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シャワーの熱い湯に肌がヒリヒリと痛い。
「…………..もう、どこで温度調節すれば良いのよ!」
シトラスグリーンと表示されたボディソープは優しい泡立ちで木蓮を包み込んだが身体が爽快になった分、メイクと頭皮の不快感が際立った。
「ええーい!」
意を決してメンズ用の洗顔料で崩れた羞恥心を洗い流し、雅樹と同じ香りのシャンプーとコンディショナーで今日1日を洗い流した。
「もう、顔が突っ張る!」
恥ずかしさを誤魔化すように声を出してシャワーを浴びた。ふと見遣った鏡に映る小ぶりな胸、くびれたウェスト、少しふくよかな下腹に触れる。この場所を雅樹が触れる、あの指先で、あの唇で、鼓動が激しく乱れた。
「おい!まだ入ってんのかよ!」
「ぎゃっ!」
「おまえ、そのぎゃっ!て言うのやめろよ」
「………だ、だって突然!」
「インターフォン鳴らしたぞ」
「聞こえなかったわよ!あとタオル!バスタオルは無いの!」
「あ、悪ぃ……….洗濯機の上に置いておくから使って」
「さんきゅ」
ギィ
ドラム型洗濯機の上にはグレーのバスタオルが置かれていた。
(………..え………と、ちょっと待って)
木蓮は戸惑った。部屋の中には既に雅樹が居る。この素裸でどうすれば良いのか。
「ね、ねぇ!」
「なんだよ」
「私、どうしたら良いの!」
「出て来りゃ良いだろ」
「ハードル高いのよ、無理!無理!」
「どうせこれから見られるんだし、遠慮すんなよ」
「無理ー!」
上階と下階の部屋に迷惑だからと木蓮は叫び声を飲み込んで壁伝いにベッドへと向かった。トイレに追いやられた雅樹はかくれんぼ状態でようやく風呂場に辿り着きシャワーのカランを捻った。
(………..勢いで来ちまったけど)
平静を装いつつ雅樹の心臓の鼓動も激しく何度も唾を飲み込んだ。
(本当に良いのか……..良いのか?)
一夜が一夜で済むだろうか。
(………..木蓮だぞ?)
恋焦がれた木蓮と一線を越えた時もう後戻りが出来なくなるのでは無いかという不安が頭を過った。
ぎしっ
レースカーテン越しの街の明かりに雅樹の不安は的中した。
(…………..木蓮)
木蓮を包んだ羽毛布団を剥ぐと柔らかく白い肌が顕れた。無言の時間にベッドの軋む音とシーツの擦れる音だけが聞こえる。
木蓮は恥ずかしさから両手で顔を覆ったがそれは呆気なく雅樹の手によって開かれた。初めは優しく唇を喰んでいたがそれは段々と情熱的に口元を覆い涎の糸が引き舌が差し込まれた。
「ん」
木蓮は呻き声を漏らしながら舌を絡ませ雅樹の首を掻き寄せた。これまでにない淫靡な音が脳髄を白く曇らせる。頬が火照り自然と脚が動くのは缶チューハイのせいでは無い。
(熱い)
雅樹の厚い胸板が木蓮の小ぶりな胸に触れその部分から互いの熱が伝わる。唇が首筋を伝い肩甲骨の窪みを舐め上げた。
「……………….!」
太腿を這い上がる指先が脇を撫で上げ胸の膨らみに辿り着いた。乳輪を撫で乳首に触れると木蓮の体は弓の様に跳ねた。首筋に舌を這わせ木蓮に跨った雅樹は両胸を強弱を付けて揉みしだき始めた。
「やだ、見ないで」
「見たい」
軽く摘むと木蓮は上半身を捩り逃げようとした。
「動かないで」
「む、無理」
乳房を持ち上げ窄めた唇が乳首に吸い付いた。
「あ!」
初めて木蓮から嬌声が上った。艶かしい声に雅樹はその場所を執拗に攻め、茂みへと手を伸ばした。ところがその場所に触れようとした途端に木蓮は身体を硬く縮こめた。
「どうした」
「な……….なんでもない」
指先が膣口に触れたが濡れている気配は無い。
「おまえ、大丈夫なのか。止めるか」
「やめ……….ない」
雅樹は木蓮の両膝を抱え上げると茂みに顔を埋め掻き分け突起を探し出した。両膝が小刻みに震えているが感じている訳では無さそうだ。
雅樹は違和感を感じながらも愛撫を続けた。突起を舌先で刺激しながら中へと指を挿し込む、そこは蕾んだ花の様に開かず初めて肌を合わせた緊張感なのかと戸惑いながら指を抜き差しした。
「おまえ…….緊張してねぇか」
「してないわ」
「なんか」
「黙って…….やめないで」
次第に濡れ始めたが身体は強張ったままだ。
「しても良いのか」
「………..」
「良いのか……….良いんだな」
木蓮は両手で顔を隠したまま強く何度も頷いた。雅樹はコンドームの封を切ると硬くなったそれに先端の空気を抜いたゴムを手早く被せた。木蓮の内股は閉じたままでその間に割入るにはやや力が必要だった。片手を添え膣口にあてがうと木蓮はその背中にしがみ付いた。
(…………!)
