テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2,736
ムメイ
746
耀聖(ようせい)
853
#獣人
シュメール
422
「邪魔するぞーい」
「あ、モーフィスさん、いらっしゃい。こんな時間に珍しいですね」
「おう、夜分遅くすまんな。里長に報告したいことがあってのう。いないようじゃが、エウィンだけで留守番か?」
「いえ、ハクアさんなら台所にいますよ。新メニューをアゲハさんから教わってるっぽいです」
「ほう、勤勉じゃな。いや、アゲハの腕前が優れてるということか?」
「材料さえあれば、新作が次から次にお披露目されますからね。呼んできましょうか?」
「ふーむ、そうして欲しいが、せっかくじゃ、おまえさんとも話をしようか」
「え? 僕は別に……」
「つれない奴じゃのう」
「そう言われても、毎日のように会ってますし」
「それもそうじゃな。おまえさんが俺から卒業して、今じゃ里長から指導を受けて……。かれこれどのくらいが経ったかのう」
「半年くらい? いや、もっとかな。ハクアさんは手加減が下手くそ過ぎて、毎日死にかけてます」
「ガハハ! 遠目から見とるが、そんな感じじゃのう。俺の実力じゃ、介入なんてとてもじゃないが無理じゃ。今以上に強くなって、里長を見返すしかあるまい」
「その前に死んじゃいそう……」
「安心せい。エウィン、おまえさんは確実に成長しておる。格下の俺が言っても説得力はないかもしれんが、実力が近しいことも事実じゃ。だからこそ、わかることもある。そう遠くない内に、髪の毛を掴めるくらいにはなるじゃろう」
「ホントですか? アゲハさんの方が僕より先にって感じですけど……」
「ガハハ! 嬢ちゃんも急に強くなったのう。身のこなしは相変わらずじゃが、単純なポテンシャルだけならおまえさんに並んだかもしれんな」
「そうなんですよ。見て学ぶってのも大事なんですかね?」
「どうだろうな。嬢ちゃんに関しては何やら秘密がありそうじゃが……。本人も自覚がないようだし、おまえさんは里長にしごかれるしかあるまいて」
「地獄の日々は続く、と。ハクアさんが強すぎて、いつになっても勝てる気がしないんですよね。そういう意味では、モーフィスさんは丁度良いおじいちゃんでした」
「ガハハ! 言いおるわい。ん?」
「やっぱりモーフィスじゃない。やかましい笑い声がしたから来てみたら。どうかした?」
「すまんな、里長、こんな時間にお邪魔して」
「別に構わないけど」
「警戒班から連絡があってのう。不信な連中が、森に近づいたらしい」
「こんな夜遅くに? 王国の傭兵とかじゃなくて?」
「装備は近しいが、雰囲気が……な」
「あぁ、敵ね」
「その可能性が高そうじゃ。警戒レベルを上げるか?」
「そうね。言うまでもないけど、防衛に徹するように」
「おう。あちらさんが魔女なら相手の手の内を……、魔眼の詳細を把握せんことには危険極まるからのう」
「まぁ、私やあんたなら問題ないでしょうけど」
「僕も加勢しますよ?」
「そうね、手を借りるかも。そういう意味でも、ここの戦力は過去最高と言っても過言じゃないわ。あぁ、あちらさんもそういうのを調査したくて、念入りに探りを入れてるのかしら?」
「かもしれんのう。エウィンについても知られていると思った方がよさそうじゃ。むむ? この甘い匂いは……」
「あぁ、アゲハと一緒にドーナツを揚げたの。食べてく?」
「ほう、そんなもんまで作れるとは。エウィン、良い嫁さんをもらったのう」
「結婚してませんけど。と言うか、アゲハさんとは手を繋いだことすら……、いや、それくらいは普通にあるな。魔物から逃げる時とか……」
「なぬ⁉ 里長、エウィンがこんなことを言っとるが?」
「相思相愛の癖に一向に進展しないの、不思議よね。こんなことってある?」
「最近の若者は不思議じゃのう。時代が変わったということか?」
「そんなんじゃなくて、どっちもへっぴり腰なだけでしょう」
「本人を前にそこまで言わなくても……」
「ガハハ! 時には勇気も必要じゃ!」
「痛い痛い、背中叩かないでください」
「よう言うわい。こんだけ叩いても、軸は一切ぶれとらん。里長、こいつは本当に底なしじゃぞい」
「だから私が直々に鍛えてるの。あ、ドーナツの到着よ」
「おう、アゲハ。お邪魔しておるぞ」
「あ、こんばんは」
「ほうほう、美味そうなドーナツが山盛りじゃのう。山盛り……、作り過ぎな気もするが……」
「問題ないわ。エウィンとアゲハが食べきるから」
「え? 僕はそんなに……」
「ガハハ! 今日は俺がいるから安心せい! ほれ、早速食おうぞ」
「ぼ、僕は筋トレがあるので一個だけ……」
「なんじゃ、ドーナツ嫌いなんか?」
「いえ、さっき晩御飯食べたばかりなので……」
「体作りは大事じゃと口が酸っぱくなるくらい言うておるじゃろ。ほれ、もっと食え」
「ぶえっ。食べますから、口に突っ込まないで……」
「おまえさんらは毎日のようにこんなんを作っとるんか?」
「そんなわけないでしょう。そうね、まぁ、あぁ、毎日に近いかも……」
「太るぞ。あ……」
「ドーナツ、成功して良かった。エウィンさん、もう一個、どう?」
「あ、その、じゃあ、頂きます……」
「ホクホクで、甘くて、おいしい」
「……」
「もうちょっと、作った方が、良かったかな?」
「……」
「モーフィスさんも、もっとどうぞ」
「お、おう。頂くとするかのう……」
「おいしい、おいしい」
「……」
「明日は何を、作ろうかな」
「……」
「もち米、また買いに行きたいな」
「……」
コメント
1件
わあ、ドーナツ回……! モーフィスおじいちゃんの「ガハハ!」と、エウィンくんが口にドーナツ突っ込まれて「ぶえっ」てなるのが可愛すぎました(笑)。でもそこからアゲハさんの「……」が続くところ、甘さの中に微妙な距離感がチラッと見えてドキドキしました。毎日一緒にいても手を繋ぐので精一杯な二人、じれったいけど、この空気感がすごく好きです。ほっこりしました🤍