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~会長(大輝)side~
『はい、それでは……』
澪と電話をする前に読んでいたものをそっと閉じた。そして今しがた電話をしていた携帯を再度開き、他の役員に澪が来れないことを連絡していく。
空閑先輩と西崎は心配そうな雰囲気は出していたけれど結局は仕方ないと納得してくれたが、大変なのは華園だった。
なんで、どうしての質問攻め。華園の気持ちもわからなくない。澪にも言ったがあいつが楽しみにしているのなんて見てれば一目瞭然だったしそれは皆、気がついていた。だからこそ華園は納得できなかったのだろう。最終的には無理矢理の理由をつけて納得させはしたが……
澪の家が厳しいのは気づいていた。確かに学園に通っている生徒には家業を手伝っている者もいる。俺だって将来、会社を継ぐために休みの日などに父の仕事を手伝うこともある。
それでも澪の家は特殊すぎた。平日でもお構い無しかのように手伝わせているし、今回のように前日に休むなんてざらにあった。
以前聞いた話だと兄が2人いると言っていたので直接、澪が家を継ぐことはないのだろうがそれならどうしてそこまでさせるのかわからなかった。
よく考えればあいつから家の話を聞いたことが無かった。生徒会でそういった話になっても意図的にその話題を避けているように思う。
それが分かれば電話越しで泣いていた理由もわかるのかもしれないが、聞いても教えてはくれないだろう。
(あいつが来ないならコレも無駄になったな……)
俺はさっき閉じたペンでチェックを入れていた遊園地のパンフレットを手に取り、少し考えてからそれをゴミ箱に捨てた。
そして、ある人の力を借りようと思い部屋を後にした。
さっき帰ってきてはいたから、この時間だとおそらく書斎にいるはずだ。正直、あの人の力を借りるのは嫌なんだがこればっかりは俺では分からないことだから聞いた方が早い。
目的の場所に到着して扉をノックすると中から「どうぞ」という声がした。
部屋の中に入ると一人の男が机に向かい、書類を仕上げていた。その男は俺の姿に気づくとペンを置き、こちらに目線を向けた。この男こそ俺の父であり、志藤グループのトップに立つ人物だ。
「珍しいな。大輝がこの部屋に来るなんて……何か用事か?」
「ちょっと聞きたいことがあったんだが……忙しそうだから出直す」
「気にするな。可愛い息子のお願いより大事なものなんてないぞ!どんなお願いだ?欲しいものがあるならなんでも買ってやるぞ!父になんでも言いなさい」
「お願いじゃなくて聞きたいことがあるって言ってるだろ。バカ親」
だから頼りたくなかったんだが、これでも仕事をしてる姿はかっこよく見えて尊敬できる……のだが何故か家族のことになると甘々になるのが玉に瑕な人だ。
けれどこのことに関してこの人ほど適任な人はいない……
「伽々里家について親父が知ってることを教えてほしい」
「伽々里だと?なんで急に?」
流石に親父も俺がこんなことを聞いてくるとは予想していなかったのか少し驚いていた。伽々里家とは直接的に取引をしたことはなく、志藤グループとはあまり関わりがない家の一つだ。それ故になぜ知りたがっているのか分からないのだろう。
「親父は俺が生徒会に入ってるの知ってるだろう?副会長やってるのが伽々里のやつなんだけど……なんというかちょっと気になるというか、あまり自分のことを話さないんだよ」
「そうか……あの噂は本当か……」
「噂って?」
父は少し言いにくそうにしていたが俺が真面目に聞いているのを察して答えてくれた。
「伽々里家のご子息で表舞台で認識されてるのは長男の伽々里慧と次男の伽々里新。主にこの二人なんだが耳にする話では実は三男もいて、視察などにはその三男も同行しているらしい。でも確証がない話だし本当に表舞台には立たない存在だからデマではないかとも言われてたんだ。それほどまでに秘蔵っ子なのか或いは隠し通したい存在なのかは分からないけどな」
澪が隠し通したい存在……
それほどまでに公には出したくないのは何か理由があるんだろうか……
学園内だけの付き合いではあるがあいつが良い奴なのは知ってるし、仕事だって進んでやってくれる。
俺からしたらすぐ嫌味を言う点を除けば文句の付けようがないと思うが……
「大輝。お前が優しい子なのは知ってるし何かしてやりたいという気持ちになるのもわかるが、他の家の問題に軽い気持ちで首を突っ込むなよ。それでその子に被害が出ては意味がない。やるなら徹底的にバレないようにやりなさい」
「っ!……ふっ、わかってる」
「もし手伝えることがあるなら言ってくれ。尻拭いでも隠蔽でも何でもしてやる」
「ありがと、親父」
その後もいくつか伽々里のことについて教えてもらい、明日も早いからと親父の部屋を後にした。
あいつが、澪が家でどんな存在なのかはまだはっきりと分からないが親父から話を聞けて何となく予想はできた。
恐らくだがあまり良いようには扱われていないのだろう。そう考えればあいつの行動にも納得がいく。朝早く来ているのも、遅くまで残るのも、家の話をしないのも、さっきの電話口の声も。
何か俺にできることはあるのだろうか……