サークルは、何事もなかったかのように授業の準備をしている。
生徒を追い回した教師。
振り下ろされた凶器。
あれは、夢ではない。
リンクは席に着きながら、静かに思う。
(……ここは、ただの学校じゃない)
その考えは、恐怖ではなく、冷静な確信として浮かび上がった。
昼休み。
リンクは、人の少ない渡り廊下で、あの生徒と再会した。
昨日助けた生徒は、周囲を警戒するように視線を走らせてから、小さく口を開く。
「……昨日のこと、誰にも言わないでくれてありがとう」
「話せ」
短い言葉だったが、拒絶ではない。
生徒は一度、唾を飲み込んだ。
「ここは、普通の学校じゃない」
「成績が悪いと……“処理”される」
リンクの眉が、わずかに動く。
「落第すると、追われる。逃げ切れたら許されるけど……逃げ切れなかったら……次の日から、いなかったことになる」
その言葉で、リンクの中の点が線になる。
呼ばれない名前。
最初から空いていた席。
誰も疑問を持たない不自然さ。
「先生たちは、それを“正しい”って思ってる」
「だから……助けてくれた人は、初めてだった」
リンクは、生徒の顔を真っ直ぐに見た。
「逃げろ。できるなら、ここから」
生徒は小さく頷き、足早に去っていった。
その直後、リンクの腰でシーカーストーンが震える。
リンクは人気のない場所へ移動し、画面を確認した。
《リンク、様子が変わりました。 何か分かったのですね?》
しばらく考え、言葉を選ぶ。
『ここは普通の学校じゃない。 成績で人が消える』
返事は、少し遅れて届いた。
《この世界は、秩序を装った淘汰システムの可能性があると……》
『原因は、この世界の中枢――fpeそのものに存在しているはずだ』
《あなたが転入したのは、きっと偶然ではありません》
リンクは画面を見つめる。
『奴らは俺には、まだ気づいていない。生徒は見捨てない』
しばらく沈黙が続いた後、ゼルダから短い返答。
《……無事でいてください》
『必ず、脱出方法を見つけます』
通信を終え、リンクは校舎を見渡す。
白い壁。
整った机。
笑う生徒たち。
すべてが「正常」を演じている。
だが、リンクの目にはもう違って見えていた。
ここは、学びの場ではない。
生き残るか、消えるかを選別する場所だ。
リンクは静かに拳を握る。
ポーチの中で、マスターソードが、わずかに応えるように重さを増した。
――剣は、主の覚悟を感じ取っていた。
この瞬間、
リンクは初めて「戦う理由」を、この世界の中に見つけた。