「もう最後の夜か‥‥」
亮祐さんの仕事終わりにブルックリンで落ち合い、レストランでの食事中に私は思わず呟いた。
食事をしながらいつものように今日あったことをお互いに報告し合っていたのだが、ふと今日が5日目だと思い出したのだ。
もう明日は帰国のために移動するだけ。
亮祐さんとニューヨークで過ごせる最後の夜だったのだ。
「そんな淋しそうな顔しないで。帰したくなくなるから」
亮祐さんは眉を下げ、淋しそうな顔をしてしまった私を慰めるように少し頭を撫でてくれた。
「このままうまく商談がまとまれば、あと数週間で帰国できると思うしね」
「うん。ごめんなさい、亮祐さんは仕事で来てるのに。亮祐さんと一緒にいられるし、ニューヨークも楽しかったからつい帰りたくないって思っちゃったんです」
「また一緒に来よう。その時は俺もプライベートで来て、百合を色々案内したいし」
「はい、次の楽しみにしておきます」
亮祐さんとニューヨークを一緒に見て回れたらきっと楽しいだろう。
なにせ長年ここに住んでいた人なのだ、亮祐さんが学生の頃に過ごした場所などを見てみたいなと思った。
食事を終えると、私たちは観光スポットとしても有名なブルックリン橋を歩きながら渡り、マンハッタンにあるホテルに戻ることにした。
ブルックリン橋からはニューヨークの夜景が一望できてとても綺麗だ。
ニューヨークの高層ビルがキラキラと輝き、とても幻想的でロマンチックな景色だった。
「すっごく綺麗ですね!」
「そうだね。そういえば百合は横浜の夜景も夢中で眺めてたよね」
「あの時の景色も素敵でした。それにどっちも亮祐さんと一緒に見られるのが嬉しいんです」
そう微笑むと、亮祐さんは一瞬眩しそうに私の顔を見て目を細める。
「さっきも俺と一緒にいられて楽しかったって言ってくれてたね。だから帰るのが淋しいって」
「はい」
「なら、俺とずっと一緒にいない?」
「えっ?それってどういう‥‥」
どういう意味?と聞き返そうと思った時、亮祐さんはポケットに手を入れ、中から小さな箱を取り出した。
そして私の目の前に差し出して、箱の蓋を開ける。
「!」
「俺も百合とずっと一緒にいたいと思ってる。だから百合、俺と結婚して欲しい」
「‥‥!!」
私は突然のことに驚きすぎて言葉を失う。
亮祐さんに真剣な眼差しで見つめられ、心臓が激しく音を立てる。
(う、うそ‥‥!これってプロポーズ??)
目を白黒させる私の様子に、亮祐さんは思わずといったようにふっと笑みを溢す。
「驚いた?」
「は、はい。それはもうとっても‥‥!」
「この指輪、実は両親に紹介した頃にはもう購入してたんだよ。その頃には俺には百合しかいないって思ってた。この前は百合に気持ちを伝えてもらったけど、俺もちゃんと伝えたいって思ったんだ」
思わぬ言葉にさらに驚く。
そんなに前から考えていてくれたなんて。
そう思うと胸が温かくなってきて、嬉しい気持ちでいっぱいになる。
(こんな素敵な人にこんなふうに想ってもらうことができて、私はなんて幸せなんだろう)
「百合、言ってなかったと思うけど、俺は正直に言うと百合に出会うまでは、女なんて面倒だと思ってテキトーだったし、本気になんてなったことなかった。けど、百合のことは特別なんだ。百合のことになると執着するし、嫉妬するし‥‥それは百合も知ってるよね?つまり、百合が俺を想ってくれているのと同じように、俺も百合が好きだよ。大塚百合になって欲しい」
「亮祐さん‥‥」
嬉しくて嬉しくて声にならない。
きっと今の私はものすごくみっともないくらい顔が弛んでいると思う。
「それで百合の返事は聞かせてくれないの?」
「‥‥そんなの”はい”以外にありません!本当に私でいいんですか?」
「百合#で__・__#じゃなくて、百合#が__・__#いいんだよ」
そういうと、亮祐さんは私の左手を手に取ると、箱から指輪を取り出してそっと薬指にはめてくれた。
私の左手の薬指には、キラキラと輝く光がその存在を主張する。
「ありがとうございます。本当に嬉しい‥‥」
嬉しさで涙が溢れてきて、私は涙ぐみながら亮祐さんを見上げた。
亮祐さんは指で私の涙を拭うと、触れるだけの優しいキスをしてくれた。
ブルックリン橋の上で美しい夜景を背景に、私はそのキスに酔いしれる。
(忘れられないプロポーズ‥‥。亮祐さん、本当にありがとう。あなたに出会えて、あなたを好きになって私は本当に幸せです)
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