あれは、五月の、
今日は珍しく晴れた空だった。うっとおしいほど晴れていて、気持ち悪いほど雲がなかった。
鳥はさえずり、草木はほのかに揺れ、死ぬに死ねない生命線が、うるさかった。
きっと、今日はとてもいい命日になるだろう。
数えきれないほどの本棚から本を二冊抜き出す。題名は、「悲しみを和らげる方法」「楽な死に方」。
台所へ行き、棚からコーヒー豆を取り出す。コーヒーミルにコーヒー豆を入れ、くるくると回す。
粉状になったら、コーヒーフィルターに優しく入れ、上からお湯を注ぎ入れる。
優しく、でも気を抜かずに。まるで、まるで、
「あの人」のように。
庭に出て、地平線まで見えない花畑の真ん中で椅子に座る。
コーヒーを一口飲み、今日もまた言う。
「…まずい。」
本を開き、ページをめくる。
でも、
集中して、読めなかった。
それはきっと、
昨日のことがきっかけ。
昨日は、苦しかった。「あの人」に、ひどいことを言ってしまった。
もう、来ないでくれ、あなたが居ると、苦しい、と。
「あの人」はとても優しい顔をしたあと、悲しみと寂しさが混ざったような顔で
「ごめんな。」
と一言言ってきた。
それでも、まだ苦しくて。
きっと苦しいのは、
「あの人」なのに。
言ってしまった。やってしまった。
「あの人」だけには、絶対に、絶対に、言いたくなかった言葉。
「あなたなんか、死んでしまえばよかったのに。、」
我に返った。とてもその瞬間だけが、重く感じた。
あの人は、言った。
「ごめん」
仕方なかった。どうしようもなかった。こんな酷いことを私の口から言わせるほど、あなたはひどい人なのに。
でもきっと、こんな酷いことを言わないと、あなたはまた私のところに来てしまう。
手を伸ばした。
でも、届かなかった。
あなたは
パタン、と本を閉じた。
これ以上考えると無駄だといつも理解する。
そろそろいい時間だった。もう準備は出来ている。
木に縄をかける。
輪っかを作り、そこに頭を通す。
椅子を用意し、
いつもだったら、もう「あの人」は来ている時間だった。
でも流石に、
あんなことを言ってしまったから、。
馬鹿なことを考えた。あんなこと?いいえ。あれは終止符。
「あの人」が来ないようにするため、苦しまないように、する、ため。
ドクン、ドクン
心臓が脈打つのがわかる。
ドクン、ドクン
申し訳ない気持ちだけ。
ドクン、ドクン
ごめんなさい。
そのときだけは、
「あの人」と生きた思い出が溢れた。
気づけば泣いていた。
椅子をどかしたはずだから、
もう、とっくに死んでいるはずだったのに。
あなたが、
私を、
支えてくれていたから、
私は、死んでいなかった。
「お願いです。ゾムさん。私の体から離れて。」
「…それは、無理やな。」
「嫌です。もう、あなたを、これ以上、、」
「遅くなってごめんな、エミさん。」
エーミールは、自分が愛されている暖かさに、
心から泣いた。
「あなたのせいで、死ねない!あなたが、私を見つけて、くれて、」
「あなたが、いると、私の人生が、たのしくて、しかたない、、」
「死にたいのに、、、あなたが私を愛してくれるせいで、死ねません。死ねないんです。」
ゾムは言った。
「 ありがとう 」
エーミールの羽は折られた。
きっと、これが彼らのバッドエンド。
fin
コメント
2件
うわすごい好きだ…😖🙌フォロー失礼します🙇♀️