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#獣人
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セステニアについて、不明な点は多い。
確定していることは二つだけ。
千年前の巨人戦争を引き起こした張本人であること。
人間でありながら、不老不死であること。
後者に関しては、赤髪の魔女ことハクアが近い存在か。
もっとも、ハクアは加齢が止まっただけで不死ではなく、より強い相手と戦えば、命を落とすだろう。
セステニアは正真正銘の不死者だ。巨人戦争の際は、初代王によって幾度となく切り刻まれた。
それでも、死なない。
あるいは、その都度蘇っているのか?
その仕組みについては謎ながらも、ハクアだけは看破出来ている。
ゆえに、後は探すだけだ。
セステニアを殺せるほどの逸材を。
その才能を秘めた若者を。
そして、ついに見つけ出す。
エウィンとアゲハ。
両親を失った浮浪者と、異世界からの転生者。
ハクアは二人の鍛錬を開始するも、本命はエウィンに他ならない。
アゲハは残念ながらバックアップだ。戦うことを得意とせず、言うなれば積極性が欠けてしまっている。
その点、エウィンは問題ない。
傭兵として十年以上もの年月を、魔物との死闘に費やした。
戦うことを苦とせず、実力も相まってハクアの指導にも食い下がれている。
風が吹こうと、雨天であろうと、毎日が傷だらけの修行漬けだ。
とは言え、半日という単位でなら休暇がなくはない。
なぜなら、ハクアは多忙な身だ。里を束ねる地位ゆえ、時には集会の類にも出席せねばならない。
そういった時、エウィンは自由時間を獲得する。
あるいは、買い出しを指示されることも少なくない。
今回は後者だった。
見た目以上に大量の荷物が収納出来るリュックサック。マジックバッグと呼ばれる魔道具であり、それを背負って今はシイダン村へ出向いている。
「ん、アゲハさん? 食い入るように何を見てるんですか?」
農村ながらも、大いに盛り上がっている。
それもそのはず。ここは露店が連なる大通りであり、簡易的な店には新鮮な野菜や果物が多数並んでいる。
時間帯は昼過ぎゆえ、市場は大賑わいだ。
人通りで混雑する中、エウィンはふと立ち止まる。
露店が気になったわけではない。
背後のアゲハが、買う予定のない穀物を凝視しているためだ。
「これ、これって……」
「お米、ですかね」
エウィンでさえ、一目でわかる程度には米だ。精米前なのか、色合いとしては薄茶色に濁っている。
今回の買い出しは一人ではない。珍しくアゲハが同行しており、言うなればハクアが気を利かせた結果だ。
デートと呼ぶには情緒が足りていないが、二人で買い物をしていることは変わりない。
アゲハが腰を折って覗き込んでいる。茶色のチュニックは素っ気ないが、彼女の豊満過ぎる胸のせいで雰囲気はただただ妖艶だ。
その目は大きく見開かれており、視線は見本として精米済みの真っ白な米粒に吸い込まれている。
「あのう、すみません」
内気な彼女も、今回ばかりは眼前の店員に声をかける。
ふくよかな女性はエプロンを着用しており、突然の問いかけにも至って冷静だ。
「いらっしゃい。ここではもち米を扱ってるよ」
「あ、やっぱり……」
アゲハは即座に理解した。
隣のエウィンは首を傾げるも、わからない以上、口を挟まない。
店員の言う通り、商品は特殊な米だ。通常の米粒が洗米後は透き通る一方で、眼前の見本は色濃く白色を残している。
「嬢ちゃん、今なら安くするよ。もち米は人気がないからね、どうしても売れ残っちまう」
店員の女性は嘘を言っていない。
もち米は残念ながら不人気だ。べっとりとした触感が選ばれない理由ながらも、それならそれで調理法が存在している。
それこそが餅だ。この世界にも浸透しており、草餅もその内の一つと言えよう。
「エウィンさん、もち米、買って帰っても、大丈夫かな?」
アゲハは日本人だ。彼女の脳内には、調理方法がしっかりとインプットされている。
ゆえに、もち米の購入を持ち掛けるも、エウィンとしても断る理由がない。
「はい、お金なら残ってますよ。お昼前に粗方買えましたし、うん、好きなだけどうぞ」
背負っている鞄には、既に大量の野菜が放り込まれている。見た目は空っぽのようにも見えるが、マジックバッグにそういった常識は通用しない。
エウィンから許可がもらえた以上、アゲハは人ごみに負けじと声を張る。
「じゃあ、これ、ください」
◆
「あら、おかえり。早かっ……、なに、その米俵……」
その重さは成人男性一人分にも匹敵する。
しかし、それを担いでエウィンは帰宅した。
ここは迷いの森に隠された、魔女の里。
エウィンとアゲハはシイダン村での買い出しを終えると、足早に居候先へ舞い戻る。
「これはアゲハさんの戦利品です。お米って案外重たいんですね」
エウィンはそう言いつつも、汗一つかいていない。
ハクアが驚いている理由は、若者二人が早々にデートを切り上げたことも去ることながら、やはり米俵が最たる要因だ。
「お米……、いや、米は足りてるわよ?」
この里にも畑は存在している。
稲作用の田んぼも作られており、ある程度は自給自足が可能だ。
ハクアは里長として、収穫量はきちんと把握している。
