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四月二十日……夜十時三十分……。

巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋では……。


「……えーっと……どうしてこうなったんだ?」


寝室の布団に横になっているのは、ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)である。

ちなみに彼の右隣にいるのがミノリ(吸血鬼)で左隣にいるのがコユリ(本物の天使)である。

ついでに言うと、二人は彼の腕を枕にしている。


「なあ、二人とも。ちょっといいか?」


「……なあにナオト……。あたしに甘えたいのー?」


「マスター……私といいことしましょう……」


彼は二人に話しかけたが、彼女たちはもうすでに夢の中だった。


「……おーい、誰かー。助けてくれー」


彼の小さな願いはナオトの部屋もしくは『四聖獣』の外装の中にいる者《もの》たちには届かなかったが、とある人物のところには届いた。


「はいはーい、呼んだー?」


「ん? なんだ、お袋《ふくろ》か……。いったい何しに来たんだ?」


彼の頭上に現れたのは、彼の母親『本田《ほんだ》 あゆみ』だった。

黒髪ポニーテールと両目を覆っている白いハチマキとスクール水着が特徴的な美幼女である。

なお、スクール水着はパジャマの代わり……らしい。


「何しにって、ナオちゃんを助けに来たのよ」


「いや、だからって夜中に来ることないだろう?」


「あら? もしかして照れてるの? それともお母さんとやりたくなっちゃいそうだから、わざとそんなことを」


「違う、断じて違う。というか、お袋《ふくろ》はどうやってこの世界に来てるんだ?」


「うーん、そうね……。あえて言うなら、愛の力……かしら?」


「……まあ、そういうことにしておこう。それで? お袋《ふくろ》は俺を助けに来てくれたのか? それとも襲いに来たのか?」


「うーん、そうね……。少し味見をしに来たのは事実よ」


「おい、その見た目でそういうことを言うな。そして、スクール水着を脱ごうとするな」


「えー、別にいいじゃない。今さらお母さんの裸《はだか》を見たって、なんとも思わないでしょ?」


その時、彼は彼女から目を逸《そ》らしながら、こう言った。


「いや……その……俺の前以外でそういうことはしてほしくないっていうか……なんというか……。まあ、とにかく……脱衣はなしだ……」


その時、彼女の脳内ではこのように変換されていた。


「あのさ、俺の前以外でそういうことするのやめてくれないか? 母さんの心と体は……もう俺のものなんだから」


「もうー、ナオちゃんってば、いつからそんな恥ずかしいセリフを言えるようになったの? お母さんを妊娠させる気?」


彼女が両手で頬を触《さわ》りながら、顔を真っ赤にすると彼は疑問を浮かべた。


「はぁ? 何でそうなるんだよ。というか、早く助けてくれ。腕が痺《しび》れてきたから」


「それは別にいいけど、私はナオちゃんの体が少し心配よ」


「心配? 俺、何かしたか?」


「あなたは気づいていないかもしれないけど、あなたの体の中にある複数の強大な力はいずれあなたを蝕《むしば》み、死へと至《いた》らしめるものよ。悪いことは言わないから、もうこっちの世界に帰って来なさい」


