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怪我の状態から、私はヘレーナ嬢に危害を加えたのではないかと疑われることになった。

伯爵家の令嬢である私が、彼女よりも身分的には下であるのも関係しているかもしれない。

そんな私に追い打ちをかけるように、ヘレーナ嬢は証言をした。私が急に彼女を襲ったと主張し始めたのである。


「イルティナ嬢、我々騎士団をあまり舐めないでもらいたい。あなたが何かしらの魔法によって、ヘレーナ嬢に危害を加えたのはわかっているんだ」

「私はそのようなことはしていません」

「わからないのか? 証拠はもうあるんだ。魔法を使ったら、その痕跡が残るものなんだ」


取調室にて私の取り調べをしている若い騎士は、私の主張をまったく聞いてくれなかった。

騎士団は誇り高き人達が集まっているとされているが、中には強引な者もいるというのが、実情である。

どうやら私は、悪い騎士に当たってしまったようだ。これはこのまま、手柄のための冤罪を被せられかねない。


「あまり聞き訳がないと、こちらも今以上の手段を取らざるを得なくなる。一人の紳士として、そのようなことはしたくない」

「……拷問などの類は禁止されていますよ」

「もちろんわかっている。ただ、禁止されることでも時と場合によってはやらなければならないこともあるということだ」


若い騎士は、私のことを睨みつけてきた。

彼はとんでもないことを言っている。悪い騎士所か、彼は騎士の中でも最低辺の存在かもしれない。騎士団が特権階級であるとか、思っているのだろうか。


「なるほど、騎士団とは随分と強引なものですね」

「うん?」

「え?」


私が色々と考えていると、目の前に見知った少女が現れた。

それは間違いなく、私の妹であるエルメラだ。しかしどうやってここに来たのだろうか。私も若い騎士も、彼女の存在をまったく認識できていなかった。


「な、何者だ? ここがどういった場所であるか、わかっているのか!」

「わかっていますとも。ただあなたは、黙っていてください。それ以上その口を開いたら、容赦はしません」

「舐めるな――あえっ?」


若い騎士は、エルメラに対して拳を振るおうとした。

しかし彼は、直後に白目を向いた。そのまま彼は、崩れ落ちる。

泡を吹いて倒れた若い騎士に、エルメラは視線を向けない。何かしらの魔法によって、彼は一瞬の内に気絶させられたようだ。


わかっていたことではあるのだが、エルメラの魔法の技術にはいつも驚かされてしまう。

このようなことができる魔法使いは、他には数える程しかないはずだ。そして恐らく、それができる人の中でも、エルメラは飛びぬけた実力者であるだろう。


「後遺症は残るかもしれませんが、殺してはいないから安心してください」

「それは、安心していいことではないように思えるけれど」

「まあ、どの道彼は処刑されるでしょうから、問題ありませんよ」

「しょ、処刑?」


突然現れたエルメラは、とても物騒なことを口にした。

ただ所業を考えると、それはあながち冗談とも言いにくい。もしも私に言ったことが明るみに出れば、そうなるだろう。

しかし、それを立証するのは難しいように思える。証拠も残っていないし、騎士団側も処刑は避けたいため、謝罪や減給くらいで、済ませるのではないだろうか。


「お姉様には知らせていませんでしたが、お姉様が見たことや聞いたことは記録されているのです」

「え?」

「そのような魔法を私がかけています。彼の暴言の数々も先程まで聞いていました。次期騎士団長筆頭であるチャルア殿下やドルギア殿下と一緒に」


エルメラが言葉を発した直後、取調室の戸が勢いよく開いた。

するとそこから、ドルギア殿下とその兄であるチャルア殿下が入ってきた。二人とも、焦ったような顔をしている。


「エ、エルメラ嬢、これは……」

「チャルア殿下、私は先程あなたに見せたものを世間に公開します。騎士団には反省してもらわなければなりませんからね」

「……なるほど」

「それから、下らない侯爵令嬢の妄言に踊らされたということも、世間の皆様方には知っていただかなければなりませんね。まあ、その後に待っている批判は、あなたが治めてください。どうせ今の騎士団長は辞任せざるを得ないでしょうから」

