テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
333
500
#コメディー
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ゴングの音と共に、トニー・ブレイズが爆発的な踏み込みを見せた。
その拳は鋭く、一撃一撃が精密に練り上げられたプロの犯行。空気を切り裂く音がリング上に響き渡るが、アホライダーはまるで見えないレールの上を滑るように、そのすべてを最小限の動きで回避し続けた。
一方、観客席。
「……あんた、この試合どっちが勝つと思う?」
火野が隣に腰を下ろした葉弐に、退屈そうに問いかけた。葉弐は「愚問すぎやしないか?」と鼻で笑うと、ポケットから一枚の紙――「ベッティング・スリップ(賭け票)」を取り出した。
「予選の優勝賞金、全部アホライダーにぶっこんだんだ。五百ドル。アホライダーが勝てば、効率的に倍増する。外すわけねえだろ」
リング上では、トニーの焦りが頂点に達していた。
「お前に二万ドル賭けたんだぞ!」
「ふざけんな、当たれよ!」
観客からの怒号がトニーの背中を焼く。逃げ場を失ったトニーは、勝負をかけて大きくバックステップ。そこから弾丸のような飛び蹴りを放った。
だが、アホライダーはその足をいとも容易く空中で掴み取った。
「……無駄だ」
そのまま無造作に、ゴミでも捨てるように投げ飛ばされたトニーは、リングのロープを越えて場外のコンクリートへ叩きつけられた。全身を襲う激痛と恐怖。
トニーの心は折れ、ガタガタと震え始める。
しかし、観客席のギャンブラーたちの殺気立った視線が、無理やり彼を立ち上がらせた。
震える足でリングへ戻ったトニー。だが、彼を待っていたのはアホライダーの鋼鉄の拳だった。
ドゴォッ!ーー
顔面に直撃した衝撃で、トニーは再びリング外まで吹き飛び、今度は完全に意識を失った。
『勝者、アホライダー!!』
審判の声が響いた瞬間、会場は地響きのような罵声に包まれた。
価値を失い、ただのゴミと化した「ハズレの賭け票」が雪のようにリングへ投げ捨てられ、宙を舞う。
「……ひっひっひ。これは優勝賞金すら超える額が手に入るぞ」
舞い散る紙屑を見上げながら、葉弐は下卑た笑みを浮かべ、涎を垂らした。
担架で運ばれていくトニーに一瞥もくれず、アホライダーは観客席へと戻っていく。
続いて行われるのは、招待選手クライデンvsビクター・ガロ。両者共に岩石のような筋肉を持つ巨漢同士の対戦だ。
それを見た葉弐は、鼻をほじりながら
「んあー、パスだなぁ」
と興味なさげに席を立った。
「換金所へ行ってくる。効率的に回収しないとな」
アホライダーが火野の隣に座ると、彼女は細いタバコを差し出した。
「どうする? 相手の出方、見ておく?」
「いや……見るほどのものじゃない」
アホライダーはタバコに火をつけ、静かに煙を吐き出した。巨漢同士の衝突音も、彼にとってはただの雑音に過ぎないようだった。
やがて、ドル袋を肩に担いで満面の笑みの葉弐が戻ってきた。
「ホクホクだぜ……!」
その後、第二試合、第三試合と淡々と進み、いよいよ第四試合のアナウンスが流れる。
「……僕の番だな」
葉弐は袋の中から五百ドルを取り出し、火野の手に握らせた。
「これを僕にかけておいてくれ。自分に賭けるのが、一番効率的な投資だからな」
不敵な笑みを残し、葉弐は暗い控え室への通路へと消えていった。