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## 第46話:『故郷への針路、荒野の強襲』
ノアが提示したアクセスコードによって、ゼストのメインコンソールに映し出されたのは、大陸の北東部に位置する広大な未開拓領域――かつて旧大戦の自動防衛施設が数多く眠るとされる危険地帯の一角だった。
「……間違いないわ。ここがルカスの『世界調律計画』の第1ポイント、戦略サテライト中継基地『ヘリオス』の座標よ。あの男はここに眠る旧大戦の超大型送信アンテナを再起動させ、大陸全土へ管理プログラムの電波を流そうとしている」
ノアの冷徹な、しかし確かな意志を持った言葉に、ブリッジの面々は静かに頷いた。その座標を見た瞬間、ゼロ・ドラートは微かに目を見張る。
「……北東の未開拓領域だって? おい、そのルートって、俺の故郷の『リメイン・ヴィレッジ』がある方面じゃねえか」
「ゼロの、故郷……」
隣にいたミラが心配そうにゼロの顔を覗き込む。ゼロはフンと鼻を鳴らし、いつもの不敵な笑みを浮かべて見せたが、その胸中には、かつて荒野のヴァルチャーとして這いつくばっていた始まりの場所への、奇妙な因縁を感じていた。
「よし、面舵一杯。ゼスト、発進用意。目的地は大陸北東、リメイン・ヴィレッジ経由、中継基地ヘリオスだ」
艦長――レフトの重厚な号令が下る。
タラップが静かに引き上げられ、ゼストは世話になった天才技術者ガドルフの工房に別れを告げることとなった。プラットホームに立つガドルフは、杖を突きながら、格納庫から見上げるゼロとリンに向かって不機嫌そうに手を振った。
「小僧! 今度機体をボロボロにして戻ってきたら、文字通りただのスクラップにして鉄屑屋に売り払ってやるからな! せいぜいその新しい『盾』を使いこなしてみせるんじゃぞ!」
「へっ、言われなくても、お釣りが出るくらい大活躍してやるよ、頑固ジジイ! 達者でな!」
ゴゴゴゴゴ……と地響きを立てて、陸上戦艦ゼストは霧に包まれた秘密基地を後にし、再び果てしない荒野へとその巨体を滑り出させた。呪われた過去を振り切り、新たな未来を掴むための、セカンド・ステージへの船出だった。
ゼストが荒野を順調に巡航し始めて数時間後。格納庫では、生まれ変わった愛機を見上げるゼロの姿があった。
機体の胸部に刻まれた型式番号は、これまでの実験機を示すものから、明確な実戦仕様へと書き換えられていた。
**『GXW-00-PRDV(プロトウイングエックス・ディバイダー)』**。
サテライトシステムの回路を完全に遮断し、背中に漆黒の複合兵装「マルチプル・ディバイダー」をマウントしたその姿は、かつての禍々しい白銀の翼とは異なり、どこか静かなる威風を放っている。
「どう、ゼロ? 座り心地は」
コンソールから顔を出したリンが、コックピットに座るゼロにタブレットを向けながら話しかけた。
「あぁ、悪かねえ。背中のコンデンサが余剰エネルギーを勝手に吸い上げてくれるおかげで、機体全体のバランスが驚くほど安定してやがる。前のウイングエックスみたいに、レバーを握っただけでエネルギーが暴走しそうになるあの嫌な感覚がねえな」
「ふふ、驚くのはまだ早いわよ。ガドルフのじいさんと私の最高傑作、システムの説明をしてあげる」
リンは画面のデータを更新し、ウイングエックス・ディバイダーの核となる二つの新機能をゼロに提示した。
「まず、背中のディバイダー。これはメトロポリスで拾ってきた超高密度マルチリンク・コンデンサをコアにしているわ。通常時は大型のスラスターとして爆発的な推進力を生み出し、戦闘時は機体の前面を覆う絶対的な『盾』になる。そして、そのシャッター(ハモニカ)を開放することで、内部に蓄積されたエネルギーを一斉に放射するマルチロックビーム砲『ハモニカ砲』に変形するの」
「天の光(サテライト)に頼らなくても、この手の中でエネルギーを循環させて、盾にも矛にもできるってわけか。最高じゃねえか」
「そして……最大の問題だった『ゼロ・システム』についてよ」
リンの表情が少し真剣なものに変わる。
「ガドルフのじいさんが、コンデンサの余剰ラインを使って、コックピットの奥に『ゼロ・システム緩和装置(リミッター)』を搭載してくれたわ。これによって、システムが脳に叩き込んでくる過剰な未来予測のノイズや精神負荷を、コンデンサ側が一時的に吸収・分散してくれる。これからは、あの脳が焼き切れそうになる最悪のノイズに苦しむことなく、システムの予測演算をクリアに利用できるはずよ」
