テラーノベル
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その夜、モトキは父の部屋へ赴き、リョウカの身体についての報告をした。
「帝は、女性器を持ち、また、それは機能すると思われます。侍女の話では、最近になって、月のモノと思われる出血も見られたと…。そして、男性器については、恐らくは難しいかと判断いたしました。」
「…『をなご』であったか…。」
モトキの父が、少し、頭を抱える。モトキは俯き、父の判断を待つ。
「…では、明日、陰陽道にて、帝のお相手を占術にて示すのだ。大老様方のご判断にもよるが恐らくは、皆に公表するのは、それが明らかになってからであろう。」
「…分かりました…。少し、夜風に当たって来てもよろしいですか。」
「…うむ、ご苦労であった。幼い頃からの友人相手だ、気苦労もあったろう。今宵はゆっくり休むが良い。」
「…はい。」
頭を下げて、部屋を後にした。
夜風に当たるには、この野原が一番良い。
モトキは、またいつもの場所に足を運んでいた。昔を懐かしむためではない、恐らく、アイツがここへ来るだろうと踏んだからだ。
「モトキ。」
後ろから、ヒロトの声がする。やはりな、とモトキはゆっくりと振り返る。
「お上は、無事に目覚めたか?」
「ああ。今、お前の父上が参上して、また人払いに遭った。」
「そうか…。」
モトキの父が、リョウカにその性別を告げに行ったのだ。リョウカは、どっちなのだろう、喜ぶのか、落胆するのか…。
「…なあ、教えてくれよ。リョウカ様に何があった?」
「…大老様たちしか知らない秘匿の事だ。教えられん。」
「…ふん、だと思ったよ。」
ヒロトは吐き捨てる様に言った。
「…大丈夫だ、その内に皆の知るところになる。いずれ、な。」
その言葉を聞いて、ヒロトはその場にしゃがみ込む。
「…婚姻のことかな、って思ってる。」
「…ま、当たらずとも遠からず、だ。」
「…そっか。」
ずび、と音がして、ヒロトが泣いていることを悟った。
しばらく、黙ったまま川の流れの音に耳を傾けていると、背後から足音がした。
「二人で何を黄昏てるの?」
振り返ると、笑顔のリョウカがいた。モトキの父の話が終わり、ここへ足が向いたのだろう。モトキは、豪華な着物に身を包んでいるリョウカの、昼間の襦袢姿を思い起こしてしまい、顔を赤くして目を逸らす。リョウカは、そんなモトキを、困った笑顔で見つめた。
ヒロトは目をゴシゴシと擦って、へへ、と笑いかける。
「…本当、君たちって、月と太陽みたいだね。」
リョウカが微笑みながら言う。
モトキを指差して、
「モトキが月の様に儚く優しい光で、」
ヒロトを指差す。
「ヒロトが太陽みたいに明るくて元気な光。」
モトキとヒロトは、顔を見合わせる。リョウカは、フフッと笑う。
「どちらも、私の大切な光だよ。」
モトキは、リョウカに向けて緩く笑った。ヒロトも、鼻を擦って照れている。
「あ、そうだ、ねえ見てて。」
後ろ手に隠していた、あの貿易商人から貰った、音の鳴らない楽器を前に出した。
リョウカの手に黄色い光が灯り、その手で竹の部分を弾くと、ポロンポロンと音が鳴った。
「え…!」
「すご…!」
「へへ、私の力で、この子は楽器になれるみたい。」
花びらの様な光が周りを包み込み、風に乗って飛んで行く。
ヒロトが、背中から琵琶を取り、一緒に鳴らす。
モトキも、二人に合わせて口で旋律を奏でる。
三人の、ただ幸せな友人でいられる楽しい時間が、終わりを迎えようとしている事は、まだ知る由もなかった。
次の日、モトキの目の前に、紙があった。
モトキは、震える手でその紙を持ち、何度も何度も、そこにある文字を確認する。
モトキは、昨夜父に言われた様に、リョウカの相手を占術にて示すという命を遂行していた。
印を結ぶと、目の前の紙にその相手の名が燃える様に浮かび上がる。
モトキは、ゆっくりと目を開け、それを確認した。
『和甲斐ヒロト』
『御ゝ守モトキ』
青い字と赤い字で、はっきりと、そう浮かんでいた。
帝と子を成す相手。それが、二人…?何故…?しかも、それが、自分たちだなんて…そんな…。
震える手でその紙を持って、覚束無い足取りで、父の元へ向かう。
「なんと…これは真か…。」
モトキの父が、驚きの声を漏らす。モトキは、震える手を自分で押さえ込む。
「…念の為に、私の方でも占術を行なってみよう。それでも同じならば…。」
モトキが唇を強く噛む。
「…その時は、覚悟せよ。」
父はそう言い放って、自室へと入って行った。
モトキは、フラフラと、野原へ向かう。そこでは、ヒロトとリョウカが、笑顔で楽器を奏でていた。その光景の、なんと美しい事か。あの占術の通りならば、僕はこの手で、自分たちの美しい関係を壊してしまうのだ。
気付けば、涙が流れていた。
二人がモトキに気付き、走り寄る。
「どうしたの?モトキ、大丈夫?」
「なんだよ、そんな泣くほど素晴らしい演奏だったか?なんてな!」