シイダン耕地の農地と比べれば小規模ながらも、この里の人間を食わすことは十分可能だ。いかにエウィンが大食いと化しても、なんら問題ない。
「なんかこれ、普通のお米じゃないみたいです。アゲハさん、何でしたっけ?」
「もち米」
言い終えるや否や、アゲハが米俵を受け取る。そのまま台所へ姿を消すも、残されたハクアは以前として腑に落ちない。
「もち米って……。草餅でも作るの?」
「さあ? 普段以上に口数少なかったので、なんか訊けませんでした」
「まぁ、あの子のことだから、餅の類を作るんでしょう。夕食はまだ先だし、あっちはあっちで好きにさせて、こっちは鞄の中身を確認するわ」
「はい、どうぞ」
この時の二人は知らない。
夕食は普段通りの肉料理が並ぶも、食後のデザートこそがメインディッシュということを。
◆
「え……、うお、すごい量……」
エウィンとしても唸るしかない。
腹は既にパンパンだ。トカゲ肉のステーキや山盛りの白米を、三人分は平らげた直後だからだ。
食卓の食器は片付けられた。
普段ならここで自由時間が訪れるのだが、今日ばかりはそうもいかない。
注文もなしに、新たな皿がいくつも運ばれる。
調理人はアゲハ。ペッタンペッタンと寡黙に餅をついた。
そのサポートに駆り出されたハクアだが、このタイミングで釘を刺す。
「お腹いっぱいでしょうけど、がんばって食べなさい」
気づけば、テーブルの上は餅だらけだ。まるで二回目の夕食が訪れたようだが、満腹ゆえに喜べない。
ハクアが赤髪を揺らしながらいつもの席に座る。
同時に、ほうと息を吐いた。
気合を入れ直したのか。
空気を吐いて少しでも胃の容量を確保したのか。
どちらにせよ、ここからは第二ラウンドだ。
アゲハが満足そうに着席すると、エウィンは率直な感想を述べる。
「色んなお餅があって、どれも美味しそうですね。と言うか、お餅って作るの大変ってイメージなんですけど……」
「うん、けっこう、重労働だよ。でも、今の私なら、大丈夫」
それもそうだろう。アゲハは日本人ながらも、その身体能力はゲームや漫画に出てくるような超人だ。
全力疾走は新幹線よりも速く、腕力に至っては高層ビルをパンチ一発で倒壊させられる。
ゆえに、もち米を潰す作業も造作もない。工程を減らせるわけではないため、どうしても手間と時間はかかるが、餅への飽くなき執着が彼女の背中を後押しした。
その結果がこれだ。
三人の眼前には、色とりどりの餅が並んでいる。
エウィンはその内の一つ、赤茶色の塊を乗せたそれへ手を伸ばした。
「これはあんこ?」
「うん。あんこで包んでないから、あんころ餅じゃないけど、そんな感じで」
「アゲハったら、平行してあんこまで作っちゃうんだから。うちは台所広いからなんとかなったけど、それにしたって器用なことで。あ、私は砂糖醤油のを頂くわ」
ハクアの箸が、真っ白な餅を持ち上げる。
別皿には砂糖を加えた醤油が注がれており、ちょんちょんとつつけばそれだけで完成だ。
他にはきな粉をまぶした餅も存在しており、エウィンは食べ比べるようにガツガツと口に運ぶ。
(うん、どれも美味しい。さすがアゲハさん、料理の天才だな。まぁでも、うん……)
ハクアに次いで、エウィンの箸も止まる。
当然だ。腹は既にパンク寸前、餅だけの皿を二つも平らげただけでも上出来か。
「ハクアさん、きなこのお餅も美味しいですよ」
「知ってるわよ。手伝ったんだから……」
「じゃあ、どうぞ」
「さすがにもう無理よ。妊婦くらいお腹膨らんじゃったわ」
そう言いたくなるほどには、ハクアもギブアップだ。赤髪の魔女が最強の人間であろうと、食べられる量は常識から逸脱していない。
エウィンはその点だけならハクアを追い越したが、そうであろうと既に限界だ。
二人が苦しそうに呼吸をする一方で、アゲハだけがその手を止めない。
「おいしい、おいしい」
自分で手間暇かけたためか。その味はひとしおだ。
ましてや、完全な日本料理をここまで満喫出来る機会は久方ぶりゆえ、彼女の胃袋は留まることなく餅を受け入れる。
(すげぇ……。見てるこっちが気持ち悪くなる)
(な、泣くほど? 日本人特有の発作か何かかしら?)
アゲハ、二十五歳。餅の美味さに涙をこぼしてしまう。
「甘い、おいしい。つきたて、最高」
箸が止まらない。デザートは別腹ということか。
この時のエウィンは知らない。
明日以降も、餅料理が続くということを。
ハクアは知らない。
裏方に徹していたはずのアゲハが、どういうわけかエウィンと同等の強さを獲得していることを。
こんな涙であろうと、天技のトリガーであることに変わりない。
涙の数だけ強くなれる。
うれし涙もまた、例外ではなかった。
コメント
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みぅです🤍🥀 今回の小話、すごく好きです…! アゲハがもち米を見つけた時の目の輝きとか、黙々と餅をつく姿とか、日本の味を懐かしむ気持ちが伝わってきて胸がぎゅっとなりました。 エウィンとハクアがお腹いっぱいでギブアップする中、アゲハだけが涙しながらでも食べ続けるシーン、「うれし涙も天技のトリガーになる」っていうオチがすごく素敵で、思わずにっこりしちゃいました🌙 日常の中に異世界転生者の情緒がしっかり描かれていて、温かい気持ちになれる回でした…!