「……気持ちは嬉しいけど、今はまだそっちには帰れない。俺にはやるべきことがあるから」


「……やるべきこと? やるべきことって何よ。私の可愛い可愛いナオちゃんに、もしものことがあったらって考えると、ろくに夜も眠れないっていうのに」


「……お袋《ふくろ》」


「だいたい、ナオちゃんはいつからこの世界にいるの? こっちから連絡はできないの? ナオちゃんはいつこっちに帰ってくるの?」


彼女の頬を伝《つた》って、彼の額へと落下した透明な液体は少しだけ熱を帯びているのを感じた。


「ねえ、ナオちゃん。お願いだから、もう帰ってきて。私、もう何も失いたくないのよ……。あなたを見る度《たび》に『あの人』の面影を感じてしまうの。だから」


彼は彼女が最後まで言い終わる前に、こう言った。


「俺の『親父《おやじ》』がまだ俺が幼《おさな》かった頃に遠くに行っちまったのは知ってる……。けど、だからって俺もいなくなるとは限らないだろ?」


「でも……その可能性が少なからずあるのは事実でしょう?」


「そりゃそうだろ。未来は誰にも分からないんだから」


「だからって、このままナオちゃんをここに居《い》させるわけには」


その時、ミノリ(吸血鬼)とコユリ(本物の天使)が目を覚ました。まあ、半醒半睡なのだが……。


「ナオトー、まだ起きてるのー? 早く寝なさーい」


「私は別に構いませんけど、夜更かしする悪い子にはイタズラしちゃいますよー」


「あー、はいはい、分かったよ。もう寝るからお前らは先に寝ててくれ」


「はーい。それじゃあ、おやすみー」


「おう、おやすみ。ミノリ」


「……おやすみなさい、マスター……」


「おう、おやすみ。コユリ」


二人は彼が優しく頭を撫でると、スウスウと寝息を立て始めた。


「……俺には、こいつらを元の人間に戻す薬の材料を集めるっていう使命がある。それに、俺はこいつらにとっての心の拠《よ》り所《どころ》なんだよ。だからさ、もう少しだけ待っててくれよ。それが済んだら、元の世界に帰るから」


「じゃあ……して」


「え?」


「私と約束して。今回はそれで我慢するから」


「約束……ね。内容はどうする?」


「そうね……。それじゃあ、例《たと》え、その身がたった一つの細胞だけになったとしても絶対に私のところに帰って来ること……」


「おいおい、無茶言うなよ。俺はそこまで化け物じゃないんだぞ?」


「大丈夫。私との約束は例《たと》え魂だけになろうとも、絶対に守らないといけないものだから」


「そう……だったな……。じゃあ、約束だ。俺は例《たと》え、この身がたった一つの細胞だけになったとしても、お袋《ふくろ》のところへ帰るよ」


「約束よ。絶対だからね」


二人は指切りをすると、お互いの額を重ね合わせた。


「ああ、分かってるよ」


「体に気をつけるのよ? 何かあったら……ううん、何もなくても連絡するのよ? それから、それから」


「あー、はいはい、もう分かったから、早く寝させてくれ」


「わ、分かったわ。それじゃあ、おやすみ。ナオちゃん」


「ああ、おやすみ」


彼女は白い光の粒となって消える前に、彼の両頬に手を当てた。

そして、彼の額に優しくキスをした。

その直後、彼女は白い光の粒となって消えてしまったが、彼は彼女の唇《くちびる》の感触を確かめるように額に手を当てながら、微笑《ほほえ》みを浮かべていた……。


四月二十一日……朝六時……。


「……ナオトさん、起きてください。朝ですよ」


「ナオ兄、起きて。起きないとイタズラしちゃうよ」


「……うーん、あと五年くらい寝かせてくれ……」


ナオトはそんなことを言いながら、寝返りを打った。

それを見たマナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)とシオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)は顔を見合わせると、コクリと頷《うなず》いた。