「敵わないな、エルメラ嬢には……」


エルメラは、私から視線をそらさずにチャルア殿下と話していた。

彼女の言葉の節々からは、激しい怒りが読み取れる。それは私のために、怒ってくれているということだろうか。


「ドルギア殿下、あなたがお姉様のことをちゃんと見ていないから、こんなことになったということは自覚していただきたいですね」

「それについては、申し訳ありません。僕がついていながら……」

「とはいえ、あなたがお姉様に対して防護魔法をかけていたことは評価します。人を見る目はあるようですね?」

「まあ、少し嫌な予感がしましたから……」


エルメラの言葉に、私は驚くことになった。

ドルギア殿下が防護魔法をかけていたなんて、まったく気付いていなかったからだ。

ただ、彼はあの時瞬時に状況を理解していた。それはヘレーナ嬢が危険人物であるかもしれないと、薄々思っていたからということだったのだろうか。


「まあ、私の防衛魔法の方が今回は優先された訳ですが……」

「防衛魔法?」

「お姉様に危害を加えようとする者に対して、反応する魔法です」

「そんなものが、私に……」


エルメラの説明に、私はさらに驚くことになった。

どうやら、私は知らない間に色々な方法で守られていたらしい。その事実に思考が追いつかず、私は困惑するのだった。


「驚かれるのも無理はないことだとは思います。ただこれは、仕方ないことなのです」


自分に様々な魔法がかかっていたという事実に困惑している私に、エルメラは神妙な面持ちで言葉をかけてきた。

彼女の表情は、いつになく暗い。それは恐らく、これから話すことがこの妹にとって、明るい話ではないということだろう。


「私という存在は偉大な存在です。しかし偉大だからこその欠点があります。私の才能を巡って、様々な思惑が渦巻いているのです」

「思惑……それは、そうなのでしょうね」

「私を始末しようとする人、手に入れようとする人、その思想は様々です。そういった者達は、時に非道な手段に出る。私と直接狙ったり……私の家族を狙ったり」

「……」


エルメラの言葉に、私は驚くことになった。自分が狙われているなんて、まったく考えていなかったことだからだ。

しかし言われてみれば、それは呑気な考えでしかなかったといえるだろう。

エルメラの才能に対して、陰謀が渦巻くのは当然だ。それに家族の私が関わることなんて、簡単に予測できたことだろう。


「……ありがとう、エルメラ。あなたはずっと私のことを守ってくれていたのね?」

「……守るという程、大袈裟なことはしていません。ただ魔法を作っただけです。お姉様を私の事情に巻き込まないために」

「別に巻き込むことを申し訳ないとか思う必要はないのよ? 私達は家族なのだから」


エルメラはそういった陰謀に、今までたった一人で立ち向かってきたのだろうか。

それはきっと、苦しい戦いだったはずだ。しかもその戦いは、これからも終わることなく続いていく。

私に何ができるかはわからないが、できることならエルメラを支えてあげたい。姉として、私はそう思う。


「……でも、よく考えてみれば私のプライバシーがあなたに知られている訳なのよね?」

「え? ああ、その点は安心してください。何かあった時に見るために記録しているだけですから。今回の場合以外は、見たりしません」

「まあ、それならいいのかしらね? でも例えば、私の任意で切り替えたりできないの?」

「現状は難しいですね。改良したいとは思っているのですが……」

「そういうことなら仕方ないわね。私の身を守るためでもある訳だし、その辺は割り切るしかないかしら」


エルメラの魔法は、私の身を守るためのものだ。

今回の時のように冤罪をかけられる可能性もあるため、多少の恥ずかしさは受け入れるべきだろう。

まあ本人も必要な時以外は見ないと言っている訳だし、気にする必要はないと思っておこう。


「さてと、そろそろ俺に話させてもらってもいいか?」

「ああ、そういえば……すみません。存在を忘れていました」

「まったく、エルメラ嬢は厳しいな。まあ、仕方ないか」


エルメラの話が一段落して、チャルア殿下が口を開いた。

彼は気まずそうに頭をかきながら、私に視線を移す。天下の第二王子であっても、エルメラには敵わないようだ。


「イルティナ嬢、今回の件は申し訳なかった。騎士団に最も深く関わっている王族である俺が、代表して謝罪しよう」

「ああいえ、個人の問題ですから」

「この取調室であったことはそうだが、そもそも捜査の発端からが間違いだ。ヘレーナ嬢という立場の強い者の発言を優先した。それは、騎士団として恥ずべきことだ」


チャルア殿下は、悔しそうな顔をしていた。

彼は、何れ騎士団を背負うと言われている。そんな彼にとって、騎士団の失態はとても心苦しいものなのだろう。


そんな彼は、これからさらに追い詰められることになる。エルメラが私の見たものを公開すれば、騎士団はかなり批判されるだろう。

とはいえ、私のような被害者がこれ以上出ないように、騎士団には反省してもらわなければならない。そのため、私としてもエルメラの言っていたことは実行するべきだと強く思っている。


「ドルギアに事態を知らされた時には、かなり驚いたものだ。何かある前に、間に合って良かった」

「ドルギア殿下は、チャルア殿下を呼びに行っていたのですね?」

「ええ、こういう時には兄上が一番働きかけられますからね……ついでに、エルメラ嬢――というかアーガント伯爵家にも連絡しました」

「その知らせを受けて、私が飛んできた訳です」


ドルギア殿下は、私のためにかなり動いてくれていたようだ。

そのことが、私は嬉しかった。エルメラといい、私は周りの人々に恵まれているといえる。


「まあ、何はともあれ、あなたをこれ以上拘束したりはしない。改めて話を聞かせてもらうことになるとは思うが……」

「私が記録した映像がありますから、お姉様が正当なる防衛をしたことは証明されるでしょう。まあ仮に非があるとすれば、私ということになります。ヘレーナ嬢が傷ついた魔法は、私がかけたものですから」

「チャルア殿下、ヘレーナ嬢の権力などでこの件を有耶無耶にしないでくださいね」

「もちろんだとも」


エルメラの言葉に、私はチャルア殿下に強く進言したくなった。

こんなことでエルメラの経歴に傷がつくなんて、とんでもないことだ。今回の件は、改めて厳正に考えてもらいたいものである。

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