テラーノベル
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夏休み明けの魔法学院。
その正門前が、かつてないほどのどよめきに包まれていた。
なぜなら――到着したのが、黄金の獅子の紋章を掲げた「王族専用馬車」だったからだ。
「……えっ、王族専用馬車!?」
「レオン殿下が戻られたのかしら!?」
生徒たちがざわつく中、馬車の扉がゆっくりと開く。
最初に降りたのは、レオン。
朝日を浴びた金髪をさらりと掻き上げ、完璧すぎる“王子スマイル”を振り撒く。
「きゃああああっ!! 殿下ぁぁぁ!!」
黄色い悲鳴が飛び交った。
続いて現れたのは、アレク。
黒い軍服を纏った彼は、無言のまま周囲を見渡す。その瞬間、空気がピリッと張り詰めた。
「えっ、ベルシュタイン公爵まで……!?」
「なんで殿下の馬車に……?」
「というか顔怖っ……!」
さらに。
「お姉様! 段差があります! 私の手をお貸ししましょうか!?」
フローラが、ぴょこんと馬車の階段から飛び降りる。
そして最後に――バイオレッタが馬車から降りた。
――静寂。
「…………は?」
周囲の時間が止まった。
***
「ウィステリア伯爵令嬢が……」
「殿下と、公爵と、エミリア子爵令嬢に囲まれてる……?」
「なにあれ」
「史上最大の修羅場?」
ひそひそ声が一気に広がっていく。
(やめて)
(お願いだから、私を『逆ハー状態のヒロイン』を見る目で見ないで)
私は胃の辺りを押さえた。
そんな私を気にすることなく、レオンが自然な動作で私のトランクへ手を伸ばす。
「バイオレッタ、重いでしょ? 僕が持つよ」
「いいわよ、自分の荷物くらい――」
「ダメだよ」
レオンはにっこり微笑んだ。
「女の子に重いものを持たせるなんて、王家の教育に反するからね」
(なにその無駄に強い王子理論)
その瞬間。
横から伸びた大きな手が、ひょいっとトランクを奪い去った。アレクだ。
「俺が持つ」
「……は? アレク、あんた自分の荷物もあるじゃない」
「お前に余計な重みなどいらん」
「返しなさいよ!」
「断る」
即答だった。さらに。
「お姉様、教室までのエスコートは私にお任せくださいね♡」
フローラがぎゅっと私の右腕へ抱きつく。
「バイオレッタ、足は痛くないかい? 僕が教室まで運んで――」
「いらないわよ!」
私は即座に遮った。
「距離が近すぎるのよ、あんたは!!」
周囲の視線が、痛いほど突き刺さる。
「距離近っ……」
「……なんかもう夫婦みたい」
「でもちょっと羨ましい……」
(違うのよ!)
(こんなの、甘い学園ラブコメなんかじゃないわ!)
(ただの過剰警備と執着なのよ……!)
私は心の中で全力否定した。
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