モトキは、涙を流しながら、微笑んで、うん素敵だった、と頷いた。
そのすぐ後に、モトキは父に呼ばれ、ヒロトとお前が相手で間違いない、と、そう告げられた。
翌日、リョウカの御所に、モトキの父が、モトキとヒロトを集めた。
リョウカが接見の間に出てきて、意外な三人に驚いた顔をしている。
「お上、畏れながら、お話が御座います。」
「うん…。」
リョウカは、座りながら僕たちを見た。ヒロトは、訳もわからずオロオロと視線を彷徨わせている。モトキは、拳を膝の上で固く結び、唇をかみしめて俯いていた。
モトキの父が、ヒロトに向く。
「まず、ヒロト。お前に大切な事を伝えておく。これは御所内きっての秘匿、心して聞け。」
「…はい。」
ヒロトが、モトキに目配せをして、モトキは小さく頷く。
「帝は、…リョウカ様のお身体は、『をなご』である。」
「………は、………はい。」
ヒロトが、うまく呼吸出来ていないように、短く息を吐いている。
モトキの父が、リョウカに向き直って、頭を下げた。
「…お上、畏れ多くも、お上のお相手が、この二人に御座います。」
リョウカが短く息を吸った。手で口を押さえて、身体が震えている。モトキの父が、占術の結果の紙を差し出す。リョウカが、震える手でその紙を受け取る。
「…ヒロト…モトキ…。」
その名前を読み上げ、涙を零した。ヒロトは、両の拳を床について頭を下げたまま、ブルブルと震えている。モトキは、既に諦めの表情をしていた。
「…では、大老様方より、今宵から寝所に参上する様に、と仰せ遣っている。二人とも、心してお務めせよ。」
モトキの父が二人にそう言い置いて、リョウカへ深々とお辞儀をした後、先に退室していった。
「…うそ…なんで…こんな…やだよ…。」
リョウカが、両手で顔を覆って静かに泣く。
モトキは、力無く立ち上がり、リョウカに近づく。リョウカは、ビクッと身体を固くし、涙で濡れた目でモトキを見上げる。
リョウカの傍に跪き、モトキは優しくリョウカを抱きしめた。
「…愛してる。」
リョウカの嗚咽が漏れる。
ヒロトが、力無くゆらりと立ち上がり、拳を握りしめた。
「………ごめんね…。」
ヒロトが涙ながらにそう言って、不確かな歩みで部屋を出て行った。
夜になっても、ヒロトは御所へ戻ることは無く、 モトキは、大老たちの命により、初めに寝所へ上がる事となった。
それと同時に、御所内の皆の者へ、帝が『をなご』であるという事、そして帝のお相手が傍に仕えるあの二人である事が公表された。噂は瞬く間に都中に広まったが、誰しもが帝のその美しさにより、少しの困惑のみで納得しているようだった。
モトキが、身を清めた後、リョウカの寝所に潜り入る。
既に長襦袢に着替えたリョウカが、真っ白な布団の上に、正座をしている。
同じく、長襦袢を身につけたモトキが、その前に正座をして、頭を下げた。
「…申し訳ございません。」
「…どうして?」
「私の、占術のせいで…お上の大切なご友人を、奪う事に…。」
「………モトキのせいじゃ、ないよ。」
モトキは、顔を上げられなかった。リョウカの呟く声が、あまりに悲しかったから。
「ね、モトキ、これ見て?」
リョウカが、努めて明るい声で、何かを差し出す。元貴は顔を上げて、それを見た。
「これは…時計?」
「うん、この前ね、貿易商人が持って来てくれたんだ。綺麗でしょ?」
「中の歯車がよく見える…面白い。」
「私は昔、あの鍵盤楽器を貰ったし、ヒロトは前にマントを買っていたでしょ。だから、モトキにも何か持ってて欲しいな、と思って。」
「…僕に?」
「うん、受け取って。」
「ありがとう…。」
カチャリ、と音がして、僕の手にその時計が置かれた。見た目よりも、重たい。
「モトキ、こういうの好きだと思って。」
昔と変わらぬ笑顔で、モトキに微笑みかける。モトキは、時計と一緒に、リョウカを抱きしめた。
「…愛してる。」
「…うん。」
「…昔から、ずっと、ずっと、ずーっと。」
「………うん。」
リョウカは、涙で声が震えている。
ゆっくりと身体を離して、リョウカの頬に、左手を触れる。
「…モ、モトキ、時計、どこかに置かないと…。」
「…リョウカ…。」
久しぶりに、モトキがその名を呼んだ。モトキの顔が近づくと、リョウカは目をギュッと閉じた。
優しく、ゆっくりと、2人の唇が合わさった。
モトキの右手に握ったままの時計が、カチャリ、と音を立てた。
コメント
23件
え何?!何?!モトキとリョウカ様は子ずくり?!難しいよ!!若様は?!ヒロトは?!!どした?!え?!どうしたんですか?!難しすぎます私の脳には!!
小説書いた方いいですよ?ほんとに(私が見たいだけですお願いだから書いて下さいm(_ _)m)
純情はどこへにわらっちゃいました! 七瀬さんのお話は💛ちゃんへの愛が沢山あるので、どれも純情です😘笑 ♥️💙の反応がそれぞれ違うけど、どれも2人らしくて、ぐいぐいお話に引き込まれます! 毎日更新ありがとうございます🫶