めりめりと体内へとめり込む雅樹は熱を帯びはち切れんばかりだった。やや違和感を感じつつもこうなると歯止めが効かない。
「………くっ!」
思い切り腰を押し込むと木蓮の柔らかな中に触れた。2人が結ばれた瞬間だった。大きく脚を開かせると両膝を抑えて腰を前後させる。雅樹は恋焦がれた木蓮の中に入った悦びで無我夢中で動いた。
「木蓮、木蓮」
木蓮の耳元で熱い声が自分の名前を囁く。木蓮は痛みに耐えながらその情熱を受け止め続けた。
「…….くっ……くっ!」
雅樹の呻き声と息遣いが激しくなり木蓮の頬に汗が雫となって垂れた。
(雅樹)
眉間に皺を寄せ唇を噛むその表情を目に焼き付けようと木蓮は雅樹の頬に触れ包み込んだ。
「くうっ!」
(……….痛っ!)
雅樹は木蓮の中へ根本まで押し込むと腰を震わせてコンドームの中にその思いを吐き出しその胸に倒れ込んだ。木蓮はその背中を力いっぱい抱きしめると頬に涙を流した。
「どうした」
「なんでも無い」
雅樹がそれを抜こうと木蓮の股間に目を遣った時、彼は信じられない物を見てしまった。シーツの上には赤茶色の滲みが出来ていた。
「木蓮……….お……..おまえ」
「なに」
「初めてだったのか」
木蓮はこの愛おしくも悲しい一夜に処女を捧げた。
「……….好きな人が良いって決めていたの」
「おまえ馬鹿か」
「………..決めていたの」
もう後戻り出来ない、雅樹はそう確信した。
木蓮は雅樹の寝顔を眺め衣服を身に付けた。音を立てずにドアノブを下ろし湿り気を含んだ白い朝を吸い込んだ。もう2度と開ける事のない810号室の扉を静かに閉め、エレベーターホールに向かった。もう少し、あと少し雅樹の傍に居たかった。
(…………終わった)
無情にもエレベーターは8階で停まっていた。開く扉、踏み入れる足が戸惑いを隠せなかった。振り向いたそこに雅樹が立っていて欲しいと向きを変えたがそこには暖かなオレンジ色の明かりが灯っているだけだった。1階のボタンを押すと扉は静かに閉まった。
(…………終わった、これで本当に終わった)
ポプラ並木の歩道を交差点に向かうと乗客を探したタクシーがスピードを落として近付いて来た。運転席に目を遣り左手を挙げると後部座席が静かに開いた。
「太陽が丘まで」
車窓に寄り掛かり人の気配が消えた街を眺めた。電信柱のごみ収集場にカラスが集まり通り過ぎる時速60kmのタクシーに驚いて舞い上がった。朝日がビルの谷間から差し込み、木蓮の頬に涙が伝った。