テラーノベル
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※曲パロ、死ネタ
🐼視点
潮の香りを含んだ風が通り抜ける。
今よりも幾分か涼しい、夏の風。
目の前には、指輪を持って跪くきんとき。
俺が最後見た時より、ずいぶん若い。
…懐かしいなぁ。なんて、呑気なことを思う。
“あなたの大切な思い出を、夢でもう一度! 「SLIP」”
そんな文字と、取扱説明書。
本体の重量にしては、段ボールも小さく梱包が雑だ。
説明書は、横文字だらけで分かりづらい。
充電は5分でなくなってしまうらしい。
…コスパ悪っ。
……でもこれで、また会えるなら。
きらきらと輝く水面が、あの時の記憶を呼び起こす。
こんな感じだったな。
少し震えながら、指輪を差し出すきんとき。
俺はどんな反応をしたんだっけ。
泣いたかな。笑ったかな。
でも、嬉しかった記憶だけは鮮明だ。
………でもお前は!!
俺を1人にした!!
俺を置いていった!!!
赤い薔薇の花束を振りかぶる。
フルスイングで目の前のきんときを殴り飛ばす。
花が勢いよく爆ぜ、花びらは宙に舞う。
「永遠の愛で添い遂げる」だって?
そんな口約束、
結局果たしてくれなかったじゃん。
お前は俺を置いて行った。
お前が居なくなって、俺がどんだけ泣いたか知らないだろ。
今日は仇討ちにきたんだよ。
あげる人の居なくなった、この想いの。
尻餅をついたきんときは、鳩が豆鉄砲食らったみたいに目を丸くしてる。
このきんときは、本気で自分が永遠に添い遂げられると思ってるんだろう。
お前は十数年後、大事な大事な俺をひとり残して先に逝くんだよ。
まあ過去のきんときに、変に口を出す資格はないけど。
……いや、でも、過去のきんときを俺が今殴ったことで干渉が起きたか…?
過去の夢で史実と違う行動をすれば?
…いま俺が殴ったせいで、史実でも嫌われる?
自分がしたことなのに、急に焦ってきた。
………いや、今嫌われても、か…
きんときが死ぬ直前、俺たちはケンカしてた。
それも些細なことで。
ケンカっていっても、ほとんど俺がひとりで怒ってただけだったけど。
俺が家を飛び出しちゃって、家を離れてた間にきんときは交通事故で死んだ。
ごめんね、って、言えなかったなあ。
花束で頭を軽く叩かれて、思考が帰ってくる。
目の前には呆れ笑いのきんときの姿があった。
……ああ、本当に腹が立つ。
俺は、プロポーズを台無しにしたんだぞ。
それなのに、なんでそんな優しいんだよ。
なんで、そんな…愛おしそうな目をするんだよ。
俺が、……俺が…子供みたいじゃないか。
…いや、俺は…そんなお前が好きだったよ。
もう夢が覚める。
SLIPの充電が切れる。
ねぇ、きんとき。
俺たちケンカできる?
何があっても、取り戻していける?
俺は、優しすぎるお前と、暮らしていける?
我儘な俺のこと、キライになる?
……なんて、ドラマみたいなこと。
きんときは帰ってこないし、 もうあの頃には戻れないのに。
きんときとの、もうない未来のことを想像してみる。
…泣きそうになるからやめよう。
今更だけど、会いに来たよ。
今俺は、ここで指輪を受け取ってあげる。
だから、未来の俺によろしく。
俺はSLIPして、もう戻っちゃうから。
優しすぎるとこ、昔から変わんないね。
俺は、大人にはなれなかったよ。
生憎ね。
衝動書きなので色々おかしいです。
今回はうわがきのことやその他SLIPの設定は無視して書いてます
いよわさんの「SLIP」は…いいですよ、ほんとに。
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