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身体が、店内に入った。

足が、早速クラスメートの方へ向かおうとしている。彼らと目を合わないように下を向く。

「何て言えばいいんだろう?」と意志は言った。

震える身体は立ち止まった。

「そんなこと言われたって」

すでに、身体は彼女のテーブルまで来ている。どうにでもなれ。

「あの……日本人の人ですよね?」と、俺は言った。

あの娘は上目遣いに睨みつけてきた。

「何ですか」

「いや、別に……何ってわけじゃないんですけど……いや、何やってんのかなと思いまして……勉強してるんですか?」

「え、まあ一応」彼女は本に目を落とした。

「何読んでるんですか」

「答える必要はありません」

「英語の勉強ですか、大変ですか」

自分でも何を言っているのかわからない。

「あのう……ここ座っていいですか、すいません、邪魔するつもりじゃないですから」

返事はなかった。鞄をテーブルの上に乗せ、椅子一個離れたところに座った。

必死に言葉を捜し続ける。見つからない。

代わりに、心に声が混じり始めた。

(そんなつっけんどんな態度ないんじゃないか? この心臓の鼓動を、そんな簡単に全面否定するのか)

(別にいいよ。あんたになんて俺のこと分かってもらおうとは思っちゃいないさ)

(でも別な見方すると、素晴らしい子じゃないか。これだけガードが固ければ、付き合ってる男はさぞかし安心だろう)

(この娘になんて、俺のことがわかるものか)

声に出してよさそうな言葉は、一つとして見当たらなかった。

小さな笑い声が聴こえた。何がおかしいのか、ジゼルが向こうで口元を押さえている。

(もう充分だ。この娘とはまた廊下ででも会ったときに、軽い挨拶ができればいい。俺は俺なんだ。分からない人はこっちだっていらないよ)

椅子の両サイドに手をついて身体を前かがみにすると、青いビニール地の椅子から尻が離れた。

そのとき、聴き慣れたピアノが店の片隅から響いてきた。

「すいません、ちょっと弾いてきますんで、ちょっとここに置いといていいですか」

俺は、鞄をテーブルの上から座っていた椅子へ移動させた。あの娘は軽く本から目を離した。

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