テラーノベル
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教室は、いつも通りだった。朝のざわめき。
机を引く音。
誰かの笑い声。
その中で、一之瀬ソウヤは静かに席についていた。
窓の外を見ている。
特に何を考えているわけでもない。
ただ――
(……なんか、残ってるな)
昨日の違和感。
消えきらない感覚だけが、頭の奥に残っていた。
「ソウヤ」
結衣が隣に座る。
「今日さ――」
いつも通り、話しかけてくる。
ソウヤも普通に返す。
何もおかしくない。
会話も自然。
――表面上は。
その様子を、少し離れた席から見ている人物がいた。
逢坂柚季(おおさかゆずき)。結衣にとって一番の親友。
短いボブヘアでありツンデレキャラである。
腕を組み、無言で二人を見ている。
(……普通)
第一印象はそれだった。
会話も、動きも、自然。
どこにも違和感はない。
だが。
(さっき)
柚季の視線が、ソウヤに固定される。
ほんの数分前。
ソウヤは、机に手を置いたまま――
一瞬だけ、動きを止めていた。
完全に。
呼吸も、視線も、何もかも。
(止まった)
錯覚じゃない。
確信がある。
(何あれ)
理解できない。
でも。
(気持ち悪い)
その感覚だけははっきりしていた。
「なあ」
後ろから声。
タジだった。
「また観察してんの?」
軽い口調。
柚季は視線を外さない。
「別に」
「いや絶対ロックオンしてるだろ」
「してない」
即答。
タジは苦笑する。
「はいはい」
軽く流す。
でも、その視線は同じ方向を見ていた。
――ソウヤ。
「……見たか?」
タジが小さく言う。
柚季の眉がわずかに動く。
「何のこと」
「さっきの」
「…止まったやつ」
柚季は黙る。
数秒。
それから、小さく答える。
「……見た」
短い肯定。
それだけで十分だった。
タジは少しだけ笑う。
「やっぱな」
「何、あれ」
柚季が聞く。
ストレートな疑問。
タジは肩をすくめる。
「分からん」
「は?」
「いやマジで」
軽く言う。
でも、目は真面目だった。
「たださ」
少しだけ声を落とす。
「普通じゃないのは確定」
その言葉。
柚季はもう一度ソウヤを見る。
今は普通だ。
結衣と話している。
笑ってもいる。
でも。
(さっきのは、何)
違和感は消えない。
昼休み。
屋上。
風が吹く。
ソウヤは一人で立っていた。
フェンスの前。
空を見ている。
(……まただ)
頭の奥に、あの感覚。
薄く、重なる。
(来るな)
そう思った瞬間。
ソウヤの動きが止まる。
完全に静止。
時間が切り取られたように。
その様子を、扉の陰から見ている人物がいた。
柚季。
(また……)
さっきと同じ。
今度は、はっきり見えた。
動いていない。
完全に。
(……何してるの)
次の瞬間。
――見つけた。
“声”ではない。
でも。
意味だけが、空気に混じった気がした。
柚季の背筋に、冷たいものが走る。
(……今の、何)
本能的な違和感。
危険に近い感覚。
ソウヤが動き出す。
何事もなかったように。
そのギャップが、逆に不自然だった。
柚季は扉から離れる。
でも。
足は止まらなかった。
「……一之瀬」
声をかける。
ソウヤが振り向く。
初めて、目が合う。
数秒の沈黙。
柚季ははっきり言った。
「あんた、さっき何してたの?」
ソウヤは眉をひそめる。
「……何が」
「とぼけないで」
一歩、距離を詰める。
「さっき、止まってた」
その言葉。
ソウヤの中で、何かが引っかかる。
「……知らねえよ」
本音だった。
でも。
その“知らない”が、逆に不気味だった。
柚季はじっと見る。
そして、静かに言った。
「……あんた、普通じゃないわよ」
断定だった。
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#不倫