いつもの学校帰り。寮に向かっているとき、空が暗くなっていることに気づいた。授業がいつもより少し難しく、遅くまで先生の手伝いをしていて疲れていたのか空が暗くなっていることに全然気づかなかった。疲労が溜まっているせいでデッサン道具がいつもより重く感じる。
下を向いて歩いていると1枚の花びらが落ちてきた。桜の花びらだ。(おかしいな…この辺りに桜なんて咲いていなかったはずなのに…)こんなことを思いながら顔をあげるとたくさんの桜の花びらが細い路地の方から舞ってくる。気になって路地に入ってみた。
すると、目の前に映ったのはとても大きな桜の木だった。今までに見たことないぐらい大きな桜の木だ。たくさんの星が輝く夜空の中に桜の木が照らされている。そしてその桜が綺麗に舞っている。
桜の木を見て僕は疲れを忘れてしまった。疲れていた感情など吹っ飛んで、今はとにかくこの桜の絵を描きたいという感情が湧き出てきた。僕はひたすらに筆を動かした。桃色の絵の具、茶色の絵の具、紺色の絵の具、黄色の絵の具。たくさんの色が綺麗に混ざり合って形になっている。(今までで1番綺麗に描けたな…)出来上がった絵を見てそう思った。
数年後、今、僕は画家の仕事をしている。昔描いた桜の絵のおかげで僕は自分に自身を持って絵を描けている。あの桜に出会うことができなかったら僕は今のようになれなかった。ただ、あのときの桜をもう目に見ることはなかった。いくら、桜を見るときに通った路地に入っても桜の木が立っていた場所じゃなく、いつもの街に出てしまう。あの木は僕の夢だったのか。そういう考えが、脳裏を横切るが桜の木のおかげで画家になれた。僕以外の人もあの桜を見てほしい。そしたら、今までの自分から変わる理由が見つかるはずだから。僕みたいに変わりたいという思いがある人の前にあの桜の木は現れるはずだから…
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