「マジかよ!? あのジジイ、口は悪いがやっぱり天才だな!」
「ただし!」
リンはゼロの額を人差し指でパチンと小突いた。
「絶対に過信は禁物よ。この緩和装置は、あくまで通常戦闘の負荷を抑えるためのもの。もしもゼロがシステムの提示する限界値を突破するような、命を削るレベルの超高速戦闘を強行した場合……装置が負荷に耐えきれずに故障(パンク)して、かつてのように脳内に凄まじいノイズが走って暴走する可能性があるわ。分かった? 絶対に無茶はしないでよ」
「へへ、分かってるよ。俺の隣には、いつもミラやみんながいてくれるんだ。もうシステムに一人で呑まれるようなヘマはしねえさ」
ゼロは新しくなったレバーを力強く握りしめ、コックピットのハッチを閉めた。新たな力『DV』の火は、いつでも灯せる状態だった。
しかし、運命の女神は彼らに息をつく暇さえ与えない。
ゼストがゼロの故郷、リメイン・ヴィレッジのある方面の荒野へと差し掛かったその時、ブリッジのアンナから、格納庫へ向けて悲鳴に近い緊急通信が入った。
『――格納庫、緊急連絡! 本艦の進行方向に、超高熱源体の接近を感知! ルカス軍の識別コードはありません……でも、この熱量は量産機のレベルじゃないわ! 一機だけで、本艦に向かって真っ直ぐ降下してくる!』
「何だと!?」
ゼロ、セレス、ジュード、カイルが同時に顔を上げる。
ゼストの前方の天空、引き裂かれた雲の隙間から、それは現れた。
ルカス軍の機能美を重視した黒い機体とも、フォート・セバーンのツギハギのジャンク品とも明らかに異なる、異質なモビルスーツ。
その見た目は、まるで荒野を荒らす「海賊」のように無骨で禍々しい鋭利な装甲を持ちながらも、全身に施された美しいエメラルドグリーンの鏡面塗装と、幾何学的な発光ラインが、どこか神聖な神殿の遺物を思わせる神秘的な美しさを湛えていた。その背中には、マントのようにも見える特殊な推進バインダーが妖しく揺らめいている。
「……綺麗な機体。でも、なんて凄まじい殺気なの……!」
ブリッジから外を見ていたミラが、思わず身震いする。
その謎の美しき海賊機は、ゼストの主砲が放った威嚇射撃を、信じられないほどの滑らかなダンスのようなステップで容易く回避すると、通信回線をゼストの全域へと強制的にジャックした。
スピーカーから流れてきたのは、若く、しかしどこか諦観と深い闇を宿した、凛とした声だった。
『――そこに行くのは、陸上戦艦ゼスト、そして呪われた翼を捨てたガンダムか。……私はルカスの狂信者ではない。だが、この先に進むというのなら、我が美しき『アルカディア』の錆にさせてもらう』
その声を聞いた瞬間、ゼロの胸の奥が激しくざわついた。
かつてリメイン・ヴィレッジでヴァルチャーをしていた頃の記憶の片隅に、この声の主と、あるいはこの機体と、どこかで交錯していたかのような、奇妙な予感が走る。この敵は、ただの通りすがりの刺客ではない。後にゼロたちの運命を大きく揺るがすことになる、重要人物との衝撃的な邂逅だった。
「ルカス軍じゃねえなら、何の恨みがあって俺たちの邪魔をしやがる……! おいみんな、出撃の用意だ!」
ゼロの叫びと共に、新生ウイングエックス・ディバイダーの瞳が、暗い格納庫の中で力強く輝いた。
**次回予告**
ゼストの進路を塞ぐ、美しき海賊機『アルカディア』。
その圧倒的な機動性に、カイル、ジュード、セレスが再び立ち向かう!
そして、ついにそのベールを脱ぐ、新生プロトウイングエックス・ディバイダー!
「見せてやるぜ、これが俺たちの、新しい人間のための翼だ!!」
大空に響き渡るハモニカ砲の轟音。激突の果てに、ゼロが目撃する敵パイロットの『真実』とは!?
次回、『大空を切り裂く盾』
**「お前が俺の過去を知ってようが関係ねえ! 俺は今の仲間と、未来へ行くんだよ!!」**
コメント
1件
読了したわ! 第46話、めちゃくちゃ熱かった! 新型機「プロトウイングエックス・ディバイダー」のスペック説明にワクワクしたし、リミッター付きのゼロ・システム運用とか、ちゃんと代償を残してあるのが好みだわ。 そしてラストのエメラルドグリーンの海賊機『アルカディア』の登場!綺麗なのに殺気ヤバくて、ゼロの過去と絡みそうな雰囲気…次回が待ちきれない!ガドルフ爺さんとの別れもグッときたな。
桜春遥朔🌸
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来華
457
ポンデリング
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