テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「うっひゃあ、ヤバヤバ! ヤバいですって!」
リシェルは空もとろとも、落ちていた。
空に浮かんでいた瓦礫は、今度は逆に地面へ叩きつけられる。
街灯が槍のように降り注ぎ、割れたレンガが砲弾のような勢いで落ちてくる。
そうした質量のある雨が、地面にしっかり根付いていた比較的頑強な建物群を粉砕していく。
祈りを捧げていたゾンビたちも、まとめて地面に叩きつけられる。
腐った身体が潰れ、砕け、骨が飛び散る。
「ハイ! 展開!」
リシェルの真下。ぼふっという音ともに、巨大な白い袋が膨らむ。
彼女はその上に叩きつけられた。
袋が大きく沈み、リシェルの身体を包み込む。
カイルはシンプルに落下してグチャグチャなった。
当然のように再生が始まる。
「……リシェル、お前、それ何だよ」
「これはエアバッグというものです。今はそんなことどうでもいいでしょ!」
「よくはねえだろ、何で俺の分はねえんだよ」
「スペアは二個しかないので。そんなことより空です! 空!」
巨大戦艦の砲台が沈黙していた。
さっきまで空を焼き払っていたレーザーが光を失い、止まっている。
船体もわずかに傾いている。
「何の効果か知らんが、あの戦艦も無事じゃなさそうだ」
「チャンスですよ! 身体はすっごく重いですけど、今なら移動できます。包囲網もメチャクチャですし!」
黒煙に隠れ、リシェルとカイルは駆け出した。
「重力異常? ……リルケの艦隊を破った、ギャングとかいう連中の兵器か」
ムーは不審そうに言った。
眼前のホログラムに表示された数値によれば、船体には常時の五倍の重力がかかっているらしい。
ムーは戦艦内臓のAIに通信をつないだ。
「イクリプス、状況を説明しろ」
『重力干渉を検知。艦体に異常な下向き加速度が発生。姿勢制御に全エネルギーの九十二%を投入』
「砲撃は撃てるか?」
『兵装エネルギーを姿勢維持に転用中。レーザー砲群、現在使用不能』
「……重力ごときで。ただ、完全に手が出ないわけではないだろ?」
『砲台一基の出力であれば可能。ただし、安定度は低下』
「目標は私が視認している。奴らも重力の影響で早くは動けない。外しはしないさ」
『了解。エネルギー充填開始』
無数の砲台の中に一つ、かすかな光りを帯びるものがあった。
やがてエネルギーが収束する。
発射まで、あと一秒となった時。
レーザーの外装が、爆散した。
「何でだぁッ!?」
外側から何らかの衝撃を受けたらしい。レーザー砲に集められていたなけなしのエネルギーが行き場を失い、内部爆発を起こした。
イクリプスがムーの眼前に、ホログラムのモニターを表示してくれた。
見覚えがある飛行船だ。
ムーが忌々し気に言う。
「アゼル・カーヴァンクル!」
飛行船の船内。
軍服を着た何人もの魔族が、砲の再装填や航行装置の調整に走り回っていた。
「良いんですか、一発だけで?」
部下が言った。
銀髪の優男――第二皇子は煙草吹かしながら、望遠鏡で巨大戦艦を眺めている。
「あれと本気の撃ちあいはしない。というか、できないし。目的は嫌がらせさ」
「嫌がらせ?」
「見た感じあの舟は今余裕がないらしい。それでも一機レーザー砲を起動したってことは、何としてでも撃ちたい何かが、あの王都にいたんだろうな」
「この嫌がらせに何の意味が?」
「俺は司令官に向いた性格じゃないが、将の性格は大体わかる。昨日相手した感覚で言えば、ガロンやリルケはともかく、ムーにはこの一発が効く」
「効くとは?」
アゼルが煙草の煙を輪にしながら吐き出した。
「多分今頃、すっげーキレてる」
「……たかが地球の、原始生物ごときがッ!」
ムーはしっかりキレていた。
『兵装ユニット二十二番、完全損壊。エネルギー損失、零・八%』
AIの報告が続く。
ダメージ自体は大きくはない。
それでもムーの心にはチクリチクリと、何かが刺さり続けていた。
宇宙をまたにかける彼らの技術力は地球人の比ではない。
彼らは、文明を征服しない。
解析して、再現して、超える。それが彼らのやり方だった。
だから今、ムーの心は荒れている。
王国の魔術師どもは問題なかった。
彼らの持つ魔法という技術は簡単に解析できた。
ただ、人類の亜種――魔族が現れてから話が変わった。
第二皇子アゼルの飛行船を制圧することは叶わず、彼の能力も謎のままだ。
そして、この世界の住人ではない侵略者たち。
同僚のリルケの艦隊は、ギャングとやらの一団に全員墜落させられた。
他の同族にも、怨霊と交戦し行方不明になったもの、サメに飲み込まれて死んだものがいるらしい。
――何故だ?
――どうして、高度知性体である我々が、二の足を踏んでいる?
――量子演算核であらゆる事象を解析しできる我々が、何故?
――全てを知る私たちが、何故?
カイルが地上からこちらに目を向ける。こちらも奴を視認している以上、あちらかも見えるだろう。
「へえ、ふ力ってお前からも出るのか」
レーザーが撃てないのを見越してか、完全にこちらを侮った顔をしている。
「さてはお前、この世界がわかんなすぎてビビってるな?」
煽り口調でカイルが言った。
ムーの中で、一本の糸が切れた。
「ッ……何だってんだよ、どいつもこいつもよォオオオ!」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!