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「それは大変だね。住むところも探さないといけないし……」

(やばい! このままじゃ社長の思うツボだよ)

「大丈夫です! 友人のところにとりあえず……」

「そんなの長く続かないだろ? 今は仕事も忙しいし、不規則な生活だ。友達もいい迷惑だな。ワンルームの部屋に深夜に帰ってきたり、朝早く出かけたり……。

それに、水崎さんは休みも少なくて不動産屋に行く暇もないだろうし。ああ、かわいそう」

「誰のせいですか!!」

“あんたの会社のためにやってるのに!”と思わず麻耶は声を上げた。

(あっ! しまった!)

「だから、僕の家に置いてあげるって言ってるんだよ? 君の働く会社の社長として、路頭に迷う社員を放ってはおけないからね」

(“僕”? 僕って誰よ……さっきまでさんざん“俺”って言ってたくせに!)

ニヤリと口角を上げ、妖艶ともいえる表情を向ける芳也に、麻耶は唇を噛んだ。

「……それで? 私に何をしろと? まさか、本当に体で……」

そこまで言って麻耶は、自分の体を腕で抱きしめるようにして、後ろに身を引いた。

すると、あざ笑うかのような顔をした芳也がこう言った。

「女には困ってない。お前の体なんかに興味あるわけないだろ?」


まるで「お前は馬鹿か?」という声が聞こえてくるようで、麻耶はキッと睨みつけた。

「まあ、お前はとりあえず俺の言うことだけ聞いてればいいんだよ。とりあえずそれで、この家に置いてやる」

「でも、こんな豪華なところを折半できるような給料、私もらってません!」

“あんただって知ってるでしょ?”とでも言いたげに、麻耶は言葉を投げつけた。

「だから言っただろ? 言われたことだけすればいいって。お前から金を取ろうなんて思ってないよ。……俺を誰だと思ってるんだ?」

“ふざけるなよ”とでも言いそうな物言いに、麻耶はグッと黙った。

(……何か裏がある? でも……こんな素敵なところに住まわせてもらえるのは、正直かなり魅力……。

あの家には帰りたくないし、貯金もほとんどないし……うーん)

考え込む麻耶を見て、芳也はクスクスと笑うと、さらりと言い放った。

「契約成立な。お前は、ただ俺の役に立ってくれればいいんだよ。とりあえずお前の部屋は、廊下の右の部屋。

それと、一緒に住んでいても、俺が何も言わないうちは俺に構わなくていい。お前は自由にしてろ。

俺の寝室に入らなければ、あとは勝手にしてくれていい」

「……はい」

悔しさを抑え込み、なんとか返事をした麻耶に、「じゃあ、俺はもう会社に行くから」と立ち上がった芳也。

「え? 朝食は? もう? まだ7時前ですよ」

「俺は忙しい。お前は、まだ時間があるなら適当に冷蔵庫の中身を使えばいいけど……。まあ、食べられるものはないだろうな」

「へ?」

その意味がすぐには理解できずにいる麻耶をよそに、芳也はさっさと自分の部屋へ入っていってしまった。

しばらくそのまま、コーヒーを飲みながらぼんやり座っていた麻耶の前に、やがてピシッとスーツを着こなした芳也が、いつも通りの姿で現れた。

「このことは、絶対会社でバラすなよ。それと……俺には惚れるな」

ニヤリと笑い、それだけを言い残して、嵐のように芳也は家を出て行った。

(どうなってるの? これ……え? 惚れるな? はあ? 誰が誰に??)

麻耶が呆然としているところに、もう一度「ガチャ」と玄関のドアが開く音がした。

「ここにお前の鍵、置いとくから。下のコンシェルジュには俺から話を通しておく」

それだけが遠く玄関から聞こえると、すぐに「バタン」と扉が閉まる音がした。

「誰が、あんたなんか好きになるもんですか!!」

すでに閉じられた扉に向かって、麻耶は思いきり叫んでいた。

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