「ナオトさん……ごめんなさい! カプッ!」


「ナオ兄……ごめんね。あとでちゃんと謝るから。カプッ」


二人はナオトの首筋に噛み付くと、ナオトの血を吸い始めた。


「……う……うーん、もう朝か……。えーっと、今は何時かな……って、おーい、マナミー、シオリー。朝っぱらから何やってるんだー?」


ナオトが二人にそう言うと、二人は幸せそうな顔をしながら、彼に覆い被さるように接近した。


「お、おい、二人とも。まさか俺の血を飲んだのか?」


「はい! とってもおいしかったです! けど、まだまだ足りません! それに体がとっても熱いです! どうにかしてください!」


「ナオ兄……。私を好きにしていいから、この胸の高鳴りを……どうにかして」


完全に発情しきっている彼女たちを見ながら、よしよしと頭を撫でるナオト。

その後、彼は二人の頭をチョップした。


「あいたっ!」


「ふにゃん!」


両手で頭を摩《さす》る二人。少し涙目になりながらも彼にこう言う。


「え、えっと、その……ごめんなさい。つい本能に負けてしまいました」


「そうそう、本能には抗《あらが》えないよー」


「いや、そんなことはないぞ。ちゃんと訓練すれば、本能に抗《あらが》え……」


「ナオトさーん!」


「ナオ兄ー!」


二人は彼が最後まで言い終わる前に、彼の胸に飛び込んだ。


「おいおい、最後まで言わせてくれよ……。というか、珍しいな。お前らが俺を起こしに来るなんて」


「ギクッ! あ、あー、そのえーっと……た、偶《たま》にはいいかなって思っただけですよー。あははははは」


「そ、そうそう、私たちは別に何も隠してなんかないよー」


二人が目を逸《そ》らしながら、そう言ったのを彼は見逃さなかった。


「……そうか。じゃあ、そろそろ起きようかな……」


彼が立ち上がろうとした時、二人はギュッと彼を抱きしめながら、こう言った。


「ダ、ダメです! ナオトさんはまだ寝ててください!」


「そ、そうだよ、ナオ兄。まだ起きちゃダメだよ」


「うーん、そう言われてもな……」


彼は少し考えた。どうやったら、この場から脱出することができるのか……と。(まあ、わずか数秒で思いついたのだが……)


「なあ、マナミ。すまないが、水を持ってきてくれないか?」


「水……ですか?」


「ああ、そうだ。少し喉《のど》が渇《かわ》いたから、至急『水』を持ってきてくれ」


「は、はい、分かりました」


マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)はそう言うと、トタトタと足音を立てながら、台所へ向かった。


「ナオ兄。私は何をすればいいの?」


「うーん、そうだな……。じゃあ、シオリには『種』を持ってきてもらおうかな」


「種? どんな種? 『フ○ギダネ』?」


「いや、違う。『ひまわりの種』だ」


「分かった。『ハ○太郎』に頼んでみる」


「いや、それはやめてくれ。そして、頼むなら、せめてミサキにしてくれ」


「分かった」


シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)はそう言うとミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)のところまでトタトタと足音を立てながら、駆《か》けていった。


「……よし、今のうちに外に出よう」


彼はそう言うと、瞬時に玄関まで移動した。

彼はゆっくりと玄関の扉を少し開けると、誰もいないか確認してから、そっとアパートの二階の廊下へと移動した。


「……あら、ナオト。今日は早いわね。どうしたの?」


アパートの屋根の上にいたのは、ミノリ(吸血鬼)だった。

ナオトはミノリの隣に座ると、こう言った。


「うーん、まあ、あれだ。朝起きたら、俺の隣で寝ていたはずのお前とコユリがいなかったから。その、つまり」


「心細くなって、こんなところまで探しに来た……。そういうこと?」


「まあ、そういうことだ。ところでコユリは今、どこにいるんだ?」


「さぁ? 今日はまだ見てないわ」


「そうか……。なら、少しこの辺りを探してみようかな」


彼が大空へと飛び立とうとした時、彼女は彼の手を握った。


「ねえ、ナオト。あんたはどうやって銀髪天使を説得したの? あたし、途中から銀髪天使の固有魔法の影響を受けてたから、何も分からないのよ」


「え? そうなのか?」


「ええ、そうよ。だから、何か知ってることがあれば教えてちょうだい」


「知ってること……か。じゃあ、こんなのはどうだ? コユリがお前に敵意を向けているのは、なぜか」


「……! あ、あんたもしかして、銀髪天使に無理やり……」


「……俺がそんなことするわけないだろ。というか、お前は俺を何だと思ってるんだ?」


「え? そ、それはもちろん、ロリコンの中のロリコンだと思ってるけど……」


「俺がいつ自分がロリコンだと言った? それに俺はロリコンじゃない」


「否定するっていうことは、それがバレるのを防ぐためよね? ということで、あんたは間違いなくロリコンよ」


「……そんなこと言うやつには、コユリの秘密なんて教えてやらないぞ?」


「ごめんなさい。調子に乗りました」


「よし、じゃあ、話すぞ」


彼は彼女の隣に座ると、コユリがモンスターチルドレンになる前の出来事を話し始めた。

ダンボール箱の中に入っていた〇〇とその同類たちと共に異世界を旅することになった件 〜ダン件〜

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