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(あー! むかつく! 何よそれ!! 女はみんな自分に惚れるとでも思ってるの?)

「はあ……」

失恋して泣きたかったはずの麻耶だったが、そんな涙はとうにどこかへ行ってしまい、キョロキョロと部屋を見渡したあと、キッチンへと足を踏み入れた。

キレイに片付けられた――というより、使われていないと言ったほうが正しそうなキッチンを見渡し、冷蔵庫に手をかけた。

(これは……。確かに食べるもの、ないな……)

麻耶は、ビールとミネラルウォーターだけが入った冷蔵庫を眺めて、ため息をついた。

キッチンの備え付けの扉を開けると、冷蔵庫とは対照的に、鍋やフライパン、調理道具はきちんと揃っていた。

(やる気はあったのかな? それとも昔は誰かと一緒に住んでたのかな?)

そんなことを思いながら扉を閉め、朝食を食べるのは諦めて、早めに家を出てどこかで朝食を取ることに決めた。

基本的に、式のない平日はプランナーの朝はゆっくりだ。

フレックス制を導入しており、11時〜20時が基本の勤務時間。

とはいえ、今は式場オープン前の準備期間。仕事は山ほどある。

(とりあえず荷物を片付けて……。社長だって、こんなに早く仕事に行くんだもんね。……性格は最低だけど、仕事はやっぱり一生懸命なんだな。

私だって会社の一員として、この新しい式場を成功させたいし。住むところを提供してもらえるなら文句は言えないし……)

麻耶はブツブツと独り言のように呟きながら、スーツケースを持って、使っていいと言われた部屋へと入った。

(うわー!!)

その部屋には大きな窓があり、朝の光がたっぷりと降り注いでいた。

居候の自分にはもったいないほどの空間だった。

12帖ほどの部屋にはセミダブルのベッドがあり、机やクローゼットも備え付け。テレビまで置かれていた。

まるでホテルのようなその部屋は、リビングとは違って少し可愛らしい雰囲気があり、麻耶は思わず笑顔になってベッドに飛び込んだ。

(なんでこのベッドがあるのに、昨日一緒に寝なきゃいけなかったのよ。

絶対あの社長の性格からして、この展開に持っていくための嫌がらせだよね)

ふつふつと湧き上がる怒りを抑えていると、昨日ふわりと優しく抱きしめられた温かい腕を、なぜか思い出してしまい、麻耶は赤面した。

優しく包まれるようなその腕に、安心して眠りについたことを思い出して――

(いやいや、失恋してちょっと弱ってただけだよ)

そう自分に言い訳をしながら、麻耶はクローゼットにスーツケースの中身を移し替え、化粧をしてふと何かを思い出したように携帯を手に取った。

着信:5件

LINE:10件

麻耶は、着信履歴の『基樹』の文字を確認すると、LINEの内容を開くことなく、携帯の電源を切った。

(今は何も聞きたくないし、話したくもないよ。携帯の番号……変えようかな。でも仕事とかで困るしな……)

大きくため息をついてカバンを手に持ち、玄関に置かれたカードキーを取り上げると、扉を開けた。

キョロキョロと周囲を見渡して、ワンフロアに一部屋しかないことに気づいた麻耶は、再び驚いて目を見開いた。

(社長って、こんなところに住めるんだ……)

大きくため息をついたあと、エレベーターで1階のエントランスに降りると、そこはまるでホテルのようだった。

天井は高く、シャンデリアが飾られ、さらには滝のような水のオブジェまで流れている。

あ然としてしばらくエレベーターを降りた場所で立ち尽くしていた麻耶だったが――

「お出かけですか? 水崎さま?」

その声に我に返り、麻耶は声の主のほうを見た。

「ご挨拶が遅くなりました。このマンションのコンシェルジュの吉川と申します。先ほど宮田様より伺っております」

ニコリと上品な微笑みを浮かべた30代後半の男性は、綺麗な顔立ちはもちろん、品があり、優しそうな雰囲気の人だった。

「あっ、はい。よろしくお願いいたします」

慌てて麻耶も挨拶を返すと、エントランスから外へ出た。

(うわー、なんか朝から緊張したな)

麻耶は後ろにそびえ立つマンションを見上げた。



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